EPISODE 7 ~決戦!宇佐見銀行の元凶
このストーリーの閲覧者は前作よりは少ない気がするネ
やっぱり「融資」とかは受けない傾向なのか
陽は昇った。
雀の囀りが窓から入ってくる。
疲労疲弊ですぐに眠りについた3人は次第に目を覚ましていく。
最初に起きたのはぬえであった。
ソファで眠っていた彼女は顔を上げ、立ち上がった。
この後待ち受けることを予測させないような平和な朝。
気持ちの良い目覚めが彼女をリラックスさせる。
「ふわぁ~」
欠伸しながらも、スーツ服のまま眠ってしまった彼女は服の身嗜みを整えた。
するとそんな彼女につられて2人が目を覚ます。
「ん・・・」
「・・・わ~」
2人も深い眠りから覚め、疲れが取れた万全の身体を取り戻した。
「・・・服もこのままで寝ちゃったのね」
「皺だらけだけど・・・ま、気にしない」
2人は着ていたスーツのまま雑魚寝したことに後悔はしていなかった。
「・・・皆さん、今日は黒幕である衣玖の正体を曝す日ですよ・・・」
「何も恐れることは無いわ、今やるべき正義を貫けばいいのよ」
サリエルは壁に掛けられたセノヴァを右手で取った。
「今やるべき正義・・・」
ぬえはそんなサリエルの言葉に反応し、深く考えた。
「そう、私たちは正しいのよ」
「でもそれって、向こうも正しいと思ってるからこんな争いに発展したのだと・・・」
ぬえは何か難しいことを考えていた。
「私は衣玖を赦すつもりは毛頭も無いですが、衣玖も衣玖なりの・・・」
「敵に同情したら負けじゃない?それは「向こうの正義」に賛同することと同等よ」
サリエルは自分の意見をはっきりと口にした。
「ま、私たちには共通の敵がいることに変わりは無い。いずれ戦わなくてはいけない存在だからな」
夢美はハイドロガンの整備を行っていた。
中を開き、銃口などを濡れタオルでしっかりと磨く。
「そもそも賄賂を貰ってる時点で「悪」確定なのよ。奴に正義は無い」
「・・・そうですよね、何か私が間違ってました」
ぬえもショットガンの整備を終え、右手で持っていた。
「奴は今日会議があります。そこに乗り込んで今までの事実をそこで話します。
奴は激昂するので、きっと激しい戦いが予想されますが・・・」
「・・・最終決戦ね。ここを陥れた黒幕との闘いよ」
研磨していたサリエル。
合体剣セノヴァを1つ1つ丁寧に彼女は砥石で研磨していく。
やがて剣は光を反射する程綺麗になった。
「・・・行こう、奴を倒すために」
1通り準備を終えた彼女たちに、もう後悔は無い。
あるのは待っているであろう黒幕との戦いだ。
δ
セダンに乗り込み、朝の通勤ラッシュ帯の渋滞に引っかかる一行。
その間に適当にスナックパンを食べ、腹ごしらえをする。
「やっぱり朝の渋滞は地獄ですね・・・」
バックミラーに映るのは車、車、車。
四面車線の大通りも今は車の森となっている。
バスやトラックなど、あらゆる車がこの渋滞に飲みこまれる。
「このラッシュ帯、あまり経験したこと無いんだよな・・・」
「確かにサリエルは車、運転することが少ないからね」
サリエルは一応経営者であるため、契約などの拍子には企業へ赴いたりするが、いつもは会社にいる。
あまり会社から離れていないのが現実であった。
「大企業と戦うなんて、私には初めての経験だからなぁ・・・。
・・・でも、いい思い出にはなりそうだよ」
「このままハッピーエンドで終われば、の話だけどね」
車は一行に進む気配を見せない。
歩行者の方が車をすいすい抜かしていく。
「・・・何かイライラするわね」
イライラを募らせること早15分。
急に車はすいすい動くようになり、サリエルは慌てた。
「お、動いた!」
渋滞の動かなさに憔悴していた2人は眠さに負け、寝ていたのであった。
サリエルはそれに気づき、起こさないように車を運転した。
どうやら前方で事故が起きていたらしく、それに詰まった後方車両が渋滞に遭ったらしいのだ。
面倒くさいことをしてくれたものである。
「この事故の所為か・・・」
途中で片側二面から片側一面になっていた。
すると車のフロントガラスには宇佐見銀行本店の社屋が映る。
「・・・遂に・・・」
2人も目が覚め、目の前に映った戦いの場を見据えた。
「・・・ああ、見えてきた・・・」
「ふわ~」
眠たそうな2人の顔。
サリエルはそれとは対照的に複雑な感情を込めた上での真剣な顔をしていた。
「・・・2人とも、もうそろそろだから準備くらいはしときなさいよ。
・・・だって、私たちの最後の闘いよ」
「・・・そうだな・・・」
背伸びをして目覚めた夢美はハイドロガンをしっかりと構えていた。
ぬえもショットガンの整備を最後にもう1度行っていた。
車は宇佐見銀行本店の駐車場に止まり、3人はそこから降り立った。
朝の暖かな日差しが3人を照らす。
スーツ服姿の彼女たちに、これから戦いがあるとは誰も予想だにしないだろう。
「・・・」
無言のまま、3人は立派な本店のビル内へと足を踏み入れた。
レッドカーペットの上を歩く3人。
行く先はもう分かっていた―――会議室である。
頭取も直接出席する、最上階での会議室にて行われるこれからの融資案件の会議。
・・・衣玖は再び過大融資を行うつもりだろう。
多くの銀行員が行き交う中、3人はそのままエレベーターに乗り込んだ。
押したボタンは最上階。
途中で何回かエレベーターが止まっていく中、同時に乗っていた行員たちの数は減っていく。
そして最上階へ向かうエレベーター前に乗っていたのは彼女たちだけとなった。
「・・・もう覚悟は出来てる?」
サリエルはそう2人に問うと、彼女たちは静かにそっと頷いた。
エレベーターの最上階の部分が点灯し、目の前が急に明るくなった。
視界に広がる美しき眺望。
ビルが林立する世界を一望出来るその眺めは素晴らしいものであった。
そして奥に存在した部屋―――会議室。
そこで衣玖と蓮子、マエリベリーの3人と思わしき存在が何やら喧嘩をしていた。
マエリベリーが声を荒げる。
「衣玖は詐欺師なんだよ蓮子!もう騙されないで!」
「何を言ってるんですか、専務・・・フフフ」
意地汚そうに笑う彼女の声が3人の耳元に入る。
「マエリベリー、衣玖は詐欺師なんかではない、安心できる常務じゃないか」
「目を覚ましてよ!何処からどう見てもおかしい書類を作ってた・・・」
「これ以上私の存在を貶すようでしたら、名誉棄損で訴えますよ?」
衣玖の鋭い声がマエリベリーに刺さる。
「・・・どうして・・・どうして真実を受け入れてくれないの・・・」
「落ち着けマエリベリー、お前が一番感情的になってるぞ」
「専務、立場が上だからと言ってそんな発言を繰り返しているようであればパワハラ扱いにも為りかねませんよ?
私が貴方に不快な発言を沢山受けた、と証言すれば終わりなのですからね」
衣玖はいい気になりながらマエリベリーを見ていたことであろう。
名誉棄損、パワハラと言う盾を作りだしては攻める衣玖。
「・・・誰か・・・」
彼女の心の本音が小さく漏れた。
その声は2人には届かなかったかもしれない。
が、サリエルの耳にはしっかりと届いた。
「・・・行こう。ぬえ、夢美」
「・・・分かりました」
「・・・後悔はしてませんね」
3人はそのまま修羅場と化した会議室へ突然雪崩れ込んだ。
蓮子たちは腰を引くが、マエリベリーは救世主の登場に嬉しそうであった。
「さ、サリエルさん達!」
「もう安心して下さい、衣玖の正体を完全に暴き出しましょう」
サリエルは衣玖を見据えて言い放った。
当の衣玖はそんなサリエルを蔑んだ目で見ている。
「・・・で、本日はどのようなご用件で?東方重工さん」
「衣玖、お前の仕業の所為で私の会社は融資を受けられなくなった。
・・・お前がここで月麗カンパニーと裏で結ばれていたことを証明してやろう!」
蓮子は驚いたが、衣玖は余裕そうな表情で笑っていた。
「・・・やれるものなら、やってみな」
「ああ、やってやるさ」
ここでサリエルが取り出したのは天子の録音であった。
部下である天子は衣玖の融資について録音機の中で証言していた。
その時、彼女から涼しい表情が消える。
「・・・」
天子が部下だったことは否定出来ない。それは周知の事実なのであった。
その彼女の証言は彼女を固まらせる。
足を震わせ、さっきまでの余裕は風が振り払ったの如く消え去った。
「・・・わ、私はそ、そんな・・・」
必死に言い訳を考えようとする衣玖。
すると急に開き直って大声で3人に言い放った。
「でもそれは脅されて発言されたものかもしれない!
根も葉もない事実を貴方たちがくっつけただけのかもしれない!
ちゃんとした証拠を出せ!証拠を!証拠だよ!」
直接的な証拠を出すことを要求した衣玖。
しかしこんなことなどサリエルの想定内だ。
「・・・諦めの悪い常務ですね。・・・ならマエリベリーさん」
同じ衣玖に恨みを買っているマエリベリーにサリエルは問う。
「はい、一体・・・」
「以前見せて貰った、月麗カンパニーと衣玖の関係が示されたあの書類の写真をもう1度見せてもらえませんか?」
するとマエリベリーは承諾し、携帯に保存された、衣玖の裏が描かれた写真を見せた。
蓮子はそんな衣玖に驚きを隠せない。
「い、衣玖・・・」
当の衣玖はその証拠に手も足も出ない・・・はずであったが足掻き続ける。
「そんなのは出鱈目です!第一、ここにその書類が無いじゃないですか!」
「ええ、そりゃあありませんよ。強盗によって盗られましたから」
その時、衣玖の顔から血の気が引いていくのが分かった。
するとぬえは鞄からDVDレコーダーを取り出し、電源を付けるとマエリベリー宅につけられた防犯カメラの映像が流れる。
画面内では強盗が書類を盗んでいくのが分かった。
が、強盗は覆面で正体が分からない。
「で、この映像と合わせてこちらもお聞きください」
ぬえは2つ目の録音機を取り出すと、そこからは衣玖の自白が流れ出した。
この録音によって防犯カメラに映った強盗は衣玖だと証明されたのだ。
「・・・衣玖さん、貴方が直接書類を抹殺する為に強盗を犯した・・・違いますか?」
すると衣玖は体を震わせ、下を俯いたと思った―――が、その瞬間。
「クックック・・・フハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
気が狂ったかのように笑い出した衣玖。
その姿にマエリベリーと蓮子は身を引いた。
「そうだよ!ああ、そうだよ!
お前ら情弱企業なんて知ったこっちゃない!私は私、貴方たちなんか知らない!」
とうとうやけくそになった衣玖は本音を語り始めた。
「月麗カンパニーからサミニウムを貰った!ああ、私だよ!
だから私はその見返りとして過大融資を行ったんだ!何が悪い!」
全く悪びれた様子を見せない衣玖にサリエルは本気で怒った。
背中の剣を抜き、両手を広げて蔑んでいる衣玖に向かって剣先を向けた。
「お前は本当に死んでもいい奴だ・・・私が直感で感じた」
「死んでもいい?何様のつもりかな?神様?仏様?ん?ん?」
煽り口調で話す彼女に目を充血させたサリエル。
「・・・どうやら本気で倒されたいんようですね・・・」
「あはははははははは!」
壊れた衣玖は鞄の中に常備していたであろう折り畳み式の剣を取りだした。
伸ばすと2mは長さを誇る剣を右手で構え、3人の前で立ち塞がった。
そして右手を上に翳すと、衣玖の前に3人のガードマンが小刀を構えて現れた。
「知ってはいけない事実を追い求めたからこうなるんだよ・・・サリエル!夢美!ぬえ!
・・・ここで消えろ!そして二度とその面をこの世界で見せるな!」
δ
衣玖は構えた剣で一気にサリエルに突っ込むが、サリエルがセノヴァで防いでしまう。
が、1人のガードマンがその隙を狙ってサリエルに襲い掛かった。
だが、そうはさせまいとぬえがショットガンでガードマンの小刀を撃ち抜く。
小刀は空中を舞った。
「衣玖・・・お前は愚かだ・・・!」
サリエルは衣玖を力で薙ぎ払うと、彼女はジャンプして着地した。
そしてガードマンに指令を下す。
「今よ、奴らをやっつけなさい!」
ガードマン2人は衣玖の指令を受けて小刀を構えて襲い掛かるが、そこに夢美が入った。
「関係ない人たちは退場願いますよ!」
ハイドロガンを構えて彼女は引き金を引いた。
気圧が凝固した銃弾は一気に2人に襲い掛かるが、訓練を受けたガードマンは回転回避で避けてしまう。
「今だ!」
サリエルは2人は降り立った瞬間、セノヴァを構えて一気に斬りかかった。
が、途中で衣玖に剣で塞がれてしまう。
「お前の相手は私だ・・・!」
衣玖はすぐにサリエルを薙ぎ払い、彼女を遠くに飛ばす。
「きゃあああああ!!!」
彼女はそのまま硝子を突き抜け、最上階の縁に摑まっていた。
「さ、サリエル!今助けるからな!」
夢美はサリエルを助けようとするが、ガードマン3人はそれを赦さなかった。
助けに行こうとする夢美に銃に持ち変えて一斉射撃を行った。
「そうはさせません!」
ぬえがショットガンを構え、3人に向かって射撃を行う。
夢美はひとまずサリエルの元から離れ、ハイドロガンを構える。
硝子は銃弾によって傷つけられ、穴が開いていく。
「喰らえ!」
夢美が狙って引き金を引いた瞬間、3人の足にそれぞれ着弾し、3人は地面に崩れ落ちた。
その瞬間に近くにいたぬえがサリエルを助け、サリエルは復活する。
「危ないとこだったね・・・!」
ガードマンは全員足を負傷して動けなそうであった。
―――戦いはここからである。
「衣玖、お前との決着をつける!」
「・・・そうか、哀れな子供達だ。
・・・『miser』、この言葉が貴方たちにはぴったりですね」
「ラテン語を自慢して楽しいですか?」
一気にぬえはショットガンを構え、今までの憎しみを込めて引き金を引いた。
銃弾はそのまま衣玖の腹部を貫かんとするが、彼女はすぐに身をかわした。
銃弾は壁にめり込まれる。
「・・・では、そろそろ本気を出しましょうか・・・」
衣玖は剣を構え、ガードマンとは比べものにならない程速く3人に襲い掛かった。
疾風迅雷の如く駆け抜け、彼女たちの元へ一閃しようとする衣玖。
3人はそんな衣玖の攻撃に反射的に身をかわす。
「悪いですね、私には空気が操れるんですよ!」
衣玖は薙ぎ払うと、それが真空波となって3人に牙を剥いた。
「し、真空波!?」
「私が守るから2人は!」
サリエルは2人を庇う為に大剣セノヴァを盾代わりにして真空波を防ぎきる。
その間に2人は衣玖の元へ駆ける。
「ここでくたばって下さい!」
ぬえはショットガンの銃口を彼女の右肩に狙いを定め、引き金を引いた。
銃声と共に空中を走る銃弾。
衣玖はそんな銃弾に対して身を反らし、銃弾は割れたガラスから外へ飛んでいった。
「隙あり!」
夢美はハイドロガンを撃つと、気圧が圧縮された銃弾が彼女に牙を剥く。
だが彼女は笑いながら銃弾をかき消したのだ。
「き、消えた!?」
「空気を操れるのが私の特徴ですから」
「そこを狙っていたんだよ!」
彼女の正面を疾走していたのは、紛れも無いサリエルであった。
空気を操っていた彼女はその光景に怯み、体が思う分動かなかったのだ。
「―――『セノヴァ』」
大剣の名前を呟いたと同時に彼女はトリガーを2回引いたのだ。
すると6本の剣が空中を飛び、その間にサリエルは彼女を斬りつけた。
そして2回目のトリガーでそれらの剣たちが戻ろうとした時、連続で衣玖を斬り裂いたのだ。
元の大剣に戻ったセノヴァを右手で構え、サリエルはそこに立っていた。
「・・・あ、あああああ・・・ああああああ・・・」
衣玖は何も言葉に出来ないまま、サリエルの前で身体を沈ませた。
δ
彼女は敗北した。
セノヴァによって斬られた跡がスーツに痕跡として残されている。
ボロボロの彼女は立ち上がることもままならず、3人に頭を下げるばかりであった。
「・・・すみません・・・」
「私はお前の謝罪を聞きたいんじゃない、責任を取って欲しいんだよ」
サリエルは辛辣な言葉を掛けるが、それは今まで衣玖がやってきたことと比べたら生温いものであった。
何せ、彼女は3人を抹殺しようとしたのだから。
「あと今から聞くことに答えろ。
・・・お前が月麗カンパニーからサミニウムを賄賂として貰い、過大融資を行ったんだな?」
ぬえはすぐに録音機を構えた。
「・・・は、はい」
「ではもう1つ、何故博麗製鋼にも過大融資を?」
「それは・・・月麗カンパニーから頼まれたもので、生産性を向上させたかった為です」
聞きたいことを終えた彼女は衣玖を見下した―――。
それは今まで彼女が行ってきた愚行への憎悪であり、蔑みでもあった。
「蓮子、これで衣玖が悪い奴だって分かったでしょ!」
マエリベリーはそう頭取に聞くが、頭取は・・・憤怒していた。
「・・・衣玖を傷つけたな。我が社の社員を・・・傷つけたな!」