EPISODE 6
鈴仙は騒動を受けた次の日、何か盗まれていないか探すために机を漁った。
不審者が持っていた2枚の書類・・・嫌な予感が彼女を遮ったのだ。
「・・・無い、無い・・・!」
彼女に走る焦り。失ってはいけない極秘資料が、持ち出されたのだ。
明らかに誰かがやったとしか考えられない。
彼女は真っ青な顔・・・そのフロアにいた全員が心配する程憔悴した顔をしていた。
「・・・このままでは・・・!」
彼女は反射的に立ちあがるや、すぐに魔理沙の元へと向かった。
彼女によって荒らされた机は空しくもそこに佇んでいた。
「魔理沙さん・・・!」
彼女は息切れしながら彼女の部屋へ入った。
ドアを雑に開けた場所に彼女の壮絶な焦りが垣間見える。
「ど、どうした?」
「以前渡した書類の原本が・・・管理していたのにありません!」
その時、魔理沙も鈴仙同様に真っ青な顔をしてはこう述べた。
「先程、月麗カンパニーのヘカーティア氏からあることを聞いた。
どうやら東方重工という会社のサリエル、夢美、宇佐見銀行のぬえの3人が暴れているようなんだ。
・・・もしかしたら彼女たちの1人による犯行かもしれない」
「でも・・・縁もゆかりもないこの会社の隠蔽書類を・・・?」
「・・・間接的に月麗カンパニーを陥れる為じゃないか」
魔理沙は自分の意見を淡々と述べた。
「奴らはどうやら宇佐見銀行からの融資額に腹を立て、融資を優先された月麗カンパニーに怒ってる訳だ。
要するに彼女たちの最終的な狙いは「月麗カンパニーの倒産」。
月麗カンパニーと提携している我が社の隠蔽情報が何らかの形で漏れて、彼女たちの耳に入ったのだろう」
「そんなこと勝手にさせたら・・・不味いですよ!」
鈴仙は冷や汗を掻き乍ら口を開いた。
「このままでは・・・我が社の信用が落ちて、取引先が無くなって最終的に倒産ですよ!」
「それが狙いなんだろうな・・・目的の一環としての、な」
魔理沙は躊躇しなかった。
邪魔者は・・・排除する。
「鈴仙、今日から3人の担当を頼む。奴らを陰で抹消してくれ」
鈴仙もこのことに対して何の疑問も浮かばなかった。
「・・・はい」
δ
衣玖と天子はとある日本料理店に赴いていた。
落ち着く雰囲気が漂う部屋で、彼女たちは机を挟んで向かい合いながら話していた。
「でも本当にやってのけちゃうなんて、凄いですよ衣玖さん」
天子は衣玖のことを褒めていた。
「強盗になるのも一苦労ですよ、マエリベリーの家に入るのは。
ぬえと小傘の電話内容を盗聴して聞いたからには最後まで抹殺し切らないと不味いですから」
当たり前のように言った衣玖は置かれたお茶をゆっくり啜る。
「私たちに盾突く愚か者は社会的にも現実的にも抹消しますから」
「あはは、流石は衣玖さん、かっこいい事を言いますね」
「事実を述べただけです」
そんな会話が彼女の録音機に入っていく。
そして彼女は自分を犯人に仕立て上げた衣玖への恨みを更に抱いた。
δ
美鈴は以前から親交のあったリリーとプライベートで会っていた。
彼女が奢りで払ってくれると言ってくれ、その言葉に甘えることにした美鈴。
静かなバーのカウンター席にて、2人は座っていた。
「・・・美鈴、本当に博麗製鋼の裏の書類を・・・」
「・・・これです」
美鈴は持ってきていた鞄の中から2枚の書類を取り出した。
その書類こそが、博麗製鋼の第一級の代物にして隠さないといけない物であった。
「その書類・・・」
受け取ったリリーは書いてあったことを一つ一つ丁寧に読んでいた。
新聞よりも彼女は深く読み込んでいる。
「・・・博麗製鋼は隠蔽を隠していたんですね・・・」
「そうですよ。あんな会社が黒字だったら私なんか不当解雇しませんよ」
勝手に解雇扱いされた彼女は怒り心頭であった。
自分はしっかり会社に貢献していた―――残業は当たり前の地獄のような日々を過ごしたのに。
「・・・これが世間に広まったら・・・」
「間違いなくあの会社の信用は失われます。株主に総会を開くよう求められ、投資家たちは身を引くでしょう。
そして何よりも、提携している月麗カンパニーの信用も巻き添えで落ちることでしょう。
何故なら、博麗製鋼の隠蔽を見抜けないまま提携してしまったのですから」
美鈴の質問に対して起こりうるであろう事を一から述べたリリー。
彼女は机の上に置かれたスクリュードライバーを少し飲んでから、深く言った。
「・・・美鈴は何がしたいの?」
美鈴はそんな問いにすぐさま答えた。迷いが無かったのである。
「私は・・・私を裏切ったあの会社を徹底的に陥れることです」
「ふふふ・・・サリエルたちとそっくりだね」
彼女はそんな美鈴の答えに笑みを見せてから、サリエルの名前を口にした。
「さ、サリエルさん?」
「ええ。・・・やってることも、信念も、何かそっくりのような気がします」
リリーは被っている帽子を整え、腰を伸ばした。
外で輝いている月は淋しそうにしていた。
それは彼女の心境でもあった。
「・・・私たちは衣玖・・・月麗カンパニーに過大融資をする元凶に怒りを覚えている。
美鈴も自分を解雇した博麗製鋼を赦せないと思ってる。
・・・でもよくよく考えたら、それでどれだけの人が犠牲になるんだろうね」
「・・・ぎ、犠牲?」
「私たちの自己主義の為にどれだけの無辜の民が巻き添えを食らうか、ですよ」
「・・・」
美鈴は自分のやった行動を顧みた。
書類を憎き鈴仙の机から抜き取って、今その書類がここにある。
この書類が世間に出た瞬間、どれだけの博麗製鋼勤務の社員たちが退職せざる状況に陥るのか。
彼らにも養うべき妻子はいる。
・・・敵にも硬き正義はある。
「・・・正義の反対は、また別の正義だってよく言いますからね・・・」
「この世に悪なんて存在しないんです。あるのは自分を正当化しようとする『自己』。
・・・戦争も、お互いが正しいと思ってるから争うんですよね。
・・・私たちも戦ってる訳ですが、向こうにも別の正義があるんですよ、きっと」
リリーはカウンターに両肘をつけながらしみじみと語った。
「・・・サリエルも、もしかしたらこの事に気づく日が来るのかな・・・」
「・・・でも私たちにも正義はあります。・・・悪いのは向こうなんですから!」
「・・・」
リリーは黙ってしまった。美鈴は言いすぎたことを少し反省した。
「・・・あ、言い過ぎてすみません・・・」
「・・・いや、何も言い過ぎてなんかいないよ。だってそれが美鈴の思う『正義』なんですから。
・・・私たちもこんな硬い事なんか話していないで、早く実行に移さないと駄目ですね。
サリエルさん達みたいに、敵と戦わなくてはいけませんからね、あはは」
軽く笑うリリーを見て何かが変わった美鈴。
「・・・私には・・・味方がいる・・・」
δ
夜で静まり返った中、3人はセダンを止めて宇佐見銀行本店へと赴いた。
今日は小傘が残業で残るはずなのであった。
「・・・全てを聞き出そう」
3人は武器を構えて、大きなビルを見据えた。
所々に灯っている電灯が人の少なさを3人に示していた。
多かった車もちらほら見かける程度まで少なくなり、空では飛行機が光を放って飛んでいた。
「・・・小傘!覚悟しろ!」
3人を陥れようとした犯人である小傘を倒すため、そして真実を聞き出す為に彼女たちは乗り込んだ。
この時間帯では通路の電灯は消えており、真っ暗な道を手探りで進む。
「相変わらず暗いですね・・・」
ぬえの携帯の光を懐中電灯代わりに進む3人。
まるで秘境の洞窟を探検するかのようにゆっくりと進んでいた。
実際、宇佐見銀行本店も都会に存在する巨大迷宮のようなものであった。
するとぬえは何か冷たい感触と同時に何かに接触した。
頭をぶつけ、押さえる彼女は携帯で先を照らした。
「痛い・・・一体何だろ・・・?」
光が当たった先・・・そこに映っていたのは3人の行く手を妨げるサミニウム源の警備用ロボット。
博麗製鋼製のロボットは3人を検知し、消えていた目の明かりを灯し、起き上がった。
「コード、『テヘル・アメガ』。邪魔者検知における排除を行います」
3人を検知した、通路に配置された機械竜はむくむくと起き上がり、3人を見下ろした。
ワイバーンやプトレマイオスといった他のサミニウム源の警備用ロボットと同じ威圧を放っている。
「・・・ここにもいたとは・・・!」
「悪いけど、この先は通させて貰うわ!」
サリエルは背中の鞘からセノヴァを抜いて両手で構える。
それにつられて夢美とぬえも銃を構えた。
「前までこんなの銀行内にはいなかったのに・・・きっと衣玖か小傘の仕業ですね!」
ぬえはそう予想付けると、ショットガンの銃口をテヘル・アメガに向けた。
「・・・いつもいつも邪魔なんですよ!だから手加減はしませんよ!」
サリエルはそう言うや、右手に剣を持ち変え、一気に飛びかかった。
真正面にて彼女はテヘル・アメガを一刀両断するかの勢いで斬りかかった。
が、テヘル・アメガは重たい巨体を退けさせ、攻撃を回避したのだ。
柔らかいカーペットにずしんと響く重たい衝撃。
「あ、危ない!」
夢美がそう気づくと同時にサリエルは彼女と共に地面に倒れていた。
そして今さっきまでいた場所には冷酷さを醸す鋼鉄製の巨大な脚が置かれていた。
「た、助かった・・・!?」
サリエルはすぐに起き上がり、地面に落としていたセノヴァをすぐに拾う。
「ぐぎゃああああああああああああああ!!!」
大きな咆哮を上げ、テヘル・アメガはそんなサリエルに向かって電磁砲を放ったのだ。
電流が一種の大きな爆弾となって、一気に彼女の元へ襲い掛かる。
降りかかるは科学の基礎となり、そして兵器と為った恍惚。
サリエルはすぐに避けられたが、自分を助けてくれた夢美が逃げそびれていたのだ。
「セノヴァ、頼む!」
夢美を守るため、彼女は大きな剣を盾にして高圧電流の爆弾を耐えた。
剣には電流が流れ、彼女も少なからずは感電したが、気にしてはいられなかった。
「貴方の相手はこっちです!」
ぬえがショットガンでテヘル・アメガの右目を撃ち抜き、罅が入った。
テヘル・アメガは見事ぬえに向かって襲い掛かった。
ぬえは軽い身のこなしで重たい攻撃を避け続けていく。
「夢美、大丈夫!?」
サリエルは夢美を何とか起こした。
「わ、悪いね・・・助けたつもりが、今度は助けられちゃって」
「今はアイツを倒そう、のんびりしている時間は捨てられたからね!」
ぬえが注意を引き付けている間、彼女はセノヴァでテヘル・アメガの装甲を剥がさんと真後ろから斬りかかった。
重たい剣を扱うサリエルはトリガーを引き、7本の剣に分裂させた。
「一気に引き裂け!」
7つの剣はそのままテヘル・アメガの装甲に突き刺さり、装甲を剥がしたのだ。
崩れた硬い装甲がそれを物語っていた。中からはオレンジ色の輝きが溢れだした。
「夢美!」
「任せて!」
ハイドロガンを構え、サリエルが両断した場所に向かって引き金を引いた―――。
気圧が圧縮された銃弾は一気に装甲が剥がされた場所へ入っていき、中の結晶を撃ち砕こうとした。
が、テヘル・アメガは急に向きを変更し、ハイドロガンの攻撃は中の機械へと当たってしまったのだ。
「チッ、いい時に・・・!」
舌打ちしながらも剣を構え勇敢に真正面から両断しようとするサリエル。
そしてそこにぬえも加わった。
「目潰しすれば見えなくなるんですかね!」
ぬえのショットガンの銃弾はそのままテヘル・アメガの左目を撃ち抜いた。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・」
よろめき声を上げたテヘル・アメガ。
検知器が完全に壊れ、何処に敵がいるのか、プログラミングされていても検知出来なくなったのだ。
そして最後の手段に出てしまった。
真正面から斬りかかるサリエル。
だがテヘル・アメガは見えないが為に急に前へ突進したのだ。
真正面にいたサリエルは真朋に受け、そのまま吹っ飛ばされてしまう。
「きゃあああああ!!!」
彼女の声が行内に響き渡る。
そして2人の元で彼女は倒れると、その音の方向で敵を無理やり検知したテヘル・アメガは止めを刺そうとした。
「起動、『スーパーセル』」
テヘル・アメガは電流を身体のあちこちから流し、その巨体で電流を纏ったのだ。
最早テヘル・アメガは光り輝く「太陽」になっていた。
闇の中の通路を照らすその存在は3人を更なる恐怖で震え上がらせた。
「な、何だよあの化け物は・・・!」
完全にテヘル・アメガとしての形を失った太陽は一気に3人に向かって飛びかかったのだ。
太陽から生えた巨大な翼を生かし、3人を轢こうとする。
「と、兎に角逃げよう!」
倒れているサリエルを夢美が背負い、3人はすぐに攻撃を避けられる安全地帯に身を置いた。
避けられたテヘル・アメガは検知器が壊れた為、正確な3人の位置が分からない。
太陽と化した機械は敵の場所も分からないまま当てずっぽうに突進する。
行内に揺れが走る。
そして何よりも、暴れているテヘル・アメガがこのまま暴走して銀行そのものを壊しそうになっていたことだ。
「このままでは銀行が・・・!」
「何とかして奴を止めよう!」
「さ、サリエルッ!」
サリエルは怪我したのにも関わらず、セノヴァを右手で構え、暴走していた機械に剣を向けた。
「止めてみせる!儚き人口太陽よ!」
彼女は暴れ狂う太陽に向かって走っていく。
光る儚き機械は壁に衝突を繰り返し、最早警備用ロボットとしての役割を失っていた。
「終わらせる・・・」
静かに呟いた彼女の言葉は―――暴れ狂う機械に微かに届いた。
そして彼女の眼は凛々しさを帯び始めた
彼女はセノヴァのトリガーを引くと、一度離した6本の剣がセノヴァと合体する。
「ぐぎゃああああああああああああああ!!!」
自制が出来なくなったテヘル・アメガの剥がれた装甲を狙って、彼女は飛び込んだ。
悪びれる様子も見せないサミニウムは一定のオレンジ色の輝きを保っていた。
そして彼女は―――サミニウムを―――一閃した。
δ
突如として沈んだ機械は多くの瘢痕を残していた。
3人は沈んだその機械の前まで赴いた。
刻まれている「博麗製鋼」の文字。
「・・・まあいい、小傘を追いかけよう」
「真実を聞き出そう・・・」
疲弊した彼女たちであったが、やることは沢山あった。
そして目の前の問題―――小傘の正体を暴くべく、彼女のいるフロアへと足を運んだ。
虚しく灯る電灯の下、彼女は1人椅子に座って残業をしていた。
眠たそうな彼女の欠伸が小さく聞こえた。
「小傘」
ぬえはそう彼女を呼ぶと、彼女はその威圧と言葉に含まれた重圧さから何かを悟った。
「ど、どうしたの・・・?」
席から立ち、怯える小傘。
「・・・正体を見せろ。マエリベリー専務の家に強盗で押し入り、私たちを殺そうとしただろ」
「お前からの電話で行くことになったんだ、必然的にお前が誘導したとしか考えられない」
今まで起こった事象を述べ、小傘を追い詰めていく3人。
訳の分からない小傘は最初から戸惑っていた。
「な、何を言ってるのみんな!私は何も・・・」
「そうやって裏の顔を隠し続けるのか!小傘!」
小傘は3人が言いたいことを少しだけ理解出来たと同時に録音内容を思い出した。
衣玖が責任を擦り付けたことが録音された確実なる証拠・・・。
・・・これを使えば。
「ま、待って!」
言葉の防護壁を並べて確実に追い詰めようとしていた3人の前に示されたのは録音機。
「お、落ち着いてこれを聞いて。以前、衣玖の後を追いかけた時のものなんだけど・・・」
「何か証拠でもあるんですか?」
3人は小傘の言葉に従い、録音機から発せられた言葉に耳を傾けた。
そこから聞こえた内容・・・衣玖の声であった。
3人を抹殺しようとしていた衣玖の本音が録音機から語られていく。
「・・・そうだったのか」
小傘に責任を擦り付け、本当の黒幕は自分でした、ということを告白した衣玖自身。
録音機の中から鮮明に語られる証拠。
「・・・小傘に責任を擦り付けたのか」
「・・・責め立ててすまない」
3人は証拠があるために疑いが晴れ、謝罪をする。
小傘もそんな謝罪はいらないよ、と必死で否定していた。
「悪いのは衣玖、そうだと思います」
「・・・その録音、私たちに貰えない?」
サリエルはそう聞くと、小傘は抵抗もせずに易々と渡した。
「これです。・・・これで悪名高き衣玖が遂に・・・」
「そうね。明日の会議の時、全てを発表して奴を叩きのめそう」
3人は夜遅くであったためにまずは一旦社屋へ帰ることを決意した。
小傘に別れを告げ、セダンに乗り込んで夜の道を疾走する。
・・・陽が昇ったその時、黒幕の正体が彼女たちによって暴かれる。
―――彼女たちを追い詰めた黒幕との最終決戦だ。