EPISODE 5
彼女との戦いを受け、第8金庫室へ向かうことを決めた3人はセダンに乗り込んだ。
そして戦いの跡地から去った。
小傘がマエリベリーの家に押し入って、誤解させて戦わせた―――。
3人は小傘に何かの裏があると考えていた。
「小傘・・・どうして・・・」
ぬえは小傘を信用していたのに、どうして騙したのか分からなかった。
それよりも心への痛みが最もであった。
「・・・兎に角、彼女の裏も暴こう。衣玖に通じる部下だったら、戦わないと・・・」
「・・・」
淋しい気持ちに浸っていたぬえ。
窓の無機質な光景が飂戻のように流れていく様をぼんやりと見ていた。
「・・・でも、真実がこれなら・・・仕方ない」
「・・・真実って一体何なのでしょうか・・・」
ぬえは夢美にそう問うた。
「・・・何が真実なのでしょうか?信じたくないことが真実ならば・・・。
・・・ずっと背を向けたらそれは真実では無くなると思うんです・・・」
ぬえは何かに縋りたかった。怖かった。
ずっと良い仲を築いてきた彼女と戦うことが。敵対することが。何よりも。
「・・・でもいずれ、真実は見えてしまう・・・」
夢美はさりげなく呟いた。
「・・・背を向けていても、それは単なる現実逃避に過ぎない。
・・・しっかりと今の状況を直面し、受け入れることしか私たちは出来ない。
真実から逃れずに前向きに捉える、そして変えていくんだ」
「・・・変える・・・」
セダンの走る音が小さく響く中、彼女の感心した声が聞こえた。
「そう。例えどんな人が黒幕であろうとも・・・恐れてはいけない。
・・・だって、私たちは思念を持ってここまで来た、後戻りはもう出来ないんだ」
するとセダンは右ウィンカーをつける。
「もう支店に着いたよ」
サリエルは支店の駐車場に車を止めると、3人はそれぞれ降り立った。
夜の寒い風が肌に染みる。
「・・・この中に何があるか、だな・・・」
「何もない、ということは多分無いでしょうね・・・」
「・・・何も怖くありません」
3人は支店の中へ足を踏み入れると、気づいたリリーが迎えてくれた。
「こんな夜分遅くに・・・一体何かあったんですか?_」
「いや、マエリベリー専務取締役にこれを・・・」
ぬえは受け取った鍵を金庫から取り出してリリーに見せた。
「・・・これはうちの金庫室の鍵・・・」
「どうやらそこに何かあるみたいです」
今まであった経緯を全て話すと、彼女は腰を抜かすと同時に金庫室に何かあることを確信した。
「・・・そうだったんですか・・・。・・・止めはしません。
・・・ですが、どうかご無事で・・・」
「・・・行きましょう。場所なら私が知ってます」
そしてぬえを先頭に支店の中を歩き始めた。
机が所狭しと並んでいる。閉鎖的な空間であった。
奥の並んだ金庫室の一番端・・・そこの前でぬえは動きを止めた。
右手に持つ金色のカギを震わせて、扉を見据えていた。
「・・・開けよう」
鍵を鍵穴に差し込んだ―――扉は開き、何もない一本道が姿を露見させた。
「・・・何だこれは・・・」
「・・・何処へ繋がってるんでしょうか・・・」
そしてついて来ていたリリーもその光景に目を疑った。
「な、何なのでしょうか・・・」
「て言うか支店長もこれは知らないの?」
「私もここを開けるのは初めてで・・・」
リリーも初めて見た通路に、ぬえは足を踏み入れた。
明らかに空気が違っている。
それでも勇気を持って進んだ。衣玖を倒すために。
「・・・この先に何があるかは分かりませんが・・・行きましょう」
ショットガンを左手で構え乍ら、彼女は足を進めた。
それに続いて柄の部分を持っていつでも抜けるようにしているサリエル、ハイドロガンを構える夢美が続く。
「・・・ご無事を祈ります・・・」
リリーは外から3人の背を見送った。
誰もいる気配のしない通路に足音が連続して呼応する。
無寐の焦燥を仄かに醸す電灯は、そんな3人を悲しそうに照らしていた。
「・・・何かあります」
進んだ先にあったもの・・・それは大きな広間。
用途不明の広間はそこに存在しており、3人は広間に足を進めた。
そして大きなドーム状となっている広間の中心には・・・博麗製鋼製の竜が眠っていた。
「博麗製鋼製のサミニウム源の警備用ロボット・・・ここにも・・・!」
「戦わないといけないっぽいですね・・・!」
すると眠っていた竜の眼が急に赤く輝き始め、その大きな巨体を彼女たちの前に露見させた。
威圧感を放つ警備用ロボットはただ一つの指名の為・・・プログラムされた指名の為に動き始めた。
「コード、『プトレマイオス』。邪魔者検知における排除を行います」
プトレマイオスと名乗る機械竜は3人の前に立ち塞がったのだ。
でもこれは見えていたこと、覚悟がとっくに出来ていた3人は武器を構えていた。
「・・・プトレマイオス、ね。・・・可愛がってあげるわ!」
δ
プトレマイオスは大きな口を開き、3人に向かって何かの液体を滲ませ乍ら爪で襲い掛かったのだ。
湯気を放つ液体を爪に滲ませ、3人を引掻こうとする。
すぐに避け、巨体の真後ろへ姿を持ってこさせるが、あの液体が危ない気がサリエルにはした。
「・・・あの爪から漏れてる液体・・・」
「湯気を放ってる液体・・・」
「何か危ないような気もします・・・!」
ぬえはショットガンを構え、プトレマイオスに向かって射撃するが、ワイバーン同様弾かれてしまう。
無駄に硬いのが腹立った。
「・・・毎度お馴染みの硬さ・・・」
「博麗製鋼製は期待を裏切らないね・・・!」
夢美もハイドロガンを構え、引き金を引くが相手は何も知らぬ顔。
振り向いては液体を垂らした爪で襲い掛かってくる。
「うわっと!」
引っ掻かれそうになったサリエルは何とかジャンプでタイミング良く避ける。
下に湯気を放つ液体が零れているのが分かった。
「変に斬ったら液体が爆発したりとかし兼ねない・・・。・・・油断はしないで行こう」
セノヴァを忍ばせ乍ら、彼女は様子を見た。
この液体の正体が分からないので、変に斬って内蔵された残りの液体が爆発したら笑い事では済まない。
「・・・サリエル、この液体が何物かは分からないから中までは斬らなくていいから、外側の装甲を・・・」
「任せなさい!」
プトレマイオスは滲んだ爪で夢美に襲い掛かるが、自身の身体能力を活かして避け続ける。
ぬえは真後ろの位置をキープしており、サリエルが装甲を剥がした瞬間に攻撃を仕掛けるつもりだった。
「では装甲だけを斬り抜こう!」
サリエルは飛びかかり、重たい大剣で固い外側の装甲を剥がさんと斬りかかった。
固い装甲をセノヴァは割り、中のオレンジ色に光る結晶が現れる。
それと同時にすぐ隣に液体が内臓されているであろうポンプが設置されていた。
「・・・斬った!」
「行きます!」
サリエルの報告を受け、構えていたぬえがショットガンで結晶を貫かんと引き金を引いた―――。
銃弾はそのまま結晶に向かって飛んで行くが、すぐに振り向いたプトレマイオスは大きな口を開いた。
「起動、『エルダーポンプ』」
モンスターポンプを備えたプトレマイオスは一気に3人に向かって津波の如き濁流を作りだしたのだ。
湯気を放つ液体が一気に襲い掛かる。
その時、夢美は分かった。
「・・・この液体、硫酸だ!しかも熱濃硫酸だ!ヤバい!」
「り、硫酸!?」
皮膚をもボロボロに溶かす液体・・・硫酸。
それの波が襲い掛かろうとしていた。
「に、逃げよう!」
3人はすぐに濁流から避けるために背を向けて走り出した。
大きな広間内を走って避けた3人はプトレマイオスを見据えた。
既にサリエルが装甲は破壊した。後はエネルギー源を壊すだけであった。
「完璧な狙いじゃないとポンプに被弾して恐ろしいことになってしまう・・・」
「・・・行きます!」
腕に自身のあったぬえは1人、プトレマイオスに挑んだのであった。
が、サリエルと夢美がプトレマイオスの気を引きたてる。
「こっちだ!」
「お前の相手は私たちだ!」
2人を見据えて硫酸を滲ませた爪で一気に襲い掛かってきた。
その間に裏に回ってサリエルが破壊した装甲の中からサミニウムを見つけ出す。
そしてプトレマイオスが地面に足をつけた時。
「今だ!」
その瞬間に引き金を引くと同時にプトレマイオスの眼から光が消えた。
そして水浸しの空間の中で沈んだのであった。
δ
「・・・硫酸を扱うとは・・・なかなか厄介だった・・・」
もう動かないであろう警備用ロボットを見てつくづく思ったサリエルはセノヴァを鞘に入れた。
残りの2人も銃を仕舞い、その場で立ち尽くしていた。
「・・・コイツに私たちを殺させるつもりだったのか、小傘は?」
「・・・一体何が目的で・・・?」
すると奥の方からロックされた音が聞こえた。
「・・・と、扉が!扉がロックされてます!」
入口の扉が勝手にロックされていたのだ。
鍵があったとしてもオートロックに対してはここでは何の意味も為さなかった。
「ここに閉じ込める気!?」
すると何かのガスが何処からか噴出されていたようであった。
それは紛れも無い「毒ガス」であった。
肌に触れた瞬間痛みが走った。
「不味い!このままでは・・・毒ガスで・・・!」
「に、逃げれるところまで逃げよう!」
「は、はい!」
焦った3人は通路内を疾走してロックされた扉を叩いた。
外にはリリーがいるはず。
「リリー!助けて!助けて!」
―――一方、外ではリリーが3人の帰還を待っていた。
が、突然に扉が閉まったことに驚きを感じていた。
「このままでは3人が閉じ込められたままです・・・!」
マスターキーを捜しに彼女も支店内を疾走した。
残業で残っていた行員がちらほら見受けられる中、彼女はマスターキーを手に入れた。
「すぐ開けましょう!」
リリーはマスターキーを差し込んで扉を開けると、中から悶絶した3人がすぐに飛び出した。
そしてガスが漏れ、支店内の天井に取り付けられた火災報知器が音を鳴らして響き渡らせる。
「火事です!火事です!」
―――あの後、3人は大事には至らなかったが、支店は一時的に閉鎖された。
3人はリリーにあったことを全て語った。
「・・・毒ガスが噴出・・・事前に用意されていた、という事ですね・・・」
「でもあそこに案内させたのは強盗、つまり小傘・・・」
「要するに私たちを何らかの方法で除外させようとしているのね!」
彼女たちは怒りを覚えた。
本気で死にそうになった彼女たちを陥れた犯人。
「・・・小傘、覚悟しときなさい」
δ
衣玖はその日、月麗カンパニーを訪れていた。
会議室にてヘカーティアと話しあっていたのだ。
「今現在、私を追っている3人組がいるとのことで。
・・・どうやら彼女たちの狙いはここへの過大融資を止めることらしいです」
「・・・敵はいずれ出て来ますから・・・」
「まあ安心して下さい。すぐに「抹殺」しますので・・・」
衣玖はそうヘカーティアに告げると、彼女は頷いた。
「それは有難いです、邪魔が入ると非常に面倒くさいものなので・・・」
「手古摺らせたりはさせないのでご安心ください」
衣玖はそう言うと、ヘカーティアは頭を下げた。
「・・・これからもお願いします」
「・・・任せて下さい」