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EPISODE 4

3人は東方重工の社内へ戻り、それぞれソファーに座って今までの話を纏めることにした。

静かな社内に存在するテレビは「博麗製鋼に何者かが侵入」と騒ぎ立てていた。


「待って、まずは1度話の整理をしよう」


サリエルが言い出すと、全員はそれぞれ言い出し合った。


「天子は衣玖の言いなり、でしょ?」

「衣玖はサミニウムを賄賂に月麗カンパニーの過大融資を行っていたことだよね?」

「でも直接的な証拠が無いから衣玖を訴えられない・・・」


3人は悩んだ。

天子に破られた書類が彼女にどれだけ致命的ダメージを追わせられるのか。


するとぬえの懐が急に震え出す。

慌てて彼女は携帯を取り出し、耳にあてると相手は小傘であった。


「あー、ぬえ?衣玖を追い詰められる書類が欲しいんでしょ?」


「そうだけど・・・今さっき、天子に破り捨てられたんだ・・・」


「それなら大丈夫だよ。今監視カメラを一通り見たんだけどね。

どうやらマエリベリー専務取締役がその書類のコピーを盗みだしたみたい。

彼女も衣玖に個人的な恨みを持っているみたいだね。だからまだ書類は残ってるよ」


「ほ、本当!?」


その時、彼女は霆駭したと同時に晴天の霹靂のような嬉しさが咄嗟に込みあがってきた。

信じてもいなかったことがあったのだ。


「うん。監視カメラにはそう映ってるよ。事情を話せばコピーをくれるかもね」


そこで小傘は満足そうに電話を切る。

ぬえは大喜びで2人に報告する。


「まだ書類があるそうです!」

「え!?」

「ほんと!?」

「はい!宇佐見銀行専務取締役のマエリベリー・ハーンさんが持っているそうです!

私たちと同じように衣玖に恨みを抱いているらしいです!」


それを聞いて2人はすぐに立ちあがった。

3人を陥れた元凶を逞憾する為に。


「ぬえ、運転出来るよね?」

「そ、そりゃあ出来ますよ」

「なら行こう、マエリベリー・ハーンの家に」


               δ


マエリベリー邸にて、彼女は紅茶を飲みながらテレビを見ていた。

手に入れた書類を突き出せば、彼女は間違いなく失脚する。

そうしたら、衣玖を信頼していた蓮子に何か酷い事を言われるのではないか・・・。

自分がやろうとしているのは正しいことだ。

一応、携帯で写真は撮って保存したが、恐怖心に駆られる。

ただ、親友である彼女にキツい事を言われるのは嫌だ。


・・・誰か他に任せたい・・・。


そんな身勝手な気持ちが彼女を行動に移させなかった。

書類は鞄の中のままだ。

大事に保管しようと思っても、触る気になれなかった。


その瞬間、窓ガラスが音を響かせて割れ、彼女の頭に冷たい何かが突きつけられたのだ。

頭にくっつけられた冷酷さが彼女の恐怖を引きたてた。


「衣玖の机から盗んだコピーを差し出せ」


彼女は誰かも分からないまま、怯えつつも鞄を調べた。

そして1枚の書類を後ろに差し出した。


・・・怖かったのであった。


涙が出そうなほど恐怖心を揺るがれた彼女の心は震え切っていた。


「よし、預かろう」


誰かも分からない強盗はその書類を乱暴に受け取った。


「よし、後お前にもう1つだけ伝えておこう。

今さっき、ここに隠し監視カメラと爆弾を仕掛けた。

この後やってくるであろうサリエルたちに第8金庫室のカギを渡せ。いいな。

・・・やらなかったら、後はわかるだろう」

「・・・は、はい」


すると急に煙幕がまかれ、彼女は目を瞑った。

何も見えない中、頭につけられた冷酷さが消え、そのまま強盗は何事も無かったかのように消えたのだった。

煙幕は消え、彼女は老衰感に浸った。

そして強盗に対して怒りを覚えると同時に言葉に疑問を覚えた。


「・・・この後やって来るサリエルたちに鍵を・・・。

・・・きっとアイツらが犯人だな、私に何らかの恨みを持った東方重工の奴らが!

・・・爆弾なんて別に怖くないわ、ローンは返済したし、家なんてまた買えばいいわ。

・・・大事なのは、裏切り者を見つけることだ!アイツらを始末してやる!」


              δ


セダンは淋しさを灯す道路を疾走していた。

ヘッドライトは対向車の来ない道路を照らしていた。

家々が連なるこの道で、家の玄関の光が仄かに灯っているだけであった。

その中に混ざってあった、普通の一軒家。

そこで彼女は口を開いた。


「ここです!ここ!」


赤い屋根の白塗り一軒家はデザインが特徴的であった。

その家の前にセダンは止まり、3人は降り立った。


玄関が3人を迎え入れた。


「ここが専務取締役の家です。夜分遅くなって申し訳ありませんが、こっちには時間が無いので・・・」

「仕方ないけど、行きましょう」


サリエルはインターホンを押した。

その時、家の中にいた彼女は万全の準備を整えていた。


「はい・・・」


自信なさげに彼女は返事をした。

この後起こるであろう事に唾を飲んだが、彼女たちから仕掛けてきたのだ、と思っていた。

彼女はドアノブに手をかけた。

開けるとそこには3人組がいた。強盗が言った通りであった。


「あ、こんな夜分遅く・・・」


「死ね」


ぬえが挨拶してきたと同時に彼女は右手にショットガンを構え、もう片手にはナパーム弾を持っていた。


「お前らなんかに第8金庫室の鍵なんか渡さない!」


夜の住宅街の中響き渡る大声。

いつもは大人しい彼女の怒号が、来客した3人に襲い掛かる。


「な、何があったんですか・・・!?」

「ちょ、落ち着いて下さい専務・・・」


3人は必死に宥めるが、彼女は戦う気であった。


「これ以上はお前らの自由にはさせておかない!衣玖の同胞め!覚悟しろ!」


              δ


彼女はいきなりショットガンを構えるや否や、訪れてきた3人に向かって放った。

引き金を引くと同時に空気を裂いて3人に牙を剥く銃弾。

銃声が住宅街に響き渡った。


「ちょ・・・!?」

「専務、私たちは何も悪くありません!戦いたくもありません!」

「黙れ!どれもこれも私の機嫌を直そうとする為に言葉を並べただけだ!」


マエリベリーは躊躇なく引き金を引き放った。

3人に向かって連射する彼女はもう何も怖くなかった。


「衣玖のせいだ!アイツが・・・あの銀行を滅茶苦茶にする!」

「私たちもそう思ってます!だから・・・戦いをやめましょう!」

「五月蠅い!」


一蹴する彼女は最早耳を傾けることはしなかった。


「完全に暴走してる・・・!・・・仕方ない、ここは戦おう!」


サリエルはそう決断すると、背の鞘からセノヴァを抜く。


「目を覚まさせて貰いますよ!」


サリエルは重たい大剣の刃をマエリベリーに向け、一気に叩き斬る。

マエリベリーはすぐに身を空中回転で避け、地面のコンクリートに罅が入る。


「最初から覚めてるわ!」


マエリベリーはそんなサリエルに向かってショットガンを放った。

攻撃した反動で硬直していた彼女はどうしようもなかった。


「危ないッ!」


ぬえがすぐにサリエルを押し倒し、辛うじて銃弾は回避された。


「勝手なことをしやがって・・・!」


怒りに来ていた彼女は倒れている2人にショットガンを向けた。


「そうはさせませんよ・・・!」


夢美はすぐにハイドロガンで彼女の太腿を狙い、引き金を引いた。

そんな彼女の気配に気づいたマエリベリーはすぐさま後ろを振り向いては避け、ショットガンを撃ち放った。


「おっと!」


夢美も華麗に身をかわし、銃弾は近くの住宅の壁にめり込んだ。


「今だ!」


隙をついたサリエルはすぐに起き上がってセノヴァで斬りかかった。

闇の中を潜り抜け、大剣で静寂を一閃した。

そしてトリガーを引き、大剣は7本の剣へと化けたのだ。


「覚悟しろ!」


不意を突かれたマエリベリーはそのまま―――攻撃を受けてしまった。


「きゃあああああ!!!」


彼女の悲鳴が響き渡ると同時に彼女は転がっていった。

固いコンクリートの上で彼女は横たわっていたが、すぐに起き上がった。

眼は依然として固い決意のままであった。


「・・・その汚い正体を暴くまでは、私は戦うわ!」

「汚い、って私たちは専務の仲間です!敵ではありません!私たちだって衣玖に恨みをもっています!」

「嘘をつくな!小賢しい!」


マエリベリーはすぐに3人に向かってショットガンで貫こうとしたが、銃弾は悉く避けられてしまう。

そしてぬえも行動に出た。


「一旦落ち着かせましょう!」


彼女も持っていたショットガンを構え、敵対するマエリベリーの右足の太腿を貫いた。

その瞬間、彼女は足から崩れ落ちた。

痛みを訴え、コンクリートの地面には小さな血の池が出来ていた。


「せ、専務!大丈夫ですか!専務!専務!」


δ


彼女は3人によって手当を受けた。

マエリベリー宅によく訪れていたぬえが救急箱の存在位置を把握していたが為に、早急に対処できたのだ。

ソファで横になるマエリベリー・ハーン。

もう彼女の眼は和らいでいた。


「ごめんなさい・・・急に襲い掛かってしまって・・・」


彼女は3人に謝った。


「でも、どうして私たちを「衣玖の同胞」だと思ったんですか?」


すると彼女はいまさっきあった経緯について丁寧に述べた。


「・・・だから窓ガラスが・・・」


窓ガラスは依然として乱雑に割れており、破片が室内にも飛び散っていた。


「そして、私たちに「第8金庫室の鍵を渡せ」、か・・・。

・・・もしかして、この強盗って・・・」


3人がここに来た理由。それは小傘の連絡の電話であった。


「・・・小傘?」


3人はその人物しか考えられなかった。でもぬえと仲の良い小傘がどうして・・・?


「でももしかしたら何か第8金庫室にはあるかもしれません。

・・・一応ですが、これを渡しておきます」


取られないようにしっかりと持っていた、金色の鍵。

それこそが彼女の管理する「第8金庫室」の鍵であった。


「・・・あ、ありがとうございます」


丁寧にぬえは彼女から受け取ると、すぐに常備用の金庫へと仕舞った。


「・・・私たちはその第8金庫室って場所に行かないといけないのね」

「でも場所が・・・」

「場所なら分かります。リリーさんがいる支店にあります」


ぬえは明確に覚えていた。


「なら彼女に頼めばすんなり中に・・・」

「よし、善は急げだ。今から行こう!」

「はい!」


3人はすぐに旅立とうとした時、彼女は3人を呼び止めた。


「待って」


凛々しいその声に動きを止めて振り返った3人。


「・・・貴方たちも、衣玖に恨みを持ってるんだよね」

「そりゃあ、彼女に会社を潰されかけていますから」

「・・・なら、私も協力するわ。一応写真で盗られた書類は保存したから・・・」


彼女は写真で撮った証拠を3人に見せ、3人は確信した。衣玖の悪行に。

彼女も衣玖に恨みを持っていた―――同じ仲間がいたことに希望が持てたのだ。

しかも自分より強いことを示してくれた。

・・・3人なら戦える、衣玖の持つ、深い深い深淵と。


「・・・何とかして、衣玖の正体を暴きましょう。私たちはもうアイツになんか翻弄されたくありませんから!」


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