EPISODE 3
サリエルたち一行は支店から出て、本店へと舞い戻った。
そしてぬえだけがセダンから降り、1人銀行内へと向かっていった。
無線機を構え、サリエルは準備する。
ぬえが行内を歩くと、呆然としながら歩く人物がいた。
小傘である。
同期である彼女はやる気を失っており、ぼーっとしながら歩いていた。
「お、小傘」
親しく話しかけたぬえ。
小傘も目が覚め、ぬえの存在に気付く。
「あー、ぬえ、どうしたの?」
「お前、衣玖とか天子とかに恨みとか無いか?」
ぬえは同期で信頼できる彼女に衣玖たちの件を持ちかけた。
「恨み?・・・えーっとね、私は特に・・・」
「でも私たちは大変なんだ、ちょっと何かあれば連絡欲しいんだけどさ」
ぬえは語りだした。
「え?何の連絡?」
「衣玖と天子の動きだよ」
「何の話をしてるの?」
短絡的な話であったため、小傘は全く理解できていなかった。
「あー、そうか。全部話さなくちゃ」
彼女は信頼できる小傘に衣玖と天子の関係と過大融資の件を話した。
小傘は興味を持ったらしく、どうやら乗り気であった。
「・・・そんな裏話が・・・」
「だから、出来たらでいいから動きを見張っててくれない?」
「任せといて!」
彼女の眼にやる気が舞い戻った。
やっと生き甲斐を見つけられたかのように彼女はそのまま姿を消した。
ぬえはそのまま天子の後を追い続け、最終的に行内のバーに辿り着いた。
上層部しか利用しないであろう高級バーにて、2人はカウンターで語り合っていた。
ぬえは何事も無かったかのように2人の近くのカウンター席に座った。
そして録音機を構え、彼女たちが吐くであろう情報を待っていた。
その状況が無線機の奥から伝わってくる。
ぬえの鼓動が同じように伝わってくるのだ。
「衣玖さんのサミニウム研究に比べたら私なんかまだまだですよ。
・・・過大融資を行ってサミニウムを貰う、私たちはいい世界にいますね」
「しーっ、聞こえてたらまずいよ」
致命的な発言を天子はやってしまった―――。
酔いの勢いで言ってしまったその発言は録音機に確実に録音され、ぬえは陰でニヤリと笑った。
無線機でその発言を聞いた彼女たちも確証を得た。
「・・・コイツらが賄賂を貰ってるんですね」
「・・・他の真面目にコツコツと頑張る人たちを欺くなんて酷いですね」
セダンの中ではそんな会話が飛び交った。
ぬえは誤魔化しの為に注文した飲み物の会計を済ませ、そのまま行内から出ようとする。
行った道を戻り、彼女は何事も無かったかのようにセダンに乗り込んだ。
「やりました!これで追い詰められますね!」
「ああ!ぬえ、流石だよ!」
ぬえは手に入れた録音をもう一度流す。
はっきりと聞こえる録音は言い逃れの出来ない材料でもあり、証拠となったのだ。
「・・・後は天子を待ちましょう」
「奴の本性を暴くんですね」
「そりゃあ、この証言がどれだけ凄いことか・・・」
彼女たちは2人だけの空間にいてしまったのだ。
酔いの勢いは改めて恐ろしいものだ、とつくづく感じた3人はセダンの中で天子を待った。
―――時間は経った。
彼女は鞄を提げ、行内から姿を現した。
馬脚を現させる為に、彼女が車に乗り込んだ直後にサリエルもハンドルを構えた。
「・・・行こう、決着をつける為に」
δ
天子は車に乗って何処かへ向かう。
そんな彼女に気づかれないように尾行する3人。
やがて車通りも少なくなり、天子の遠く後ろをセダンは走っていた。
そして潮の匂いが漂い始めた頃、天子の車が止まった。
3人も遠くに車を止め、すぐに彼女から隠れつつも行動を見張る。
そこは埠頭であった。
海が間近なここに1人で訪れた彼女は鞄から1枚の書類を取り出したのだ。
そしてそれを破こうとしたのだ。
「行こう!」
3人はすぐさま彼女の元へ寄り、サリエルが叫ぶ。
「天子!その書類は何だ!」
急に叫ばれた声に腰を抜かしつつも、天子は3人の方を向いた。
寂しく灯る電灯が彼女たちを照らしていた。
「東方重工のお2人さんに、東方重工担当のぬえ、か。
・・・一体何故私の後をつけてきた?」
「お前がやったこと全てを暴き出す為だ!その資料を大人しく渡せ!」
「嫌なこった」
嫌味っぽく言い放つや、彼女は思いっきり書類を破って海へ捨ててしまった。
「・・・聞き出そう」
夢美の発言を受け、3人は戦う構えを取った。
「・・・今捨てた書類の内容を教えてもらおうか。
それに、こちとら沢山聞きたいことがあるんだよ・・・!」
「・・・戦うの?・・・あはは、私も見縊られたものね。
・・・この天人様に敵うと考えてるの?」
天子は自らの能力で剣を作りだした。
自分の身長と同じくらいの長さを誇るその剣は炎のように燃えていた。
「気質を扱う『緋想の剣』を扱う私の前で勝てるかな?」
天子は剣先を3人に向け、嘲笑っていた。
「・・・笑えばいいよ。・・・後で笑い返してやるからさ!」
サリエルたちは天子と対峙した。
薄暗い埠頭にて、戦いが行われようとしていた。
δ
天子は剣を構え、一気に3人に向かって斬りかかった。
3人はすぐさま身をかわし、避けた瞬間に夢美はハイドロガンを構えた。
「悪いね!」
空気を圧縮した銃弾は一気に天子の方へ向けられるが、見切った天子は緋想の剣で斬り裂いてしまう。
「この私に銃弾が通用すると思った?」
「じゃあ剣は通用するんですね!」
彼女の後ろから斬りかかったサリエルは重たい大剣を構えて飛びかかる。
彼女はすぐに回避し、埠頭の地面に大剣が叩きつけられる。
「甘い!」
ぬえは天子が避けた瞬間に狙いを定め、ショットガンを撃ち放った。
が、彼女はすぐに背を隠し、迫りくる銃弾を剣で悉く断ち斬る。
「甘いのはそっちでしょう?溶けたチョコのようにドロドロに甘いのは」
「その言葉、そのまんまお返ししますね」
夢美は彼女の背中にハイドロガンを突きつけた。
「・・・私を殺すつもり?」
「・・・『やっつける』つもりだ!」
その瞬間、サリエルは真正面からダッシュしてセノヴァで斬りかかった。
斬りかかる瞬間、トリガーを引き、7本の剣に分かれて一気に天子に襲い掛かる。
「それがどうした・・・!」
天子は夢美から背中を守るために彼女を足払いで転ばせ、緋想の剣で6本の剣を薙ぎ払ってからサリエルの攻撃を受け止めた。
が、夢美はその拍子にハイドロガンを放ち、重たい気圧が天子の右太腿に直撃する。
「あっ・・・」
彼女は右足を撃たれたせいでバランスを崩し、サリエルの攻撃を受けてしまった。
彼女は遠く飛ばされ、傷だらけになって回転しながら倒れていた。
ぬえはすぐさま彼女の元へ向かい、ショットガンと録音機を構えて言い放った。
「・・・さっき海に捨てた資料はなんだ」
しかし天子は倒れながらも笑っていた。
「答えるか・・・私が答えるかよ!」
すぐに起き上がったや否や、彼女は剣を構えて近づいていたぬえを人質にしたのだ。
緋想の剣を彼女の首元にあてる。
「・・・どうだ!サリエル!夢美!この状況でどう動く!?」
人質にとった彼女は嘲笑して2人を貶した。
ぬえは「すみません・・・」と申し訳なさそうにしていた。
「・・・どうするか、だって?」
フフ、と薄笑いを口元に浮かべ、サリエルは天子の問いに答える。
自身を持って、彼女は当たり前のように言い放ったのだ。
「ぬえを助ける以外に、何かやることある?私は無いと思うけどね!夢美!」
「ああ!」
夢美は全てを察し、懐から取り出した催涙スプレーを撒き散らす。
2人は催涙スプレーを浴び、2人は涙が止まらなくなるがその間に夢美はぬえを救出した。
天子は催涙スプレーのせいで剣を地面に落とし、歪んだ視界の中、サリエルを見据えた。
「哀れだな・・・天子!」
サリエルは催涙スプレーのせいでバランスを崩した天子に再びセノヴァで斬りかかった。
再びトリガーを引き、集まって合体したセノヴァのトリガーをもう一度引く。
「はわわわわわ・・・」
どうしようも出来なかった天子はただ両手を地面に付けて、怯えるだけであった。
剣を持つにしても恐怖で手が動かなかったのだ。
―――そして、彼女は分裂した7本の剣に斬られてしまった。
「うわああああああああ!!!」
彼女の叫びが埠頭で響き渡る。
海に落ちそうな勢いで飛ばされたボロボロの天子。
そのまま海沿いの縁まで飛ばされ、彼女は倒れていた。
波の音が静かに彼女の耳に入る。
「・・・終わった」
δ
3人は戦闘で傷ついた彼女の元へ足を運んだ。
ぬえは未だに涙を流していたが、夢美の咄嗟の行動に感謝していた。
「・・・今から録音した内容を聞かせてあげるよ」
嫌らしくサリエルは言うと同時にぬえが録音内容を聞かせる。
天子が自ら吐いた明らかな証拠。
「・・・それ・・・どうして・・・」
「私が録音したんですよ。・・・酔いから抜けていなかった貴方に」
「てか天子、お前飲酒運転しただろ!」
サリエルのごもっともな意見に何も反論が出来ない天子。
「まあいい、今日は聞きたいことがある、もう逃げられないよ。
・・・月麗カンパニーへの賄賂について、全て話せ」
すると彼女はゆっくりと話しだした。
「衣玖さんは・・・月麗カンパニーからサミニウムを貰っています・・・。
・・・私もその一部を貰っていて・・・。
・・・その代わり、月麗カンパニーに過大融資を行いました・・・」
「じゃあこれは何だ?」
サリエルは持っていた書類を突きだした。
それはワイバーンと戦った時に隠された段ボール箱から発見された書類であった。
「そ、それは・・・月麗カンパニーに頼まれて・・・博麗製鋼にも過大融資を・・・」
ぬえは全て発言を録音していた。
すると彼女は笑い始めた。
「その状況でまだ笑えるか・・・天子・・・」
「笑える・・・笑えるよ・・・。
・・・だって、録音なんて証拠にならない・・・。・・・無理やり言わされたかもしれないから・・・。
・・・さっきの書類はその「月麗カンパニーとの秘密契約」を記した書類を捨てたんだよ・・・。
・・・直接的な証拠はもう何処にも残されていない!」
「・・・貴様ァ!」
腹立つ程笑い始めた天子に蹴りを入れる夢美。
「・・・兎に角、今は帰ろう。一度、話しの整理をしよう」
3人は倒れる天子に背を向け、そのままセダンに乗り込んだ。
δ
衣玖の携帯に着信が入った。
相手は天子であり、今さっきまでいたパートナーからの連絡に戸惑っていた。
「何かあったんでしょうか・・・?」
応答するや、彼女は怪我したかのような異常な程ゆっくりと喋り始めた。
「あ・・・衣玖さん・・・」
「どうした天子!?」
「・・・東方重工の奴らと担当のぬえが・・・私たちを追い詰めようとしてます・・・」
その言葉を聞いて衣玖は固まった。
それと同時に彼女はすぐさま対処法を考えた。
「・・・私から情報を聞き出して・・・サミニウムの件を録音されました・・・。
・・・でも直接的な証拠である書類はちゃんと海に捨てたのでご安心を・・・」
衣玖は天子からの報告を受け、真剣な顔になった。
「・・・天子、動ける?」
「・・・私は何とか・・・」
地面に身体を引き摺らす音が携帯の中から聞こえる。
「・・・なら博麗製鋼製の警備用サミニウム型ロボットを行内に張り巡らせるよう頼むわ」
「・・・わ、分かりました・・・」
ここで通話は途切れ、彼女はすぐに椅子に掛けられたコートを羽織った。
行先は「月麗カンパニー」。
彼女はこのままやられる訳にはいかなかった。
δ
美鈴は真実を追求するため、就業時間となった博麗製鋼に侵入した。
不法侵入である彼女は真っ暗な通路をすいすい通過し、以前から副社長と仲良くしていた財務会計の机の元へ行く。
闇の中、彼女は目を光らせて財務会計の机を漁った。
完璧なる証拠を探すために彼女は漁り続けると、一番奥に大事そうに仕舞われた書類が2枚存在した。
「黒字収入を受けてこれからも月麗カンパニーのサミニウム取引を行う」ことが記された書類。
そして「200億の赤字の部分に横線が引かれ、30億の黒字に訂正された決算報告」が記された書類の原本。
・・・彼女は確実なる証拠を手に入れたのだ。
コピーしようと思った時、闇の中から一筋の光が彼女を照らす。
見回りしていた警備員の懐中電灯に彼女の姿が映ってしまったのだ。
「や、ヤバい!」
美鈴はコピーしまいまま、そのまま2枚の書類を持って社内を疾走した。
不審人物だと特定した警備員は追いかけてくるが、足の速い彼女に追いつくことは出来なかった。
夜の道を彼女は確証となる2枚の書類を持って走っていた。
いつか、自分をリストラしたあの会社に復讐する為に・・・。