EPISODE 1
「地獄の沙汰も金次第」・・・。
地獄の裁きでさえも金で解決できる、との意。
幻想郷ではそんな諺が流行りつつある。
蔑むようにその言葉が使われていたのは飛んだ昔、時代が移るに連れてお金が必要となっていった。
そして住人たちは未知なる外界に手を出す。
それは恐ろしいことなのであろうか。だが外界で彼女たちは馴染めていた。
コンクリートの海の中、彼女たちは会社を立ち上げ、働いていた。
サリエルは岡崎夢美と共に小さな会社「東方重工」を立ち上げる。
2人で立ち上げたその会社は小さながらも必死に踏ん張っていた。
そして銀行に優良企業として認められ、正式に融資を受けられるまで成長した。
―――が、悲しみは突然やってくるものだ。
「サリエルー、今月の融資はどれくらい?」
重い書類を運んで片づけていた夢美はサリエルに融資の金額を問う。
融資は彼女たちの経営を支える命綱だ。
「あー、待ってー。今から書類を確認するね」
サリエルは銀行から届いた、今月の融資についての書類を見た。
その時、彼女から血の気が引いていくのが良く分かった。
「ど、どうしたの?そんな真っ青な・・・」
書類を一目通したサリエルは固まっていた。
「なになに、サリエルどうしたの?」
夢美はサリエルが持つ融資用の書類を一目見た。
そして彼女は信じられない現実を目の当たりにする。
今まで信用していた銀行からの融資が、ほとんどゼロに近い金額なのだ。
優良企業として認められたため、融資は約束されたのが普通だと思っていた。
それが一気に崩れ去ったのだ。
「どどどどどどどうしよう・・・!・・・このままじゃ・・・」
サリエルは銀行の謎の裏切りに震えが止まらなくなった。
一生懸命やってきたこの会社も、急に見放されたのだ。
そして彼女は恐ろしく、そして非情に夢美を見た。
「・・・融資が・・・無い・・・」
夢美もそんな事実に絶句せざるを得なかった。
「このままではこの会社は・・・」
「終わり、だ・・・」
逃げたくても逃げれない、比喩出来ない焦りは彼女たちを掻き立てる。
そこに1人の人物が東方重工の玄関の扉を開けて入ってきた。
その人物は宇佐見銀行で勤めている封獣ぬえであった。
「み、皆さん、一体どうしてそんな暗く・・・」
顔が真っ青な2人はそんな声に対して反応した。
そして相手が宇佐見銀行であることに怒りを覚えた。
「ぬえさん・・・以前から、私の会社の担当でしたよね」
サリエルはゆっくりと彼女の元へ歩いていく。
スーツ姿がお似合いの彼女はそんなサリエルから少しずつ遠ざかっていく。
「な、何があったんですか?」
「これです・・・」
サリエルはぬえに融資の件の書類を突きだした。
「私たちの会社は貴方たち銀行によって潰されました」
怒りとも悲しみとも受け止められる彼女の言葉にぬえは戸惑いを覚えた。
「な、何ですかこの出鱈目な書類は!?」
あり得ないその数字に驚きを見せる担当者はすぐに正式な書類なのかどうか調べるぬえ。
捺印などを見た結果、審査に通った正式な書類であることは分かった。
しっかりと頭取の捺印が押されている。
「おかしいです!こんな書類・・・普通なら通りませんよ!」
下っ端の銀行員であるぬえは発言力こそは無いが、この書類のおかしさは一目見て分かった。
担当企業である東方重工はその経営の上手さから優良企業として認めていた。
一定の融資は約束されていた会社である。
「・・・ぬえも分からないの・・・?」
夢美は恐る恐る彼女に問いかけると、彼女は勢いよく首を縦に振った。
「こんな出鱈目、私は知りません!」
実はぬえも大変であった。
担当している企業が潰れると、その責任を追及され、最終的には出向は免れない。
彼女も急に融資を減らした銀行の上層部に謎を抱いた。
「何故、優良企業である東方重工への融資を減らしたのか・・・?」
「もう、どうしようもないんじゃない」
サリエルは落胆していた。諦めていた彼女に希望は無かったのだ。
急に振るわれた辣腕は彼女たちの心を突き刺したのだ。
そして一気に底まで陥れた。
ここで夢美が口を開いた。
「どうせ諦めるなら、最後まで真実を追求してから倒れたほうがよっぽどいい」
夢美は固い決心もその言葉に含め、サリエルとぬえに言った。
追いつめられた2人も、そんな彼女の言葉に反応した。
「私たちへの融資を減らした最もな原因・・・それを探る、ってことね」
「私も・・・この身は長くないと悟りました。・・・協力します」
静かに3人は結託し、銀行内で行われた真実を追求することを決めた。
明るい雰囲気は消え、そこにあったのは沈黙。
その沈黙には彼女たちの不安と決心が混ざりあった、複雑な心境であった。
「・・・真実を追求しよう。・・・私たちは戦える。
・・・このまま銀行に飲みこまれるのではない、最後までもがき続けよう。
・・・行こう、夢美、ぬえ」
「・・・そうだね」
「・・・行きましょう」
サリエルは東方重工の繊細的な工業技術を駆使して作り上げた合体剣「セノヴァ」を背中の鞘に差す。
セノヴァは普通は大きな大剣だが、トリガーを引くと一気に分解され、7本の剣に分かれるようになっている。
そして夢美は同じく東方重工製の「ハイドロガン」を装備する。
ハイドロガンは空気砲を銃程度に圧縮し、威力を銃と同じ程度にした空気の最新科学。
ぬえはショットガンを構えた。
よく銃の射撃練習をしていた彼女にとってショットガンは片手で扱える代物であった。
3人の装備の支度が終わり、彼女たちはこれから迫りくるであろう闇と戦うことを再び誓った。
「行こう、宇佐見銀行に」
もう、何も怖くない。
真実を求めて、彼女たちはドアノブに手をかけた。
δ
車が行き交う大通りの前を占拠するかのように聳え立つ、ガラス張りの大きなビル。
ビル前の広場には老若男女問わず、色々な人がのんびりしていた。
そのビルに出入りする、エリート風の人物。
広々とした玄関前の大理石にはこう刻まれていた。
「月麗カンパニー」
純狐が経営する月麗カンパニーは新たに発見されたエネルギー源である「サミニウム」という結晶からエネルギーを取り出していた。
サミニウムは石油の何倍ものエネルギーを持ち、世界では第2のエネルギー革命が起こっていた。
それのエネルギー抽出を行う月麗カンパニーはトップシェアであった。
しかし、多くの企業にエネルギーを送る月麗カンパニーはトップシェアながらも経営不振に陥っていた。
経営者である純狐は経営者としては無能の類であり、いつもヘカーティアが経営に口出しをしていた。
・・・いや、もう彼女が経営者といってもおかしくはないだろう。
それ程まで純狐はヘカーティアを信頼していた。
・・・単なる馬鹿話である。
そう、経営者が無能であった為に月麗カンパニーは傾いていた。
δ
とある高級日本料理屋にて、2人の人物が向かい合いながら話しあっていた。
何も乗っていない机に乗せられた、1枚の書類。
「・・・このままでは信頼を失います」
「・・・仕方ない」
差し伸べられた書類を、彼女は受け取った。
その書類は「赤字200億」を線で訂正され、「黒字30億」となっていた。
「・・・バレないことを祈るぜ」
「・・・分かりました、魔理沙さん。私も全力で隠し通します」
「・・・お願いするぜ、鈴仙」
コピーされたその書類は魔理沙の鞄の中に入る。
会社の利益を書き換えた彼女たちは、秘密ながらも隠蔽行為を働いたのだ。
δ
宇佐見銀行の会議室にて、マエリベリー・ハーンは過大融資を勧める衣玖と言い合いをしていた。
「経営不振な月麗カンパニーに過大評価するのはおかしいです!」
「・・・専務取締役さん、頭は固くならない方がいいと思いますよ」
衣玖はそんなマエリベリー・ハーンを跳ね返した。
「と言う訳なので、月麗カンパニーに融資をお願いします」
「分かった」
衣玖の発言を聞いた蓮子は承諾し、彼女は不満であった。
「どうして!?蓮子、目を覚ましなさい!
このまま融資を続ければ、月麗カンパニーはいつか倒産して融資の責任を負わされるわ!」
親しい仲であった蓮子にそう言い聞かせるも、彼女は外を眺めていた。
「衣玖はしっかりとこれからのコスト面や経営方針を見抜いていた。
・・・彼女に任せるのがいい」
蓮子はマエリベリー・ハーンの言う事に聞く耳すら持たなかった。
「蓮子・・・どうして・・・」
分かり切っていることが避けられない。
マエリベリー・ハーンは本気であった。
他の企業への融資を減らし、月麗カンパニーに纏める衣玖の案はおかしい。
それはボロボロの月麗カンパニーにのしかかる行為であり、月麗カンパニーが潰れれば銀行も破綻する。
彼女は何とかして衣玖を止めることを決意した。
それはこの銀行の未来の為、そして親しき蓮子の為に。




