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EPISODE 9

これR15?違うよね、多分

ヘカーティアの携帯が振動していた。

彼女はすぐに携帯を開くと、衣玖からの電話であった。


「ああ、衣玖・・・その様子だと、何かあったみたいだね」

「・・・来月から過大融資は行えなくなった」


衣玖からの宣言に彼女は一瞬、動きを止めた。

そして今衣玖が言い放ったこと―――過大融資中止の件に不安と暗礁しか見えなくなったのだ。

・・・今まで築き上げてきた月麗カンパニーが崩れてしまう。

彼女は衣玖の僅かな言葉で感情が豹変していた。


「・・・ど、どうして衣玖・・・」

「私の賄賂の件が公に出てしまった・・・。・・・懲戒免職だ」

「・・・なら私たちは・・・」

「すまない・・・」


ここで衣玖からの電話は途切れてしまった―――。

身勝手にも切られた電話を続けていたヘカーティア。

呆然としていたのだ。


「・・・向こうも気づいてるのか?」


ヘカーティアはすぐに携帯で博麗製鋼の経営者である霊夢に電話を入れる。

相手はそのままヘカーティアの電話に応じた。


「・・・ヘカーティア、あんたも融資が・・・」

「そう、私たちは奴らに融資を止められたのよ・・・」


悲嘆に暮れるヘカーティアに彼女は同情した。

何故なら、彼女もヘカーティア同様に融資を減らされ、かなり厳しい経営を強いられているからだ。


「・・・言いたいことは1つだ」

「・・・あんたが言わなくても分かるわ」

「・・・奴らをぶっ潰す」


                    δ


「すみません・・・奴らを殺害したどころか追い詰められて鈴仙さんの名前を・・・」


携帯の中で謝罪していたのは、3人を殺害しようとした暗殺者であった。


「・・・奴らはそんなに強かったか。・・・お前には失望した」


同時に彼女は電話を切り、向こうの言い訳も聞かなかった。

・・・聞く必要も無いのだろう。


「・・・役立たずだな」


そして目の前にいる、3人の暗殺者を雇った担当が悲しそうに下を俯いていた。


「・・・」


何も言わないまま、彼女は下を向いたままであった。


「・・・お前の所為なんだよ、カナ。・・・どんな屑を雇ったんだ」

「・・・でも!やっぱり殺害計画なんて・・・!」


カナは殺害などしたくなかった。

平和な社会生活を楽しんでいた彼女に出されたのは「3人の殺害」。

仕方なく雇ったものの、良心は相当痛んでいた。


「その顔、何か文句がありそうだな」

「ありまくりです!」


カナは勇気を振り絞って大声で叫んだ。


「誰も殺しちゃいけません!例え相手が我が社を陥れた存在でも、他の新事業に手をつけるなどやることは一杯あるはずです!」


「・・・そうか、歯向かうならもう辞めろ。お前の変わりなんて蚤の数くらいいる。

いいから荷物を纏めて出ていけ。辞表は私が書いてやる」


鈴仙に告げられた、突然のクビ。

不意に涙しか彼女は流れなかった。


「・・・分かりました」


仕方なく彼女は自席に戻り、荷物を纏めた。

しかし暗殺者のことは何も通そう、列記とした事実であった。

これを報告する義務が彼女にはあった。

自身の暗殺の失敗を報告するため、魔理沙の部屋へ訪れた。


「失礼します・・・」


鈴仙が扉を開けて中に入ると、そこには魔理沙の姿と同時に霊夢の姿もあった。


「しゃ、社長!?」

「あんたが言いたいこともよく分かるわ。・・・失敗でしょ?」

「・・・」


社長に的中されて言いにくい状況となったが、渋々「・・・はい」と答えた。


「やっぱりだぜ。・・・鈴仙、でも仕方ない。奴らは衣玖すら倒したんだからな」

「え!?あの衣玖さんが・・・」


過大融資を行ってくれた衣玖を倒した3人。

衣玖を倒した彼女たちは月麗カンパニーと博麗製鋼から怒りを買ってしまったのだ。


「・・・最終手段に出るわ。社内総出よ」


                     δ


帰る場所を失い、どうすることも出来なくなった彼女は1人、本社前で立っていた。

目の前を多くの車が行き交う。

行き場を失った彼女の目には憎悪と憤怒が燃えていた。


自分の意見を言っただけで退職させられる会社。

勿論、退職金なども出ない。

・・・彼女はもう何も未練が無かった。


「・・・なら戦うまで・・・鈴仙、お前を滅茶苦茶にしてやる」


そう固く誓った心を持って、彼女はバイクに跨って運転を始めた。

彼女が向かう方向は、博麗製鋼の敵―――東方重工の方向へだった。


                     δ


衣玖を倒した3人は暗殺者の件を含め、まだ敵がいると悟った。

自分たちに恨みを持つ2つの企業・・・裏の画策が消された怒りを買ってしまったのだ。


「・・・戦うしかないんですね・・・」

「・・・他にどうしろって言うのよ」


サリエルはまだ立ちはだかる壁に戸惑っていた。

今までは衣玖1人を敵としていたが、今回は2つの企業そのものである。

科学の最先端を辿っているであろう大企業を、中小企業が敵に回してしまったのだ。


「・・・衣玖と裏で結んでいたことは、向こうにも何らかの不祥事があるはず。

・・・過大融資を行った真相を辿りに行こう」


サリエルは研磨したセノヴァを鞘に仕舞い、窓の外の景色を眺めた。

何の罪もない陽の暖かさが彼女に降りかかる。


「・・・このままじっとしていても狙われて殺されるかもしれないからね。

・・・だったら行動に移して真相を追求した方がいい」


夢美も賛同し、自身のハイドロガンの整備を行っていた。

銃弾に限りのないハイドロガンは撃てる弾の限界こそは無いものの、銃が少しでもおかしければただの不要物に成り下がってしまう。


すると中にチャイムの音が鳴り響く。

誰かがここへやってきたようであった。

が、彼女たちは非常に警戒していた。


「・・・スパイか?」

「スパイならこんな堂々と来ないと思いますけどね」

「なら配達屋と見せかけて爆弾魔か?」

「実際に出てみればいいと思いますが・・・」


ぬえの言葉を受けてサリエルは恐る恐る玄関の扉を開けた。

そこには博麗製鋼のロゴが入ったスーツを着ていたポルダーガイスト・・・。

スーツとは対照的に描かれる、赤いリボンがついた可愛らしい帽子を被り、後ろで「止まれ」の標識を持っていた。


「・・・私の服を見て、やっぱり「敵」だと思いますか?」

「・・・博麗製鋼の奴だろう」

「・・・私は貴方たちを殺そうとした暗殺者を雇った者ですよ」


自分から敵を名乗る相手に対し、サリエルは訳が分からなくなった。


「・・・お前が私たちを殺そうとした暗殺者を雇った・・・つまり「担当者」か?」

「・・・そうですよ。『元』担当者です」


『元』の部分を強調した相手は何処か悲嘆していた。


「・・・元?」

「そうですよ。夢を失い、帰る場所も失った騒霊です」

「もしかして『不当解雇』を受けた!?」


急に飛び出して来たのは夢美であった。


「不当解雇?」

「サリエル知らないの?博麗製鋼の新しい伝統文化、上からの圧力で無理やり解雇させられる酷い制度だよ」


すると相手は悲しそうに頷いた。


「・・・私は、財務会計の鈴仙に圧力をかけられました」


こう告白した相手に対し、「やっぱり」と首を縦に振る夢美。


「マスコミはマスコミでも、週刊誌は正直だからね、この世界のは。

以前買った「週刊新世情」に月麗カンパニーから圧力を受けて辞めざるを得なかった人のインタビューがあってね。

・・・情報は嘘も正しいも広まるけど、こうして目の前にいると信じざるを得なくなるでしょ」

「・・・その情報は本当です。私のフロアでも忽然と姿を消した社員は多かったです・・・」

「・・・で、今日は何故ここに?」


サリエルはそう問うと、相手は小さく頷いてから話し始めた。


「・・・貴方たちと一緒に奴らを潰したいんです。今までの恨みを晴らしに・・・」


自分を追い詰めた、精一杯働いてきたはずの自分に見返りすらしてくれなかった企業・・・。

―――博麗製鋼に。


「・・・でも博麗製鋼出身である以上、私たちは信用出来ないよ」

「それでも構いません。今や只の浮浪者、やることは貴方がたの旅の力になること位ですから」

「・・・」


ぬえも玄関にやってきては、相手を見つめていた。

怪しそうに相手を見つめたぬえは、大きく頷いた。


「今まで多くの企業を相手にしてきたから分かります。この人は本当の事を言ってます。

自分はそういう役割に就いてる為に心理学も少し手を付けているんですが、私なら信用します」

「てか心理学に手をつけてたのね」


意外な一面に驚く夢美だが、サリエルはぬえを信用した。


「・・・ならお願いしたい。・・・でもどうやって戦ったりするんです?」

「これです」


相手は後ろで持っていた「止まれ」の道路標識を右肩に乗せていた。


「これで戦います。種類は鈍器扱いですが、切断も容易です」

「万能な武器がそこに・・・」

「初めて「道路標識」で戦う人を見ましたよ」


持っている武器の異様さに突っ込みたくなるサリエルたち。

色々な戦記やライトノベルを読んでいたとしても、道路標識で戦う人は余りいないだろう。


「もしこのまま編成を組むとしたら、近接武器担当のサリエルさんと・・・お名前は?」

「私ですか?私はカナ・アナベラル・・・カナとでも呼んでください」

「じゃあサリエルさんとカナさんが前線、銃使いの私たちが後方ですね」


ぬえは編成について纏めた。


「でも不当解雇と言っても何かしらの理由はあるのでは?」

「・・・私は正直言って、鈴仙が元から大嫌いでした。その上に「殺害担当」を任されたのですから」

「私たちを殺そうとしたけど失敗して、責任を追及されたとか?」

「それもそうですが、私はきっぱりと言ったんです。

―――『いくら憎くても、誰も殺してはいけない』、と。そしたらこの様ですよ」


するとサリエルは薄く笑った。もう彼女は決めたようであった。


「腐ってるね。その会社。私だったら新しい事業に手を出すとか経営に集中するけどね。

・・・その会社は犯人捜しが大好きのようだからね、私たちも頑張らなきゃ。

・・・如何に自分たちが愚かな事をしてきたのか、分からせる為にね」

「でもどうやって追い詰めるんです?」


ぬえがサリエルに問うと、サリエルは録音機を取り出した。


「これがカナに雇われた暗殺者の言葉だ、これで奴らが私たちを敵視してることが証明される」

「でも他に陥れる方法があれば・・・」


するとぬえの携帯に着信が入る。

携帯を取り出して出てみると、相手は支店長のリリーであった。


「ぬえ!今、博麗製鋼と月麗カンパニーに狙われてるのは知ってる!?」


リリーの焦りが彼女たちを不安にさせる。


「はい、一応知ってますが・・・」

「それに対抗できる書類を持ってるんです!不当解雇された内部告発者が博麗製鋼の隠蔽書類を持ってるんです!

これを拡散すれば博麗製鋼の信用は落ち、提携していた月麗カンパニーも被害を免れません!

・・・こっちも反撃する準備をするんで、今日はこっちへ来てください!場所はいつもの料理屋で!」

「あ、はい!」


そう返事すると向こうから電話は切れた。

話の内容を聞いていたカナは他にも仲間がいることに安心した。


「同じ不当解雇を受けた人が・・・その書類を・・・」

「諦めずに立ちあがって歯向かおうとしてるんですよ。・・・私たちも負けてはいられませんよ!」


するとぬえはセダンの運転席に乗り込んだ。


「集合場所は把握してるので、皆さんで行きましょう」

「そうね、その書類を見せて貰わなくちゃ」


続いてサリエルと夢美も乗り込んだ。


「・・・博麗製鋼、もうあの会社には何も未練はない」


彼女は迷いを断ち切り、今までいた会社に復讐することを決めた。


                      δ


セダンは広々とした駐車場の一角に止まっていた。

そこから降りた4人は目の前に大きな庭園を構える高級日本料理店へと入っていった。

鹿威しの音が鳴り響く。

暖簾の下を潜り、中にいた店員に案内され、個室へとやってきた。

高級感を醸す襖を開けると、中には美鈴とリリーが座っていた。


「来ましたね。・・・あ、1人新たなお客さんが増えました」


カナの事を指して言っているのであろう、しかし全く罪を見せない眼で迎え入れるリリー。


「遅れましたね」

「いやいや、こっちもいきなり呼んで申し訳ないよ。まあまあ座って」


言葉に甘えて4人は座る。


「ところで新たな仲間が増えたようだけど・・・お名前は?」

「あ、私はカナ・アナベラル・・・カナとでも呼んでいただければ幸いです」

「私はリリー、宇佐見銀行支店の支店長を務めてるんです。

・・・カナさん、貴方は今何処で・・・」

「博麗製鋼から不当解雇を受けて困ってる時に私たちの仲間に加わった、って感じ」


サリエルが追記説明すると、美鈴が驚く。


「カナさんもあそこを退職された人なんですか・・・!?」

「は、はい・・・。・・・上からの圧力が・・・」


悲しそうに俯くカナ。そんな彼女に美鈴は背中を優しく叩いた。


「・・・私も同じです。・・・カナさん、一緒に頑張りましょう。

・・・奴らは隠蔽や金のことしか考えてない、腐った上層部なのですから。

・・・革命を起こしましょう」

「・・・あ、ありがとうございます」


「・・・革命、か。かっこいい表現だね」


美鈴の言葉に感銘を受ける夢美。

カナと美鈴は同じ立場であり、何処か気が合いそうであった。


「で、本題に話を振るけど・・・美鈴」

「はい」


リリーに言われて鞄から書類を差し出す美鈴。

2枚の書類を机の上に差し出すと、4人はそれを見て確証を得た。


「・・・隠蔽してますね。信頼を失いたくないために230億も化かしていたとは・・・」

「これをマスコミに売りつけるんですか?」

「・・・それが1番かな、と。そしたら勝手に崩れていくものですよ」

「でも何処に売りつけるんです?」

「そこを考えているんです・・・」


リリーは悩んでいた。

信頼できるマスコミが存在しない彼女にとってこれは苦渋であった。


「でもその書類を世間に見せたら、投資家や株主たちが気づきます。

・・・博麗製鋼、そして博麗製鋼と提携していた月麗カンパニーは責任を追われて崩壊します。

・・・美鈴さんは凄い書類を盗みだしたと思います・・・」

「かつてテレビで『博麗製鋼に不審者出現』って報道していませんでした?

・・・あれ、私です」

「え!?」


4人は一斉に目を丸くした。


「そこまで危険を犯してまで・・・凄いです・・・」

「何もやらないでフリーターになるよりも最後まで足掻きたいと思ったんです」


「余計な真似を・・・!」


急に響いた怒号。

そして襖が開いたと同時に3人の暗殺者と共に姿を晒したのは―――鈴仙であった。

目を真っ赤に染め、ハンドガンを右手に構えて現れる。


「美鈴、お前が私たち博麗製鋼の隠蔽書類を盗んだのか」


しかし美鈴は何も怖くなかった。以前までは畏怖の対象だった彼女も、もう上司でも何でもない。

無関係な人間だ。


「盗んで何か悪いですか?隠蔽隠しの財務会計さん?」


「・・・喧嘩を売るのは一丁前だな。・・・だが、それは後に『後悔』となる」

「詩人っぽく言ってるけど、実際のお前は只の犯罪者だからな。『隠蔽うさぎ』」


隠蔽うさぎ、と言われた鈴仙は憤怒する。


「・・・今の侮辱、命に代えて償ってもらおう!赦さんぞ、裏切り者め!」


するとリリーと美鈴はすぐに書類を仕舞っては急に動き出し、鈴仙と共にいた暗殺者たちの気を引いた。


「この3人は私たちが相手します!だからサリエルさん達は鈴仙を!」

「分かりました!」


4人は武器を構えて鈴仙と対峙した。

畳の上で、彼女たちは睨み合っていた。


「・・・終わらせる、私が・・・博麗製鋼の栄光に賭けて!」


                       δ


拳銃を片手に構えた鈴仙は赤い瞳を輝かせた。

ルビーのように幻想的な美しさを誇ったその目は表とは裏腹に狂気を孕んでいた。


「衣玖の真実を暴いたりしなければこんなことにはならなかったのにな!」


鈴仙はすぐさま目の前にいる敵に向かって引き金を引いた。

躊躇なく発射された銃弾は空中を裂きながら、彼女たちを陥れた4人の元へ飛んでいく。


「セノヴァで守る!」


大きな刀身を生かして、彼女は3人の前に立ってセノヴァを盾代わりに構えた。

銃弾はセノヴァによって弾かれてしまう。


「大きな剣を持ってますね・・・。・・・これが貴方たちの技術の結晶ですか?」

「如何にもそうだけど、博麗製鋼なんかの手にかかればこんな剣、量産出来るんだろうね!きっと!」


鈴仙は他の3人に目を付けて引き金を引いた。

サリエルの横を通り抜け、高速で連射する。それらの銃弾は3人に向けられた。


「こっちは少し危険だけど・・・やるしかない!」


カナは持っていた道路標識で襲い掛かる銃弾に向かって思いっきり叩きつけた。

特殊製法で出来た謎の止まれ標識は銃弾に負けず、弾はそのまま畳にめり込んでいた。


「てかどんな道路標識なのそれ!?銃弾を叩きつけられるとか・・・!?」

「隙あり!」


驚いていた鈴仙に向かってぬえはショットガンを構えて射抜いた―――。

鈴仙はすぐさまぬえの射撃に反応し、目を再び赤く光らせて身をかわす。

空中で回転して回避する彼女は全てを見切っていたかのように―――。


「そこですね!」


回避して着地した瞬間に夢美はハイドロガンの引き金を引いた。

気圧が凝固した衝撃弾を放ち、それは着地の反動を受けていた鈴仙に襲い掛かる。


「・・・!」


再び赤く目を光らせるや、彼女は攻撃を再び見切ったのだ。

回避不可能だと思っていた夢美は彼女の俊敏な動きを見て驚愕する。

そして彼女は避けながら再び引き金を引いた―――。


「死 ぬ が よ い」


彼女の呟いた言葉―――。

その瞬間、夢美とぬえは力が抜けていったのだ。

持っていたショットガンとハイドロガンを畳みの上に落とし、そのまま身を沈めたのだ。


「夢美ッ!ぬえッ!」


セノヴァを盾にし続けていたサリエルは2人の負傷を心配したが、今はそれどころでは無かった。

鈴仙は残った2人を始末すべく、仕事を片付けるような感覚で銃を構える。


「後はお前らだけだ。・・・死ぬ前の蚊のように小賢しい」

「貴様をこの剣で叩き斬ってやる!」


サリエルは両手で重たいセノヴァを構え乍ら一気に鈴仙に斬りかかる。

鈴仙は急接近してきた彼女に対し、嘲笑しながら引き金を引いた―――。

―――が。


「止まってください!この標識が目に入りませんか?」


鈴仙の放った銃弾は突然入り込んできた道路標識によって防がれてしまう。


「なっ・・・!?」

「そのまま・・・吹っ飛べー!」


重たい一撃が彼女に襲い掛かった―――。

スーツ姿の清楚な彼女はそのまま斬撃の勢いによって襖を突き抜け、隣の部屋の机に衝突する。

偶々机の角で無かったが為に彼女はすぐに起き上がった。


外からは従業員たちが悲しそうな眼で見ていた。

何も抵抗できない、非力な者たちの哀れさをサリエルは身に染みて感じた。


「・・・まだやるのか」


サリエルは起き上がった鈴仙に問う。

当の鈴仙は銃口をサリエルたちに向けて、ゆっくりと喋り始めた。


「・・・私たちの会社を滅茶苦茶にしたお前らが赦せるとでも?」

「隠蔽なんてするから・・・」


博麗製鋼の所業に呆れるサリエル。

信用を失いたくない為に執られた、最後の最後の手段だと思われる。


「・・・どうして隠蔽しなくちゃいけない程の借金を抱えたのかすら分からない、私には」

「お前には関係ないだろう!」


憤怒した鈴仙はサリエルに向かって銃弾の吹雪を放った。

猛吹雪に耐えるためにセノヴァを盾に耐え抜くサリエル。


「まだまだァッ!終わらせるかァッ!」


口調が男っぽくなっていく鈴仙。

普段、会社では冷酷として描かれていた彼女も、本当はワイルドであった。


「俺様のターンだよ!永遠にな!」


尽きることのない銃弾。

終わりを告げようともしない吹雪は手加減も無しにサリエルに牙を剥いた。


「あはははははははは!死ね!死ね!」


段々と狂っていく鈴仙。耐え抜くサリエルの滑稽さに笑っていたのだ。

当のサリエルはセノヴァを盾に必死に避け続けていた。

セノヴァから少しでも身体を出せば射貫かれてしまう。


「あーらよっと!」


カナは調子に乗ってサリエルばかり撃ち続けていた鈴仙の臀部に向かって思いっきり道路標識を叩きつけた―――。

物凄い衝撃が無防備な彼女に襲い掛かる。

標識通り、彼女の行動は「止まった」。


「い、痛い・・・」


プロ野球の打者の如く力強く叩かれた鈴仙は銃を畳の上に落としてしまう。


「今です!サリエルさん!」

「分かった!」


不意打ちを受けて反動で身体が動かない鈴仙に向かって、止めを刺そうとするサリエル。

トリガーを引き、7本の剣に分裂した後、持っていた剣を高く振り上げた。


「貴方にぴったりの四字熟語があるんですよ・・・。

・・・それはですね、「轗軻落魄」・・・落ちぶれたお前のような意味を差す言葉だよ!」


一気にセノヴァを叩きつけたサリエル。

7本に分裂したセノヴァの斬撃を受け、彼女は再び襖を突き抜け、今度は壁に衝突した。

そのまま彼女は壁によりかかって倒れる。


「夢美とぬえが!急いで助けよう!」


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