戦う天才
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午前6時、と言っても宇宙航海に時間の概念はあまりないが、に私は目を覚ます。宇宙船はそれぞれに就寝時間と起床時間が定められている。というのも、通り過ぎる数多の恒星に体内時計を一々合わせていたら逆に体に毒だ。だから船員の健康の観点から蛍光灯の点灯と消灯時間が徹底的に管理されているのだ。
ぐっ、とのびをしてから寝間着を着替えて身だしなみを整える。午前6時半から艦長と会食するのが将校以上の、所謂VIPと呼ばれる客人の、しきたりだ。昨日副艦長も朝の会食は同じ佐官のユーリ=ブリタニカ艦長が出ると言っていたし時間を厳守した方がいいだろう。
「それにしてもこのタイタニカ号、中々いい艦だな。流石は最新鋭の最大級艦と言われるだけはある」
「・・・・・・」
つまらない。私が話しかけているというのに目の前のユーリ=ブリタニカは全く返事をしない。それどころかこちらには全く目もくれず振るえる手でスプーンを使ってスープと格闘している。
「それでだユーリ少佐、貴艦の昨日見れなかった所を見て回りたいのだが許可していただけるだろうか?」
「フクカンチョウニマカセテイル」
「しかし、これから副艦長に許可を取りに行くのも面倒だ。少佐がこの場で許可してくれた方が手っ取り早いのだが」
「フクカンチョウニマカセテイル」
駄目だ。衰えたユーリ少佐を起点に探りを入れられるかと思ったが思いの外ガードが堅い。いや、ガードが堅い云々以前にこいつは何もしていない。居る様で居ない、まるで傀儡の様な存在だ。
ゲストが艦の中を自由に出歩くことは褒められたことじゃない。各艦にはそれぞれ機密技術や機密資料があるからだ。それをむやみやたらに詮索すればスパイと勘違いされても仕方がない。いや、事実私はスパイなのだが。だが技術者としての好奇心と全世界の技術の発展を建前に副艦長からほとんどの部屋、技術の閲覧許可を貰って私はこうして正々堂々とスパイ活動ができるようになった。
「おい、ここは部外者は立ち入り禁止だ」
はずなのだが命令が行き渡ってないのだろうか。
「許可は取っている。副艦長に確認してくれ」
「いいや、そんなこと聞いてないね」
ゴリラを彷彿させるような大男が私の肩を上から抑え付ける。制服から見るに階級は一等兵以下。そして私には『閲覧許可を貰ったが襲われた』という事実がある。まあ、兎に角。
「汗ばんだ手で私に触るな」
先ずはこいつを"のして"後々の交渉材料にでもしよう。私の肩を持つ右手を掴み、大男を投げる。私の筋力じゃこいつを持ち上げることも投げ飛ばすことも本来できない。だが武術はそれを可能にした。こいつを投げる、というよりもむしろ"転がす"。威力は無いが相手の心にくるものがある。
「あああ!!」
案の定大男は直ぐに立ち上がり顔を紅上させて咆哮を上げる。それを私は狙っていた。相手が叫び上がった好きにその顎を左の掌で打ち上げる。だが奴の太い頸椎では脳を揺らすことはかなわない。だがそれでも構わない。
素早く左手を引きその反動で右の拳を突き出す。ただの拳じゃない。ボクシングのような箱を模した拳ではなく中指の第二関節を強調した角のような拳。地球の日本の武術、空手では一本拳と呼ばれる型だ。
私はそれを容赦なく大男の喉仏に突き刺した。
悔しいが奴が私にしたアドバイス、武術をたしなめ、というのは私自身の身を立てるのに役立ったし何よりも私のバトルマンのプログラミングにも役立っている。




