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Colorful Drops

rainbow candy

女性従業員の居酒屋トーク。

これからの登場のキャラクターがいたりいなかったりラジバンダリ(懐)。


閑話休題の位置づけで、当社比会話文増量です。


「こんばんわ~」

「おぅ、いらっしゃい」


カズコは赤い提灯の下がった暖簾を押し分け店の中に入る。いつも暖かく迎えてくれる店主が、前歯の欠けた歯を見せて笑顔で迎えてくれた。


「お疲れ様です。お通しとおしぼりどうぞ」

「ありがとう」


入り口から見える位置にはオープンキッチンと対面式のカウンター。カウンターの一番奥に腰を下ろして上着とバッグを隣りの席に置くと、タイミングを見計らったのか店の奥からから『colorful drops』で経理をしている島田ユイが顔を出す。

ここは彼女の実家で、店ぐるみでユイの父にお世話になっていた。

6人用の座卓が3つ置かれた座敷と10人掛けのカウンターが『こてつのみせ』の全てだ。その座卓を2つ占拠して従業員たちは座っていた。


「何?カズコこっち混ざんないの?」


カズコがカウンター席に座るのを目敏く見つけ、すでにほろ酔いで顔を赤くしているホノミがカズコに声をかける。ホノミの右腕はヘアメイクのカズサの首を絞めており、カズサはその腕をタップしてギブアップを示している。


「ホノミ、連絡ありがとう。それより、早くカズサさんから腕放さないと死んじゃう」

「うん?このくらいへーきだよぉ。あはははは」

「平気じゃないから放してってば」


ホノミ、カズコそしてカズサは同期入社だ。しかし四年制大学を卒業したホノミ、カズコと違い、専門学校を出たカズサは二つも年下だった。

しかし、大人になればその程度の年の差など関係なく、3人はすぐに打ち解け、良き友達となったのだ。


「ホノミ、そのままだとカズサは確実に落ちるから放したら?」


呆れたようにカズコが自分のお通しとおしぼりを持って仕方なしに座敷に移動する。

確かに人恋しくてホノミに誘われるままに来てしまったが、正直、この喧騒の中に入っていくのは苦しかった。


「お疲れさま。がんばったね」


不意に声をかけられたほうを振り返ると、ユキコがジョッキを片手に奥の座敷で寛いでいた。

ユキコは高校時代の同級生で、この職場に先に就職していた。その縁でカズコは『colorful drops 』に就職し、その後も様々な悩みを打ち明けていた。

カズコにとっては長年の親友であり、同い年でありながらも頼れる姉のような存在だ。


「後で話し聞いたほうがいい?」

「ううん。大丈夫」

「そ?ならいいけど」


短いやり取りでこちらの意を察してくれる気遣いが、ユキコが年上・年下関係なく『姉さん』と呼ばれ親しまれる所以だった。


「ユキ姉、カズコさんやっぱり何かあったんですか?」

「ちょっとね」

「へー」


ユキコの隣りで梅酒を片手に体育座りで壁に凭れているのは、カメラマンの桜庭リサだ。家庭の事情で大学を中退したらしい彼女は、オーナーの知り合いに紹介されて去年入ってきたばかり。

本来なら今頃はまだ学生で、青春を謳歌していただろう。つい最近、カメラマン見習いの神崎トオルと付き合いだしたというのは、店の全員が知るところだ。


「そういえばリサちゃん、トオルは?」

「ガールズトークにトオル連れてきてどうするんですか?だいたいトオ」

「男連中は~。ふーくださんーに連ーれられーてー行ーちゃったー」

「それ、なんの歌なのよ」


渋い顔で答えるリサ。そんなリサの話を遮るように、後ろからホノミが童謡の替え歌を歌いながら乱入してきた。いよいよ酔いが回っているらしい。

ケタケタと背後から笑い声が聞こえたかと思うと、カズコの背中にズッシリとホノミの重さが圧し掛かる。この分だともう暫くするとホノミは眠ってしまうだろう。


「あちゃー。ホノミちゃんに飲ませすぎたかな?」

「ホノミさんハイペースでしたからね」


卓を挟んで壁側で傍観者然としているユキコとリサが冷静に話している。おそらく二人はホノミがこうなることをわかった上で壁側の席を陣取っていると思われた。

背中から引き剥がそうとするカズコをカズサが手伝う。その様子を見て、ユキコとリサは「さすがWカズ。手際がいいと思わない?」「そうですね」などとからかう。

その会話を背中越しに聞きながら、とりあえずはホノミを寝かせるのを優先させるべく隅に詰まれている座布団をいくつか取ると、ホノミが辛くならないように体に差し込んだ。


「お待たせー。あら、カズコちゃんも合流したの?何人か帰っちゃったからちょうど良かった」


携帯電話を片手にお手洗いに繋がる死角から出てきたのは、事務の伊藤リョウだった。32歳になる彼女は6歳になる息子がおり、普段こういった飲み会には滅多に顔を出さない。


「タツマくん大丈夫でした?」


カズコの隣りにリョウが腰をおろしたのを見て、ユキコが聞いた。


「うん。友達の家に泊まるの初めてだから緊張してホームシックになったみたいなんだけどね、じゃぁ帰るか?って聞いたら断固拒否だった」

「初めてのお泊りか~可愛いですね」

「まぁ、反抗期は過ぎたけどやんちゃで困っちゃうのよ」

「ヤンチャと言えば、トオルくんと最近どうなの?」


ホノミを座布団の上に転がしていたカズサがカズコの隣りに座って聞いてきた。


「だから!!どうして皆聞きたがるのさ!!」


急に矛先が自分に向いて驚いたリサは、周りが先輩だらけなのを忘れて叫んだ。恥ずかしいのか、持っていた梅酒を一気に煽ると空になったグラスをカウンターに向けた。


「おっちゃん!!梅酒ロックおかわり!!」

「あいよ」


威勢のいい声に満面の笑みで親父が返事を返す。しかし、これしきのことで誤魔化すことは出来ずに、カズサはさらに追求した。


「ねぇ、どこまでいったの?名古屋?大阪?」

「うわ、カズサちゃん、それはさすがに古いと思うけど…」

「え?そうですか?でも皆わかるよね?」

「わかるけどわかりたくないかも」

「さすがにそこまですっぱり切り込めないわ」

「というより、その手の話になれてないリサちゃんが固まってる」


リョウに言われて、一斉にリサを見る。

梅酒に入っていた梅の実を箸で掴んだままリサが顔も真っ赤にして固まっている。カズサは追撃の手を緩めずに言った。


「リサちゃんはちょっとのことでネガティブになるから、このくらい明け透けの方が落ち込まないでしょ?」

「いや…あの。えっと」

「確かに繊細な部分はあるけど、ネガティブではないよ」

「そうね。どちらかというと真面目すぎるっていうのが正解かな」


思考まで停止したリサに代わってユキコとリョウが続けて言う。その時、梅酒を持ったユイが座敷に上がってきた。

これ幸いとリサはユイに話しかける。


「エリカは?」

「カウンターでおじさん達相手に盛り上がってる。まぁ、おじさん達も悪い気分じゃないみたいだからほっといてるけど」

「そうなんだ。さすが合コンマスターだね」

「そうだね」


チラリとカウンターに目をやると、確かに、おじさんに混じって鼻にかかった甘えた声が聞こえる。

事務の佐野エリカがおじさんを相手にお酌をしているのだろう。彼女はそうやっていろんな男性にちやほやされるのを生きがいにしている節がある。

彼女はブライダル業界で玉の輿を目指すと言って憚らないある種の逞しさを持っている。

そのための女磨きと言ってああやって色々な男性に声をかけて遊んで入るが、食事をしたり買い物に行ったりするようだが意外と身持ちが堅いのを知っているので誰も本気で注意したりはしない。


「で?今日はイツキセンセー来ないの?」

「う~ん。多分来ないんじゃないかな。そろそろ中間考査だって言ってたし」

「教師も大変なんだね~。で、結局、籍入れるだけにするの?」

「何?ユイちゃんあの中学校の先生と結婚するの?」

「はい。彼が忙しいので籍だけ入れて、折を見て写真だけでも撮れればって思ってます」

「もちろん写真はうちで撮るんでしょ?」

「はい。もちろんです」

「というか、そのための女子会だったはずですよ?」


リサは今日の飲み会の本題を出して、自分に降りかかった火の粉を振り払った。

トオルとは、夏以降なんどもお互いの家を行き来して深い仲になったが、生来こういった話題が苦手な彼女は、そういったガールズトークを聞いてからかう事は出来ても、自分が話してからかわれるのはどうにもむず痒さを覚えてしまう。

そのため今回も自分の話題から逸らすべく必死だったのだ。


「そうか。そうだったわ」


カズサはあっさりと矛先を収めるとユイの腕を引っ張り、座敷に座らせるた。

すると、その周囲をリョウ、カズコと三人でぐるりと囲み逃げられないようにしてしまった。


「ユイちゃん、写真はいつ撮るか決めたの?」

「まだ。今年は彼、3年生を受け持ってて受験対策で駆け回っているし、来年は異動があるかもしれなしで具体的な日にちは決めてない」

「それより、よくお父さんが結婚を許してくれたわね」

「あ~。いろいろあったんですけど、彼の生徒に対する熱心な姿勢に折れたみたいです」

「え?お父さん、彼の職場に行ったの?」

「いえ。この間、彼が顧問を勤めているサッカー部の試合を見にいったらしくて」

「うそ。いつ行ったの?」

「先々週の土曜日です」

「それで?」

「彼はもともとサッカー小僧だったので、生徒たちへの指導にも熱が入っていたみたいで…」

「あぁ、その姿を親父さんは認めたんだ」

「そう。あ。でも納得して無いこともあるみたい」

「どんなところ?」

「野球じゃなくてサッカーというのが、父は気に入らないみたいです」

「あぁ。親父さん、生粋の阪神ファンだもんね」


ユイの言葉を受けてリサが店の内装を見回す。辺りに阪神のグッズがあり、その熱心さが伺える。


「でも、彼も阪神ファンだったからそれも折れた原因みたいだけど」

「あら、よかったわね。ウチのダンナと父さんが応援している球団が違うから大変で」

「そうなんですか?」

「ま、セ・リーグとパ・リーグで分かれてるのが唯一の救いね」


リョウが重大なことだと言わんばかりに頷きながら言った。

それを受けてユキコが言う。


「サッカーはインターナショナルになると大変よ」

「ユキちゃんはダンナ韓国の人だっけ?」

「そう。だから日韓戦は我が家も競技場さながらの白熱っぷり」

「それは本当に大変そうですね」


ユキコの苦笑いにユイが答えた。空になったジョッキやグラスを集めてトレーに乗せると、ユイは立ち上がった。


「ところで皆さん、そろそろラストなんですがドリンク大丈夫ですか?」

「嘘。もうそんな時間?」


壁にかけられた時計を見ると、時刻は23時15分を過ぎたところだった。このお店は駅から少し離れた住宅街近くにあり、近隣の迷惑を考え24時には閉まってしまう。


「お会計お願いしようかな。皆、もういいでしょ?」

「うん。私は大丈夫です」

「私もです」

「リサちゃんは?」

「いざとなったら軽く家で作ります」

「どうせトオルくんが来るんでしょ?」

「そういえば何処までいったのよ?」

「だから!!カズサさん、蒸し返さないでください!!」


自分のバッグから財布を取り出していたリサは、先ほどの話題を蒸し返されてしかめっ面で叫んだ。当のカズサは涼しい顔でユイから伝票を受け取っていた。

どうやら先ほどのように真剣に聞いてわけではなく、リサの反応で遊んだだけのようだった。

その後ろでは、リョウとカズコがホノミを起こしている。そこにエリカが戻ってきた。


「みなさんもぅおかえりですかぁ?」

「うん。明日も仕事あるし、ホノミが完全に落ちてるから途中までタクシーで送らなくちゃいけないから」

「じゃぁわたしもかえりますぅ」

「わかった」

「きょうはぁ、おいくらですかぁ?」

「ちょっと待ってね」


伝票に記された金額と、際に帰ってしまった人たちから預かったお金を照らし合わせながらカズサは携帯電話の電卓機能で計算していた。


「そういえばぁ、きょうはいちだんとさわがしかったですねぇ」


少々間延びした、鼻にかかった甘ったるい言葉遣いはこのメンバーには通用しないが、エリカにはそれが標準装備であるらしく、一度たりとも言葉遣いが崩れたことがない。

そのせいで営業などの、部外に関わる仕事にチーフは使いたがらない。それを知っているのか知らないのかは、チーフを含め誰もが全くわからなかった。


「今日はユイの結婚祝いをどうしようって話も兼ねてたしね」

「そういえば、それどうなったのよ?」

「あ。しまった。カズコ、お店出てから説明するわ」

「わかった」

「で。今日は一人当たり3,200円です」

「はい。カズサさん、ユキ姉さんと二人分です」

「ありがとう」


各々がカズサにお金を渡して帰り支度を始めた。完全に眠りに落ちて起きる気配のないホノミの分はカズコが払い、後日請求することになった。

そして、ホノミを帰すためだけにタクシーを使うのはもったいないといって、ユイの父が車を出してくれることになり、その好意に甘えて何人かは同乗して帰ることになった。


「私、こっから徒歩で帰れるんで先に失礼します」


一番最初に帰ったのはリサだ。彼女はこの近所に住んでいて、ここは駅から自宅までの通り道だ。

ユキコもリサの家に泊まるらしく、一緒に歩いて帰っていった。


「わたしはぁ、まだでんしゃがあるのでここからあるきまーす」


そう言ってエリカはリサと逆の方向に歩き出した。携帯電話を取り出してどこかに電話をかけ、「むかえにきてぇ」と甘えている様子から、誰かと一緒に帰るようだ。

ちょうどエリカとすれ違うように白いワゴンタイプの軽自動車がカズコたちの前に近付き、スッと止まった。

運転席からユイの父が出てきて後部座席を開ける。そこにカズコとカズサがユイの父の手を借りてホノミを押し込むようにして座らせ、二人も同乗する。


「ホノミちゃんてどっち方面だったかしら?」

「最寄り駅は経堂です」

「私、練馬だから反対方向だ」

「お父さんは大丈夫って言ってるので、時間かかりますけど乗ってください」

「そう?悪いわね」


そういってリョウが助手席に乗り、車は静かに発進した。

こうして『colorful drops』の女子会は幕を閉じた。



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