「いってきます」
「いってらっしゃい」
この言葉が、私が聞いた父の最後の言葉だった。
当時の私は中学2年生。
絶賛反抗期に入り、父のことをどうしようもなく疎ましく感じていた。
だからいつも学校へ行くときは、そそくさと家を出る。
たまに父が気づいて、「いってらっしゃい」なんて言うけれど、
私は当然のように無視して家を出ていた。
父は私が出ていくことに気がつくと、必ず「いってらっしゃい」というのだ。
今考えれば、片親の父ができる最低限の娘への愛情だったのだろう。
このことが習慣化してしまった私には、
父の愛情を無下にしているという罪悪感は微塵もなかった。
その罪悪感を事が起きてしまってから感じている。
ある日、いつものように何も言わずに家を出ようとした。
すると、会社へ行く準備をしていたのか父が玄関の前を通りかかった。
「いってらっしゃい」
いつものように父が言った。
当時の私は最後の言葉だと思っても見なかった。
いつものように、ドアを開け、学校へ向かった。
事故だったという。
私には知る由もないのだが。
横断歩道をわたっていると、信号無視をした車が突っ込んでくる。
ありがちな、交通事故だ。
即死だったらしい。
その瞬間、たった一人の孤独な世界に放り込まれた。
何かの本で、死んでしまった人の意識はさっぱりなくなってしまうのだが、
宇宙の何処かで情報だけが残るという可能性があるということを見た。
どこかファンタスティックだし、宇宙というだけで現実的にも思える。
どちらにしろ、私達一般人は宇宙に行って情報があるところを見つけて
読み取って無事に帰る、なんてことできっこない。
だから人は、最後の言葉、音、表情に特別感を覚えるのだろう。
父もきっとそう思っているはずだ。
私は最後に、父に言葉もかけてあげれなかったし、
顔は後ろ向きで見えなかったし、ドアの無機質な音を立てたくらいだ。
けれど、髪の毛や背中や背の高さなんかを特別に思ってくれているのだろう。
父の表情を見ればわかる。
この世界は孤独だ。あと数分間で終わってしまう。
死んでしまった私が父の言葉、音、表情を見れるのも最後だ。
思いっきり特別に思おう。
あんまり早くこっちに来ないでね。お父さん。
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「神様。良かったんですか。あんなことして」
「ん?良かったも何も、見てみろ。嬉しそうじゃろ?」
「たしかにそうですけど。
交通事故でなくなってしまった少女を一日だけ現世に戻す。
なんてこと前代未聞ですよ」
「別にいいじゃろ。だって現世の人間には何も見えんわけじゃし」
「でも...もし誰かに気配を察知されたら?」
「それはあり得ん。あの父親にしか気配は察知できんようにしてあるからの。
神の言うことじゃぞ?信じられんのか」
「それは違いますけど...」
「ウジウジしても仕方がないぞ。あの子は幸せ。
それでいいじゃないか」




