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冒険譚の後日談

作者: 一限
掲載日:2026/02/04

初投稿です。勝手がわからないので、とりあえず自分が読みたい話を置いていきます

青年の足に絡んだツタ。それが繋がっていたはずの「本体」は、鋭く固い爪によって切り裂かれていた。

「本当に助かったよ。君がいなかったら危なかった」

青年は感謝の気持ちを込めて、獣人の少女の手を両手でしっかりと握った。

「え……あ、あの……!?」

少女の顔が見る見るうちに真っ赤に染まる。獣の耳がぴんと立ち、尻尾が大きく揺れた。

「どうかした? 顔が赤いけど、熱でもあるのか?」

「ち、違います! そ、その……そんな、まだお会いしたばかりなのに……」

少女は握られた手を見つめ、視線を泳がせる。

「? 君のおかげで命拾いしたんだ。本当に感謝してる」

青年は純粋な笑顔で、さらに手を強く握った。

「ああっ……! わ、私も……その、嫌では、ないですけど……」

少女は耳まで真っ赤にして、しどろもどろになりながら俯く。

「でも、お父様に紹介するとか、そういうことは、まだ心の準備が……」

「父親? 何の話だ?」

青年がきょとんとした表情を浮かべると、少女ははっとして顔を上げた。

「……もしかして、ご存知ない……んですか? この、両手で手を握るという行為の意味を……」

「意味? 感謝の気持ちを伝えるためだけど……」

少女は小さく呻いて、握られたままの手を見つめた。尻尾が力なく垂れ下がる。

「私たちの種族では……これは、求婚の意思表示なんです……」

青年の手が、ぴたりと止まった。

「え……えええっ!? きゅ、求婚!?」

青年は慌てて手を離し、数歩後ずさった。

「ご、ごめん! 知らなくて! 俺、そんなつもりじゃ……!」

「あ、いえ……わかってます。人間の方は、ご存知ないですよね……」

少女は寂しそうに微笑んだが、その表情のどこか名残惜しそうな様子に、青年ははっと気づいた。

彼女の耳が小さく伏せられている。尻尾の動きも落胆しているように見える。そして何より、さっきの「嫌ではない」という言葉——。

青年は深呼吸をして、顔の火照りを抑えながら口を開いた。

「あの……その、俺も君のこと、素敵だと思ってるんだ」

「……え?」

少女の耳がぴくりと動いた。

「だから、えっと……いきなり求婚はできないけど、もしよければ、一緒に食事でもどうかな? 君のことをもっと知りたい」

青年が恥ずかしそうに頬を掻くと、少女の顔がぱっと明るくなった。

「ほ、本当ですか……?」

「ああ。命の恩人でもあるし、その……君ともっと話したいと思ってたんだ」

少女の頬が再び紅く染まり、尻尾が嬉しそうに大きく揺れる。

「はい……! 喜んで、ご一緒させていただきます……!」

彼女は両手を胸の前で握りしめ、期待に満ちた瞳で青年を見つめた。

石畳の通りを並んで歩きながら、二人は少しずつ会話を交わし始めた。

「そういえば、君は何が好きなんだ? 食べ物とか」

「私は……お肉料理が好きです。特に香草で焼いたものとか……」

少女が答えると、青年の顔がぱっと明るくなった。

「俺もだ! この街の食堂、香草焼きが絶品なんだよ」

「本当ですか!? 私も……あ、でも、人間の方の味付けは少し薄いかもしれないって聞いて……」

「大丈夫、あの店は冒険者向けだから味が濃いめなんだ。きっと気に入ってもらえると思う」

少女の尻尾が嬉しそうに揺れる。青年もそれに気づいて、思わず笑顔になった。

「それに、俺も森の近くで育ったから、獣人の方々の文化は少し知ってるんだ」

「まあ……! じゃあ、月夜の踊りとかもご存知ですか?」

「聞いたことはあるけど、見たことはないな。いつか見てみたいと思ってた」

少女の頬がほんのり赤く染まる。

「それなら……今度、お見せできるかもしれません……」

二人の間に、静かだけれど温かい空気が流れた。

すれ違う商人が、二人の様子に気づいてにやりと笑う。露店の老婆が「若いっていいねえ」と目を細めた。

青年は照れくさそうに首筋を掻き、少女は耳を伏せながらも、嬉しそうに歩みを進める。

彼らの初々しい雰囲気に、街全体が優しく微笑んでいるようだった。

 

「——とまぁ、それからなんやかんやあってお前たちが生まれるんだけども」

父親は腕を組んで、満足げに頷いた。

「いや、はしょりすぎでしょ」

長女が呆れた顔で父を見上げる。

「きょうびそこらの本でも、もうちょいドラマチックよ?」

次女も頬を膨らませた。

「いや、母さんに聞かないとどこまで話したらいいか……」

父親が困ったように頭を掻いていると、ちょうどそこへ扉が開いた。

「あら、何のお話をしていたの?」

獣人の母親が部屋に入ってくる。父親は救われたように妻を振り返った。

「ああ、ちょうどいい。なぁ、俺たちの馴れ初めって、どこまで子どもに話していいと思う? ほら、あの初めてのデートの後の、森での魔物退治のこととか……」

「まだ早いわ」

即答だった。

「じゃあ、お前の実家に挨拶に行った時の、お義父さんとの決闘の——」

「まーだ早い」

「温泉街での事件は?」

「ぜんぜん早いです」

母親の耳がぴんと立ち、頬が微かに赤くなる。

「ちょ、ちょっと待って!」

長女が身を乗り出した。

「決闘!? 温泉街の事件!?」

「お父さんとお母さん、そんなことあったの!?」

次女も目を輝かせる。

「聞かせてよ! ねえ、お願い!」

「そ、それは……」

母親が尻尾を揺らして視線を泳がせた。父親も苦笑いを浮かべる。

「なぁ、少しくらいなら……」

「ダメです! あなた、調子に乗るとすぐ余計なことまで話すんですから!」

母親が真っ赤な顔で夫を睨むと、娘たちの好奇心はますます燃え上がった。

「絶対面白いやつじゃん!」

「お願い、ちょっとだけでも!」

両親は顔を見合わせて、揃って深い溜息をついた。

あの後も何度か両親にせがんだが、結局詳しい話は聞けないまま、娘たちは不満を抱えていた。

「ほんと、気になるよねー」

次女が頬杖をつきながら呟く。

「決闘とか温泉街の事件とか、絶対面白い話だよ」

「お父さん、昔は『伝説の探検家』って呼ばれてたんでしょ? お母さんもすごい戦士だったって聞くし」

長女も同意するように頷いた。

 

二人の父親はかつて数々の遺跡を発見し、多くの魔物から人々を救った英雄だった。そして母親は、その父を幾度となく窮地から救い出した、類稀な戦闘能力を持つ獣人の女戦士。

今では引退して、この穏やかな町で家庭を築いている。

「ねえ、ちょっと森に行かない?」

次女が提案した。

「気分転換に探検ごっことか」

「いいわね。お父さんたちの真似事でもしてみる?」

二人は町はずれの森へと向かった。普段から遊び慣れた場所だが、今日は少し奥まで足を伸ばしてみる。

「あ、見て! あんなところに洞窟」

長女が指差した先には、蔦に覆われた小さな洞窟の入口があった。

「入ってみよう!」

次女が先に駆け出す。洞窟の中は意外と浅く、すぐに行き止まりが見えた。

そこに、古びた石板が一枚、壁に立てかけられていた。

「これ……なんだろう」

長女が石板に触れると、その表面に奇妙な文字が浮かび上がった。文字は淡く光り、まるで生きているかのように蠢いている。

「お父さんたちに見せた方がいいかも」

次女が石板を抱え上げる。

二人は石板を持って家路を急いだ。

 

「お父さん、これ見て!」

娘たちが石板を抱えて帰ってくると、父親は居間で冒険記録の整理をしていた。

「ん? どうし——あっ……」

石板を一目見た途端、父親の顔が微妙に引きつった。

「これ、森の洞窟で見つけたの! 何が書いてあるの?」

「え、えーっと……これは、その……」

父親は視線を泳がせ、咳払いをした。

「元あったところに戻してきなさい」

「えー! なんで!?」

「いいから! 早く戻してこい!」

普段は何でも答えてくれる父が、珍しく頑なに拒否する。

「じゃあお母さんに聞いてみよう」

次女が台所へ向かうと、母親が夕食の準備をしていた。

「お母さん、これ——」

「きゃっ!?」

母親が石板を見た瞬間、耳がぴんと立ち、顔が真っ赤になった。

「あ、あなたたち! これ、読めますか!?」

必死な様子で尋ねてくる。

「全然読めない。なんか変な文字がいっぱい」

「そ、そう……読めないのね……」

母親はほっと胸を撫で下ろし、石板を娘たちから受け取った。

「これは預かっておきます。危険なものかもしれないから」

「えー! お父さんもお母さんも、なんで教えてくれないの!?」

娘たちはぶつくさ文句を言いながらも、結局諦めて寝室へ向かった。

 

子どもたちが眠りについた後、寝室で夫婦は向き合っていた。

「まさか、あんなところに残ってたなんてな……」

父親が苦笑する。

「あれ、俺が独身時代に買った……その、獣人族の成人向けの本だったんだ。石板版の」

「内容も、かなり……その、激しいものでしたわね」

母親が扇で顔を仰ぐ。耳が熱を持っているのがわかる。

「悪い、ちゃんと処分したつもりだったんだが……」

「いえ……むしろ、久しぶりに体がほてりまして……」

母親がそっと夫の方を見る。尻尾がゆっくりと揺れていた。

父親は妻の様子に気づいて、そっと手を伸ばした。

「子どもたちは、もう寝てるよな?」

「ええ……ぐっすりと」

二人の手が重なり合う。

そして、ランプの灯りが静かに消えた。

——その後のことは、読者の皆様のご想像にお任せいたします。

読んでいただきありがとうございました。

ぼくはこういうのがすきです。

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