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異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第III部: 試練と葛藤

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第95話: デート

翌朝。


私が朝食を取っていると、侍女が手紙を持ってきた。


「エリアナ様、侯爵様からです」


封筒を開けると、丁寧な筆跡で短い文章が書かれていた。


『今日一日、二人きりで街を巡らないか。午前10時に宿舎の前で待っている。アレクサンダー』


読み終えた瞬間、心臓が高鳴った。


二人きりで——デート?


「どうされました、エリアナ様?顔が赤いですよ」


侍女が心配そうに尋ねる。


「だ、大丈夫です」


私は慌てて答え、急いで支度を整え始めた。


---


午前10時ちょうど。


宿舎の前に、侯爵様が立っていた。普段の格式張った服装ではなく、少しカジュアルな装いだ。それでも、彼の気品は変わらない。


「おはよう、エリアナ」


「おはようございます、侯爵様」


侯爵様は優しく微笑み、私の手を取った。


「今日は、君と二人だけの時間を楽しみたい」


その言葉に、胸がドキドキする。


「はい」


私たちは並んで、王都の街へと歩き出した。


---


最初に向かったのは、市場だった。


様々な店が軒を連ね、色とりどりの商品が並んでいる。侯爵様は私をエスコートしながら、一つ一つの店を丁寧に見て回ってくれた。


「これ、綺麗......」


私は小さなアクセサリー店の前で立ち止まった。ガラスケースの中に、青い宝石のペンダントが飾られている。繊細な銀の細工が施され、宝石が優しく輝いている。


「気に入ったか?」


侯爵様が尋ねた。


「はい、でも——」


「店主、これを包んでくれ」


「え、侯爵様......"


「君へのプレゼントだ」


侯爵様は微笑みながら、代金を支払った。店主が丁寧に包装してくれたペンダントを、侯爵様は私の手に渡してくれた。


「ありがとうございます」


「開けてみないか?」


私は包みを開け、ペンダントを取り出した。間近で見ると、さらに美しい。青い宝石が、朝日を受けて輝いている。


「つけてもいいか?」


侯爵様が尋ねた。


「はい」


私が頷くと、侯爵様は優しくペンダントを私の首にかけてくれた。彼の指が首筋に触れる度に、心臓が跳ねる。


「似合うよ」


侯爵様の言葉に、顔が熱くなった。


「ありがとうございます」


私は胸元のペンダントに触れた。温かい。まるで、侯爵様の想いが込められているような——。


---


市場を後にして、次に向かったのは美術館だった。


昨日も訪れた場所だけど、今日は二人きり。特別な時間だ。


「この絵は、どう思う?」


侯爵様が一枚の肖像画の前で立ち止まった。若い女性が描かれた、優雅な絵だ。


「綺麗です。でも......少し寂しそうに見えます」


「そうだな。この女性は、愛する人と離れ離れになったと言われている」


「悲しい物語ですね」


「ああ。だからこそ——今、共にいられることの大切さを感じる」


侯爵様は私の目を見つめた。


「エリアナ、君と共にいられることが、私の幸せだ」


その言葉に、涙が溢れそうになった。


「私も......です」


私たちは美術館をゆっくりと巡り、様々な絵画を鑑賞した。侯爵様の解説を聞きながら、私は彼の知識の深さに改めて驚いた。


そして——彼が私のために、こんなに時間を割いてくれていることが、嬉しかった。


---


昼過ぎ、私たちは小さなカフェに入った。


テラス席に座り、お茶とケーキを注文する。窓の外には王都の街並みが広がり、人々が行き交っている。


「疲れていないか?」


侯爵様が尋ねた。


「いいえ、とても楽しいです」


「それは良かった」


運ばれてきた紅茶を一口飲む。優しい香りと味が、口の中に広がる。ケーキもふわふわで、甘くて美味しい。


「エリアナ」


侯爵様が私の名を呼んだ。


「はい」


「手を、出してくれないか」


言われるまま、私はテーブルの上に手を置いた。侯爵様は優しく私の手を取り、そっと握った。


温かい。彼の手は、いつも温かい。


「君といると、心が安らぐ」


侯爵様が静かに言った。


「私も......です」


私たちはしばらく、無言で手を繋いでいた。言葉はいらない。この沈黙が、心地よい。


カフェの中に流れる穏やかな音楽、外から聞こえる街の喧騒、そして侯爵様の温もり。全てが幸せだった。


---


カフェを出てから、私たちは公園へと向かった。


緑豊かな公園には、色とりどりの花が咲いている。石畳の小道を歩きながら、侯爵様は私の手をずっと握っていてくれた。


「あら、お似合いですね」


すれ違った老婦人が、私たちに微笑みかけてきた。


「ありがとうございます」


侯爵様が礼儀正しく答えた。老婦人は満足そうに頷き、去っていった。


「お似合い、ですって」


私は照れくさくて、顔を伏せた。


「その通りだと思うよ」


侯爵様が笑顔で言った。


「侯爵様......」


私は彼を見上げた。深い青色の瞳が、優しく私を見つめている。


「君は私の人生に、光をもたらしてくれた」


「そんな......」


「本当だ」


侯爵様は私の頬にそっと手を添えた。


「エリアナ、君と出会えて——本当に良かった」


その言葉に、涙が溢れた。


「私も......本当に、良かったです」


侯爵様は優しく私を抱きしめてくれた。温かい。彼の胸の中は、とても温かい。心臓の鼓動が聞こえる。私の鼓動と、彼の鼓動が重なり合う。


「ずっと、君の傍にいたい」


侯爵様の声が、耳元で囁いた。


「私も......ずっと、侯爵様の傍にいたいです」


---


夕暮れ時。


私たちは公園のベンチに座っていた。空はオレンジ色に染まり、太陽がゆっくりと沈んでいく。


「綺麗......」


私は夕焼けを見つめながら呟いた。


「ああ、綺麗だ」


侯爵様も同じように夕焼けを見つめている。


私は侯爵様の肩に、そっと頭を預けた。


「疲れたか?」


「いいえ......ただ、こうしていたくて」


侯爵様は優しく微笑み、私の頭を撫でてくれた。


「好きなだけ、こうしていていい」


「......ありがとうございます」


夕暮れの風が、優しく吹いている。木々の葉が揺れる音、遠くから聞こえる鳥の鳴き声、そして侯爵様の温もり。


「幸せです」


私は小さく呟いた。


「私もだ」


侯爵様の声が、優しく響いた。


この瞬間が——永遠に続けばいいのに。


---


夜、宿舎に戻ってから。


私は一日を振り返っていた。市場でのプレゼント、美術館での時間、カフェでの会話、そして公園での抱擁。


全てが夢のようだった。


でも、首元のペンダントが——これが現実だと教えてくれる。


私は窓辺に立ち、星空を見上げた。


この幸せが、ずっと続きますように。


そう願わずにはいられなかった。


しかし——この時の私は、まだ知らなかった。


平和な日々の裏で、暗い影が動き始めていることを。

**次回予告**


束の間の平和が終わりを告げる。エリアナを待ち受けるのは——。


第96話「暗雲」に続く。


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