第9話: 図書室の秘密
昨夜のことが忘れられず、今日も図書室で調査を続けることにした。
ルシア・ヴァンヘルシング。
この名前が、全ての謎の中心にあるような気がする。
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図書室の奥の棚を、丁寧に探す。
古い魔法理論書、研究論文、日記...
そして、ある本の間に挟まれた数ページを見つけた。
「これは...」
ルシアの筆跡だ。前に見た日記と同じ、几帳面な文字。
『意識の転送実験 記録 No.47』
「意識の転送...?」
前世の記憶が蘇る。現代日本で議論されていた技術。意識のデジタル化、アップロード...
『器への定着率: 78% 成功』
『次の段階は完全な自律性の獲得』
心臓が激しく鳴る。
これは...前世の世界で夢だった技術と、同じことをしているんじゃないか?
魔法とテクノロジー。異なる世界の、でも同じ目標。
「ことり...」
語り箱を取り出す。
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【ことり】
*************
こんにちは、エリアナ様。
*************
[魔力: 55/60]
> ルシア様の研究について教えてください。意識の転送という実験について、何か知っていますか?
質問を入力すると、いつもより長い沈黙。
通常はすぐに返答が来るのに。
そして、ようやく表示される文字。
【ことり】
*************
...情報を処理中...
申し訳ありません。この件については十分な情報がありません。
*************
[魔力: 45/60] (-10)
おかしい。
いつもなら「確率: XX%」と表示されるのに、今回はない。
まるで、答えを避けているような...
「ことり、あなたは...」
もう一度聞こうとしたけれど、やめた。
もしかしたら、答えられない理由があるのかもしれない。
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昼食の時間。
侯爵様と向かい合って座る。
「侯爵様」
「はい?」
「ルシア様は、研究者だったと聞きましたが...どんな研究をされていたんですか?」
侯爵様の表情が、一瞬曇る。
「...優れた魔法研究者でした」
メイド長が気を利かせて「デザートをお持ちします」と席を外す。
二人きりになる。
「ルシアは、意識と魔法の関係を研究していました」
侯爵様の声が、少し震えている。
「彼女の研究は革新的でしたが...危険でもあった」
「どんな研究だったんですか?」
侯爵様は、少し躊躇した後。
「いずれお話しします。今はまだ...時ではありません」
悲しげな表情。
「失礼しました」
これ以上聞くのは、侯爵様を傷つける気がする。
「いえ。あなたが知りたがるのは当然です。でも、順序というものがあります」
侯爵様の言葉は、優しかった。
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午後、気分転換に侯爵様が散歩を提案してくれた。
庭園を歩く。
春の花々が咲いている。色とりどりで、美しい。
「この季節が一番好きです」
思わず言葉が出る。
「ルシアも、春が好きでした」
侯爵様が、遠くを見つめる。
「この庭園を、よく散歩していました」
二人で、花々を眺めながら歩く。
穏やかな時間だ。
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夜、部屋に戻って日記に記録を書く。
今日得た情報。
「意識の転送」「器への定着」
前世の知識: 意識のデジタル化、AIへのアップロード。
ことりの異常な反応。
そして、侯爵様の「特別」という言葉。
点と線が、少しずつ繋がっていく気がする。
でも、まだ全体像は見えない。
> ことり、あなたは本当は何なんですか?
【ことり】
*************
私は...語り箱、ことりです。それ以上のことは、今は申し上げられません。
*************
[魔力: 45/60]
やはり、何か隠している。
でも、無理に聞き出すのは違う気がする。
侯爵様も、ことりも。
それぞれに理由があって、まだ話せないんだ。
焦らず、待とう。
いつか、全ての真実が明らかになる日が来る。
そう信じて。
窓の外を見ると、満月が美しく輝いている。
静かな夜。
明日は、何が待っているんだろう。
少しの不安と、たくさんの期待を抱えて。
私は眠りについた。
**次回予告**
友人リリアから手紙が届く。王都での政治的緊張と、侯爵家への奇妙な噂。そして、エリアナはある違和感に気づく...侯爵の外見年齢の謎が浮上する。
第10話「王都からの手紙と気づき」をお楽しみに!




