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【第III部更新中】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第III部: 試練と葛藤

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第86話: 接近

朝の光が図書室の窓から差し込んでいる。私は昨日借りた魔法理論の本を読みながら、静かな時間を楽しんでいた。


この屋敷に来てから、図書室はお気に入りの場所になった。本の匂い、革張りの椅子の感触、窓から見える庭園の緑。すべてが心地よくて、前世のようにパソコンの前で過ごす時間よりも、ずっと穏やかな気持ちになれる。


ページをめくろうとした時、扉が開く音がした。


「おはよう、エリアナ」


振り返ると、侯爵様が立っていた。


「おはようございます」


私が答えると、侯爵様は微笑んで部屋に入ってきた。そしてためらうことなく、私の隣の椅子に座る。


「何を読んでいる?」


「魔法の基礎理論についての本です」


本を見せると、侯爵様は少し驚いたような顔をした。


「難しくないか?」


「少し難しいですけど、興味深いです」


「真面目だな、君は」


侯爵様の声に、温かみが混じっていた。


私たちは並んで座り、それぞれの本を読む。時折、侯爵様が何か説明してくれたり、私が質問したりする。会話は途切れ途切れだけれど、沈黙も心地よい。


こんな朝が、自然に感じられるようになっていた。


---


午後、私は高い棚の本を取ろうとして、背伸びをしていた。


「これ、取れない...」


指先がようやく本の背に触れるけれど、引き出せない。もう少し、あと少し。


その時、背後から長い腕が伸びてきて、難なく本を取った。


「これか?」


侯爵様の声が、すぐ後ろから聞こえる。


振り返ると、侯爵様が本を持って立っていた。あまりにも近くて、息が止まりそうになる。


「は、はい。ありがとうございます」


本を受け取る時、指が触れ合った。


ドキリとした。


侯爵様も一瞬、動きを止めた。


私たちの視線が絡み合う。侯爵様の瞳が、いつもより深い色をしている。何か言いたげな表情だけれど、言葉は出てこない。


「...すまない」


侯爵様がそう言って、一歩下がった。


でも、胸の鼓動は収まらない。


---


廊下を歩いている時、侯爵様とすれ違った。


「エリアナ」


呼び止められて、立ち止まる。


「はい?」


侯爵様は何か言いかけて、でも言葉を飲み込んだ。そしてただ、じっと私を見つめている。


その視線が、熱い。


以前とは明らかに違う。何かが変わった。侯爵様の目が、私を追っている。


「あの...何か?」


私が尋ねると、侯爵様は首を横に振った。


「いや、何でもない」


でも、通り過ぎる時の侯爵様の表情が、記憶に焼き付いた。


私も、侯爵様を意識してしまっている。


---


昼食の時間。


侯爵様と向かい合って座る。マーガレットさんが運んできた料理は、いつものように美味しそうだ。


でも、今日は食事に集中できない。


侯爵様の視線を感じる。


顔を上げると、侯爵様が私を見ている。


目が合うと、侯爵様は視線を逸らさない。


「...美味しい、ですね」


私が話題を探すと、侯爵様は微笑んだ。


「そうだな」


でも、侯爵様の視線は相変わらず私を捉えて離さない。


顔が熱くなってくる。こんなに見つめられたら、落ち着いて食べられない。


「あの、侯爵様?」


「うん?」


「何か、顔に付いてますか?」


「いや」


侯爵様は首を横に振った。


「ただ、君を見ていたかっただけだ」


率直な言葉に、心臓が跳ねた。


---


夕方、庭園を散歩していた。


薔薇が咲き始めている。赤、白、ピンク。色とりどりの花が、夕日に照らされて美しい。


「エリアナ」


振り返ると、侯爵様が立っていた。


「探していた」


「私を、ですか?」


「ああ」


侯爵様が近づいてくる。


「一緒に歩かないか」


「はい」


私たちは並んで、庭園の小道を歩き始めた。


夕日が長い影を作る。侯爵様の影と私の影が、重なり合っている。


「この庭園は、母が作ったものなんだ」


侯爵様が言った。


「お母様が?」


「ああ。母は花が好きだった。特に薔薇を」


侯爵様の声に、懐かしさが滲んでいる。


「綺麗ですね」


「母もそう言っていた」


侯爵様が立ち止まり、一輪の白い薔薇を見つめる。


「君も、母を気に入っていたと思う」


「...そうですね」


私もその薔薇を見つめた。


「エリアナ」


侯爵様が私の名前を呼ぶ。


振り返ると、侯爵様が真剣な顔をしていた。


「何か、伝えたいことが?」


侯爵様は少し迷うような表情を見せたけれど、結局微笑んで首を横に振った。


「いや、今日はやめておく」


「...はい」


でも、侯爵様の手が、私の手にそっと触れた。


一瞬だけ。


でも、その温もりが残っている。


---


夕食の後、二人でお茶を飲んでいた。


マーガレットさんが淹れてくれた紅茶は、優しい香りがする。ベルガモットの香り。


「今日は、色々とすまなかった」


侯爵様が言った。


「え?」


「君を困らせてしまったかもしれない」


侯爵様の表情が、少し申し訳なさそうだ。


「そんなことありません」


私は首を横に振った。


「ただ、少し驚いただけです」


「驚かせてしまったか」


侯爵様が苦笑する。


「でも、嫌ではなかったです」


そう言ってから、自分の言葉に驚いた。


侯爵様は目を見開き、それから穏やかに微笑んだ。


「そうか」


その笑顔が、本当に優しくて。


心が温まる。


私たちはお茶を飲みながら、他愛もない話をした。最近読んだ本のこと、庭園の花のこと、明日の予定のこと。


特別なことは何も話していない。


でも、この時間が大切に思える。


侯爵様の優しい笑顔を見ていると、安心する。


夜が更けていく。


窓の外には星が輝いている。


---


部屋に戻ってから、ことりに相談してみた。


> 今日、侯爵様の態度が以前と違う気がする。どうしてだろう?


【ことり】

*************

確率: 68%


あなたの観察は正確だと思われます。侯爵様の最近の行動パターンを分析すると、以下の変化が見られます。


1. 物理的距離の縮小(図書室での隣席、廊下での停止)

2. 視線の頻度と持続時間の増加

3. 言葉にならない感情表現の増加


これらは「好意」の兆候である可能性が高いです。ただし、あなた自身の気持ちも大切です。どう感じていますか?

*************

[魔力: 140/150] (-10)


ことりが質問を返してきた。


私の気持ち。


確かに、それが一番大事かもしれない。


私は侯爵様を、どう思っているんだろう。


胸の鼓動が速くなる。


顔が熱くなる。


視線が合うと、ドキドキする。


これは...


窓の外を見上げる。星空が広がっている。


明日も、侯爵様と一緒に過ごすんだ。


その考えだけで、胸が高鳴った。

**次回予告**


舞踏会への招待状が届いた。侯爵様が私を誘ってくれる。一緒に出席することになるけれど、その前にドレスを選ばなくては。リリーと一緒に街へ繰り出すことに。侯爵様も同行して、青いドレスを選んでくれた。「君が一番美しい」。その言葉に、私は...


第87話: 舞踏会への招待。

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