第84話: 愛の芽生え確認
午後の日差しが庭園を優しく照らしていた。花々が咲き誇り、甘い香りが風に乗って運ばれてくる。
「エリアナ」
侯爵様が私の名を呼んだ。昨夜の出来事から一日。侯爵様の表情は、以前とは明らかに違っていた。柔らかくて、穏やかで、そして優しい。
「はい、侯爵様」
私は侯爵様の隣を歩いた。庭園の小道は、色とりどりの花で彩られている。
「今日は、君とゆっくり話がしたくて」
侯爵様が立ち止まり、私を見た。
「構いませんか」
「もちろんです」
私は微笑んだ。侯爵様と二人きりで過ごす時間。それは、何よりも嬉しいことだった。
私たちは庭園のベンチに座った。目の前には、美しいバラが咲いている。赤、白、ピンク。どれも鮮やかで、生命力に溢れていた。
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「エリアナ」
侯爵様が静かに語り始めた。
「ルシアの手紙を読んでから、私の心は変わった」
侯爵様が空を見上げる。青く澄んだ空に、白い雲がゆっくりと流れている。
「十五年間、復讐に囚われて生きてきた。でも、それは間違っていた」
侯爵様が私を見た。その目には、深い感謝が宿っていた。
「君がいなければ、私は気づけなかった。ルシアの本当の願いに」
私は頷いた。
「侯爵様が前を向いてくれて、本当に嬉しいです」
侯爵様が優しく微笑む。
「君は私にとって...」
少し言葉を詰まらせる。
「かけがえのない存在だ」
その言葉に、胸がドキドキと高鳴った。
「君がいなければ、私はまだ過去に囚われていた。君がいてくれたから、私は未来を見ることができる」
侯爵様の視線が、真っ直ぐに私を捉える。
「エリアナ、君は...私の希望だ」
その言葉に、涙が溢れそうになった。でも、今は笑顔でいたい。
「私も...」
少し照れながら、言葉を続ける。
「私も、侯爵様が大切です。とても...大切です」
精一杯の想いを込めて、そう答えた。
侯爵様の顔が、少し赤くなった気がした。
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しばらく、二人とも黙っていた。でも、その沈黙は心地よかった。言葉がなくても、互いの想いが伝わってくるようだった。
風が優しく吹いて、花びらが舞う。ピンク色の花びらが、私の髪に落ちた。
「あ...」
侯爵様がそっと手を伸ばし、花びらを取ってくれた。その指先が、髪に触れる。
心臓が、激しく鳴った。
「綺麗だな」
侯爵様が花びらを見つめながら呟いた。
「この花のように、君も美しい」
その言葉に、顔が熱くなった。
「侯爵様...」
照れくさくて、視線を逸らす。
侯爵様が小さく笑った。優しくて、温かい笑い声だった。
「照れているのか」
「...はい」
正直に答えると、侯爵様がまた笑った。
「可愛いな」
その言葉に、また胸がドキドキした。
私は語り箱を取り出した。この想いを、どう整理すればいいのか分からなくて。
> この気持ちは、恋なのでしょうか。
【ことり】
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確率: 68%
あなたの心の動きから判断すると、それは恋愛感情である可能性が高いです。
侯爵様への想い、胸の高鳴り、照れくささ。これらはすべて、恋の兆候です。
あなたの気持ちを大切にしてください。そして、その想いを侯爵様に伝える勇気を持ってください。
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[魔力: 140/150] (-10)
ことりの言葉に、改めて自覚した。
私は、侯爵様を愛している——。
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「エリアナ」
侯爵様の声で、我に返る。
「何を考えているんだ」
侯爵様が優しく笑っている。
「あの、その...」
言葉が出てこない。心の中の想いは溢れているのに。
侯爵様が私の手を取った。
「君の気持ちは、分かる」
その優しい声が、心に染み込んでいく。
「私も、君に対して特別な想いを抱いている」
侯爵様が私の目を見つめる。
「でも、今はまだ言えない。伝えたいことは、たくさんあるのに」
侯爵様の手が、私の手を優しく握る。
「呪いが解けたら...」
少し間を置いて、続ける。
「呪いが解けたら、君に伝えたいことがある。とても大切なことを」
その言葉に、期待と不安が入り混じった。
「それは...」
「今は、まだ言えない」
侯爵様が優しく微笑む。
「でも、約束する。必ず伝える」
私は頷いた。
「待ちます」
精一杯の勇気を出して、そう答えた。
「いつまでも、待ちます」
侯爵様の目が、優しく細められた。
「ありがとう」
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二人で手を繋いだまま、ベンチに座り続けた。
庭園には、鳥のさえずりが響いている。風が木々を揺らす音。花の香り。すべてが、優しくて温かかった。
「ずっとこうしていたい」
小さく呟くと、侯爵様が頷いた。
「私もだ」
侯爵様の親指が、私の手の甲を優しく撫でる。その小さな動きに、胸がキュンとした。
「エリアナ」
「はい」
「君がいてくれて、本当に良かった」
侯爵様の声が、心に染み込んでいく。
「私も、侯爵様に出会えて良かったです」
正直な気持ちを、そのまま言葉にした。
侯爵様が優しく笑う。その笑顔が、太陽の光よりも眩しかった。
空を見上げると、雲がゆっくりと流れている。時間も、ゆっくりと流れているような気がした。
このまま、時が止まればいいのに。
そんなことを思いながら、侯爵様の隣で、ただ静かに座っていた。
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やがて、日が傾き始めた。オレンジ色の光が、庭園を照らす。
「そろそろ戻りましょうか」
侯爵様が立ち上がる。でも、手は繋いだままだった。
「はい」
私も立ち上がる。少し名残惜しかった。
庭園を歩きながら、私は思った。
この瞬間を、一生忘れない。侯爵様と手を繋いで歩いた、この美しい午後を。
館に戻る途中、侯爵様が立ち止まった。
「エリアナ」
「はい」
侯爵様が真剣な顔で私を見る。
「呪いが解けたら、伝えたいことがある」
もう一度、そう言った。
「どんなことでも、受け止めます」
私は精一杯の勇気を出して答えた。
侯爵様が優しく微笑んだ。
「ありがとう。その言葉だけで、私は救われる」
館の扉を開けて、中に入る。夕暮れの光が、私たちの背中を優しく照らしていた。
今日の時間は、きっと一生の宝物になる。侯爵様と過ごした、甘くて優しい午後。
自分の部屋に戻り、窓辺に立つ。庭園が夕日に染まっている。あのベンチに、まだ私たちの温もりが残っているような気がした。
「侯爵様...」
小さく呟く。
「私、あなたを愛しています」
誰にも聞こえない言葉。でも、いつか、侯爵様に直接伝えたい。
その日が来るまで、私はこの想いを大切に育てていこう。
夕日が、ゆっくりと沈んでいった。
**次回予告**
夕暮れの庭園で、二人の距離がさらに縮まる。侯爵様の口から語られる、告白の予兆。期待と不安が交錯する、甘く切ない時間——。
第85話「告白の予兆」に続く。




