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【第III部更新中】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第III部: 試練と葛藤

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第82話: ルシアの手紙

夕方の日差しが地下書庫に差し込む窓から、細く伸びていた。埃っぽい空気の中、古い本の匂いが鼻をくすぐる。


昨日の議論から一日。侯爵様は姿を見せず、私も一人で考え込んでいた。そんな時、ふとことりから提案があった。


私は語り箱を取り出した。淡い青色の光が表面に浮かび上がる。


> ルシアさんが何か残しているかもしれない。書庫を調べるべきでしょうか。


【ことり】

*************

確率: 68%


推奨します。


地下書庫には未整理の資料が多数あります。特に、個人的な品々が保管される可能性が高い場所として、南側の奥の棚を調べることをお勧めします。


ルシアさんの私物が残されている可能性があります。

*************

[魔力: 140/150] (-10)


確率68%。希望を持てる数字だった。


私は地下書庫の奥へと進んだ。石造りの壁は冷たく、足音がやけに大きく響く。南側の棚は、確かに他よりも古く、埃が積もっていた。


一つ一つ、丁寧に棚を調べていく。古い本、書類、そして——。


「これは...」


棚の奥、目立たない場所に、小さな木箱が置かれていた。表面には精巧な彫刻が施されている。手に取ると、思ったよりも軽い。


箱を開けると、中には丁寧に畳まれた手紙が入っていた。紙は古く、黄ばんでいる。でも、文字ははっきりと読める。


私は息を呑んだ。これは——。


---


「エリアナ」


背後から声がした。振り返ると、侯爵様が立っていた。一日ぶりに見る彼の顔は、疲れているように見えた。


「侯爵様...」


「フィリップスさんから聞いた。君が書庫を調べていると」


侯爵様が私の傍に来る。そして、私の手にある手紙を見た。


「それは...」


「多分、ルシアさんの手紙だと思います」


私は手紙を侯爵様に差し出した。


侯爵様の手が震えていた。ゆっくりと手紙を受け取り、開く。


沈黙が流れた。侯爵様の目が、手紙の文字を追っている。その表情が、徐々に変化していく。驚き、悲しみ、そして——。


「ルシア...」


侯爵様の声が震えた。


私も、横から手紙の内容を読ませてもらった。


『愛する人へ


もしあなたがこの手紙を読んでいるなら、私はもういないのでしょう。


あなたに言いたいことがたくさんあります。でも、一番大切なことを。


復讐ではなく、未来を選んでください。


私の死を理由に、あなたが苦しむことを望んでいません。あなたには幸せになってほしい。誰かを愛し、愛され、笑顔で生きてほしい。


それが、私の唯一の願いです。


あなたの幸せを、心から願っています。


——ルシア』


手紙を読み終えた侯爵様の頬に、大粒の涙が伝っていた。


「ルシア...ありがとう...」


その声は、かすれていた。


私も涙が止まらなくなった。ルシアさんの想いが、こんなにも温かく、こんなにも深い。


「侯爵様...」


私は小さく呟いた。


「ルシアさんも、侯爵様の幸せを願っていました」


侯爵様が私を見た。その目には、涙が溢れている。


「エリアナ...君は、正しかった」


侯爵様の声が震える。


「私は...私は間違っていた。復讐に囚われて、ルシアの本当の願いを見失っていた」


---


地下書庫の冷たい空気の中、私たちは静かに立ち尽くしていた。


侯爵様が手紙を胸に抱きしめる。その姿が、痛々しくて、でも美しかった。


「十五年間...私は何をしていたのだろう」


侯爵様の呟きが、静かに響く。


「いいえ」


私は首を横に振った。


「侯爵様は、ルシアさんを愛していました。その愛は、決して間違っていません」


侯爵様が私を見た。


「でも、復讐は——」


「復讐も、愛の一つの形だったのかもしれません」


私は優しく言った。


「でも、今、侯爵様はルシアさんの本当の願いを知りました。それは、侯爵様の幸せです」


侯爵様の目から、また涙が溢れた。でも、今度の涙は、少し違う気がした。悲しみだけでなく、何か温かいものが混じっている。


「君がいてくれて良かった」


侯爵様が静かに言った。


「君がいなければ、私はこの手紙を見つけることもなかった。ルシアの本当の願いを知ることもなかった」


その言葉に、私の胸が温かくなった。


「私は...ただ、侯爵様に幸せになってほしかっただけです」


侯爵様が優しく微笑んだ。涙で濡れた顔だったけれど、その笑顔は本当に美しかった。


「ありがとう、エリアナ」


私たちは、もう一度手紙を読み返した。ルシアさんの文字が、愛情と優しさに満ちている。彼女の温かさが、古い紙からも伝わってくるようだった。


---


地下書庫の窓から、夕日が差し込んでいた。オレンジ色の光が、埃の舞う空気の中を通り抜ける。


「ルシアは、いつも優しかった」


侯爵様が静かに語り始めた。


「私が怒っている時も、悲しんでいる時も、いつも傍にいてくれた。そして、いつも私の幸せを願っていてくれた」


侯爵様の声は穏やかだった。


「この手紙は、彼女らしい。最後の最後まで、私のことを思ってくれていたんだ」


私は頷いた。


「ルシアさんは、本当に侯爵様を愛していたんですね」


「ああ」


侯爵様が手紙を見つめる。


「そして、私も彼女を愛していた。今でも愛している」


その言葉に、私の胸がキュッと締め付けられた。侯爵様のルシアさんへの愛は、とても深くて、純粋で。


「でも...」


侯爵様が私を見た。


「君のおかげで、私は前に進める。復讐ではなく、未来を選ぶことができる」


その眼差しに、決意が宿っていた。


私は小さく微笑んだ。


「それが、ルシアさんの願いです」


侯爵様が頷く。


「ああ。だから、私は未来を選ぶ。ルシアの願いを叶えるために」


地下書庫の空気が、少しだけ温かくなった気がした。石造りの壁も、冷たい床も、今は優しく感じられる。


侯爵様が手紙を大切に畳み、元の箱に戻した。


「この手紙は、私の宝物だ」


その言葉が、心に染み込んでいった。


私たちは静かに地下書庫を後にした。夕日に染まる廊下を歩きながら、私は思った。


ルシアさん、ありがとうございます。あなたの愛が、侯爵様を救いました——。

**次回予告**


涙の後に訪れる、静かな夜。侯爵様の心に、大きな変化が訪れる。復讐心からの解放、そして新しい一歩——。


第83話「涙と解放」に続く。

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