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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第III部: 試練と葛藤

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第81話: 葛藤

書斎の窓から差し込む昼の光は、穏やかで優しかった。でも、この部屋に満ちる空気は重く、緊張感に張り詰めていた。


昨夜、侯爵様の口から語られたルシアさんの真実。彼女が冤罪で命を奪われたこと。侯爵様が十五年もの間、復讐を胸に秘めていたこと。すべてが私の心に重くのしかかっていた。


「ルシアの無念を晴らすためにも、敵を倒す」


侯爵様の声は静かだったが、その奥に宿る決意は揺るぎないものだった。書斎の机を挟んで向かい合う私たちの間に、フィリップさんも立ち尽くしている。


私は深く息を吸い込んだ。言わなければならない。


「でも、侯爵様」


私の声は震えていた。でも、ここで黙っていたら、後悔する。


「復讐では...侯爵様は幸せになれません」


侯爵様の表情が固まった。フィリップさんが心配そうに私を見る。


「幸せ、だと?」


侯爵様の声が低く響く。


「私はルシアの無念を晴らすのだ。それが私の使命だ。幸せなど——」


「違います!」


思わず強い口調になってしまった。でも、引くわけにはいかない。


「ルシアさんは、侯爵様に幸せになってほしかったはずです。復讐に囚われて、侯爵様が苦しみ続けることなんて、望んでいなかったはずです」


「君に何が分かる」


侯爵様の声が鋭くなる。でも、私は目を逸らさなかった。


「私は...確かにルシアさんのことは知りません。でも、人を愛した人なら、その相手の幸せを一番に願うはずです。それは、前世でも、この世界でも、同じだと思います」


前世で見てきた。愛する人のために、自分を犠牲にする人たち。そして、その愛が相手を救うことも、苦しめることも。


「エリアナ様...」


フィリップさんが口を開きかけたが、侯爵様がそれを遮った。


「君は復讐を否定するのか。ルシアを死に追いやった者たちを、許せというのか」


「許すかどうかは、侯爵様が決めることです」


私は一歩、侯爵様に近づいた。


「でも、復讐のために自分を犠牲にしないでください。ルシアさんは、それを望んでいないはずです」


---


書斎の空気が凍りついたようだった。侯爵様の目が、深い悲しみと怒りに揺れている。


「君は...君は分かっていない」


侯爵様の声が震えた。


「十五年間、私はこの日のために生きてきた。ルシアの無念を晴らすために。それを否定されて、私はどうすればいい」


その言葉に、私の胸が締め付けられた。侯爵様の痛みが、直接心に伝わってくるようだった。


「侯爵様...」


涙が溢れてきた。止めようとしても、止まらなかった。


「あなたに...幸せになってほしいんです」


声が震える。視界が涙で歪む。


「復讐ではなく、未来を見てほしいんです。ルシアさんも、きっとそれを望んでいるはずです。だから...だから...」


言葉が続かなくなった。涙が頬を伝う。


侯爵様が呆然と私を見つめていた。その目に、動揺が浮かんでいる。


「エリアナ...」


侯爵様が私の名を呼んだ。その声には、今までにない戸惑いが滲んでいた。


フィリップさんが静かに近づいてきた。


「お二人とも、少し落ち着きましょう」


彼の声は優しかった。


「アレクサンダー様、エリアナ様。お二人とも、互いを思うからこそ、こうして激しく言葉をぶつけ合うのです」


フィリップさんの言葉に、侯爵様の肩が小さく震えた。


「...少し、考えさせてくれ」


侯爵様は静かにそう言うと、書斎を出て行った。扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。


私はその場に立ち尽くしたまま、涙を拭うこともできなかった。


---


「エリアナ様」


フィリップさんが、そっと肩に手を置いた。


「お疲れになりましたね」


その優しい言葉に、また涙が溢れた。


「フィリップさん...私、間違ったことを言ったでしょうか」


「いいえ」


フィリップさんは首を横に振った。


「あなたは正しいことを言いました。でも、アレクサンダー様にとって、それはとても辛い真実なのです」


彼は窓の外を見つめた。


「十五年間、復讐を胸に生きてきた。それを手放すことは、自分の人生を否定することにも等しいのです」


「でも...」


「でも、あなたの言葉は届いていますよ」


フィリップさんが私を見て、優しく微笑んだ。


「アレクサンダー様は動揺していました。あなたの涙を見て、初めて自分の復讐が誰かを悲しませることに気づいたのです」


私は語り箱を取り出した。この状況をどう考えればいいのか、ことりに聞いてみたかった。


> 侯爵様との意見の対立。私は正しいことをしたのでしょうか。


【ことり】

*************

確率: 65%


あなたの行動は正しかったと考えられます。


復讐に囚われた人を救うには、時に厳しい真実を伝える必要があります。ただし、相手の心の準備ができていない場合、反発を招くこともあります。


侯爵様には時間が必要です。焦らず、寄り添い続けることが大切です。

*************

[魔力: 140/150] (-10)


ことりの言葉に、少しだけ心が軽くなった。確率は65%。決して高くはないけれど、完全に間違っているわけではない。


「時間、ですか」


私は呟いた。


「そうです」


フィリップさんが頷いた。


「アレクサンダー様にも、あなたにも、時間が必要です。今はただ、互いを思う気持ちを信じてください」


窓の外では、午後の日差しが庭園を照らしていた。侯爵様は今、どこにいるのだろう。一人で、何を考えているのだろう。


私は窓辺に近づき、外を見つめた。風に揺れる木々の葉が、優しい音を立てている。


「侯爵様...」


小さく呟く。


「あなたに、幸せになってほしい。それだけなんです」


フィリップさんが静かに紅茶を淹れてくれた。温かなカップを両手で包むと、少しずつ心が落ち着いていく。紅茶の優しい香りが、張り詰めた心を解きほぐしてくれる。


「ありがとうございます」


「いいえ」


フィリップさんが優しく微笑んだ。


「お二人とも、互いを思っているからこそ、今日のようなことが起きるのです。それは決して悪いことではありません」


彼の言葉が、温かく心に染み込んでいった。


私は紅茶を一口飲んだ。温かさが身体中に広がっていく。


「私、待ちます」


ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「侯爵様が答えを見つけるまで、ずっと待ちます」


フィリップさんが優しく頷いた。


「その想い、きっと届きますよ」


書斎の窓から見える空は、どこまでも青く澄んでいた。明日は、どんな日になるのだろう。でも、どんな日が来ても、私は侯爵様の傍にいる。それだけは、揺るがない真実だった。

**次回予告**


地下書庫で、隠された秘密が明らかになる。ルシアが遺した最後の想い。それは、二人の未来を照らす光となるのか——。


第82話「ルシアの手紙」に続く。

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