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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第III部: 試練と葛藤

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第80話: 裏切り者

次の日の夜。


再び、アレクサンダー様の私室に招かれた。


昨夜の話の続きがあるのだろうか。扉をノックして、中に入る。


暖炉の火が、今夜も静かに燃えていた。


「来てくれたか」


アレクサンダー様が、ソファを指差した。


私は、座った。彼も、向かい側に座る。


「昨夜は、ルシアの話をしたな」


「はい」


「今夜は、その続きを話したい」


彼の表情が、少し強張っている。


---


「裏切り者のヴィクター」


アレクサンダー様が、その名を口にした。


「彼は、元々は私たちの仲間だった。ルシアの研究チームの一員だ」


私は、静かに聞いていた。


「ヴィクターは、優秀な魔法使いだった。理論も、実践も、申し分なかった」


「でも、彼には野心があった。力を求め、名声を求めていた」


暖炉の火が、パチパチと音を立てている。


「ルシアの研究成果を、自分のものにしたがっていた。だが、ルシアはそれを許さなかった」


アレクサンダー様の拳が、強く握られている。


「だから、彼は結社に情報を売った」


その言葉に、私は胸が痛んだ。


「金と引き換えに、ルシアの居場所を教えたんだ」


---


「あいつだけは...許せない」


アレクサンダー様の瞳に、深い憎しみが宿っていた。


「彼のせいで、ルシアは死んだ。私の人生は、狂った」


その声が、震えている。


「もし、あいつに会ったら――」


彼の言葉が、途切れた。


でも、その後に続く言葉は、容易に想像できた。


私は、彼の手を握った。


「アレクサンダー様」


「エリアナ...」


「お気持ちは、分かります」


私は、優しく語りかけた。


「ヴィクターの裏切りは、決して許されるものではありません」


「でも――」


私は、彼の目を見つめた。


「でも、復讐では、あなたは幸せになれません」


---


アレクサンダー様は、黙って私を見つめていた。


「復讐は、連鎖します。憎しみは、憎しみを生むだけです」


私は、前世の記憶を思い出していた。


前世で、私は誰かを恨んだことがある。家族を、会社を、世界を。


でも、恨んでも何も変わらなかった。ただ、自分が苦しくなるだけだった。


「ルシアさんは、あなたに復讐してほしいと思っているでしょうか」


その言葉に、アレクサンダー様が息を呑んだ。


「彼女は、あなたが幸せになることを、望んでいるはずです」


私は、彼の手を両手で包んだ。


「だから、復讐ではなく、未来を選んでください」


「未来...」


「はい。ルシアさんの意志を継いで、世界を守る。それが、彼女への最大の供養です」


---


アレクサンダー様は、しばらく黙っていた。


暖炉の火だけが、静かに燃えている。


「君は、本当に優しいな」


ようやく、彼が口を開いた。


「私は、こんなにも憎しみに囚われていたのに」


「憎しみを持つのは、人間として自然なことです」


私は、彼の手をさすった。


「でも、それに支配されてはいけません」


「君がいてくれて、良かった」


アレクサンダー様が、私の手を握り返した。


「君の言葉が、私を救ってくれる」


その言葉に、胸が温かくなった。


「この人を、救いたい」


その想いが、また強くなった。


---


「エリアナ」


「はい?」


「私は、まだヴィクターを許せないかもしれない」


彼の正直な言葉に、私は頷いた。


「それでいいんです。無理に許す必要はありません」


「ただ、憎しみに支配されないでください」


私は、彼の目を見つめた。


「あなたには、大切なものがたくさんあります。フィリップスさんも、セレスティアも、そして――」


私の言葉が、途切れた。


「そして?」


アレクサンダー様が、優しく聞いてくる。


「そして、私も、います」


その言葉を口にすると、頬が熱くなった。


彼は、優しく微笑んだ。


「ああ。君がいてくれる」


---


「紅茶を淹れよう」


私は、立ち上がった。


「ここで?」


「はい。私が淹れます」


部屋の隅に、小さなキッチンがある。私は、そこで紅茶を淹れ始めた。


お湯を沸かし、茶葉を入れる。ベルガモットの良い香りが、部屋に広がっていく。


カップに紅茶を注ぎ、アレクサンダー様に差し出した。


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


彼が、紅茶を一口飲んだ。


「美味しい」


その言葉に、私は微笑んだ。


「温かいものを飲むと、心も落ち着きますよね」


「ああ」


私も、自分のカップを手に取った。温かさが、手のひらに伝わってくる。


---


暖炉の前で、私たちは静かに紅茶を飲んだ。


「この時間が、好きだ」


アレクサンダー様が言った。


「君と一緒にいると、心が安らぐ」


その言葉に、胸が高鳴った。


「私も、あなたと一緒にいると、幸せです」


彼が、優しく微笑んだ。


「これから、どんな困難が待っていても、君がいてくれれば乗り越えられる」


「私も、あなたがいてくれるから、頑張れます」


私たちは、互いに微笑み合った。


暖炉の火が、私たちを優しく照らしている。


「この人を、救うのは私だ」


その使命感が、胸に深く刻まれた。


---


紅茶を飲み終えると、アレクサンダー様が立ち上がった。


「そろそろ、休もう」


「はい」


私も、立ち上がった。


「今夜も、話を聞いてくれてありがとう」


「いえ、私こそ、お話ししてくださってありがとうございます」


部屋を出る前に、もう一度彼を見つめた。


「アレクサンダー様」


「何だ?」


「明日も、一緒に頑張りましょう」


彼が、優しく微笑んだ。


「ああ。君がいてくれるなら、どんな困難も乗り越えられる」


その言葉が、胸に深く響いた。


---


自室に戻り、ベッドに横になった。


今夜、裏切り者ヴィクターの話を聞いた。


アレクサンダー様の憎しみと、苦しみ。


でも、私は彼に復讐ではなく、未来を選んでほしいと伝えた。


彼が、その言葉を受け入れてくれたかは分からない。


でも、少なくとも、考えてくれたはずだ。


「この人を、救いたい」


その想いが、また強くなった。


彼の心の傷は、深い。簡単には癒えない。


でも、私は諦めない。


時間をかけて、少しずつ、彼の心を癒していく。


そして、いつか彼が本当の笑顔を取り戻せるように。


目を閉じると、彼の温もりがまだ残っている気がした。


明日からも、頑張ろう。


この人のために。この世界のために。


そして、私たちの未来のために。

**次回予告**


裏切り者の存在を知り、私たちの決意は固まった。でも、侯爵様の心に残る葛藤は、まだ消えていない。復讐心と、未来への希望。その狭間で、彼は揺れ続ける――。第81話へ続く。

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