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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第III部: 試練と葛藤

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第79話: 侯爵様の過去

夜が訪れた。


アレクサンダー様から、「話したいことがある」と呼ばれた。


彼の私室に向かう廊下を歩きながら、胸の鼓動が速くなっていく。私室に招かれるのは、初めてだ。


扉をノックすると、「入ってくれ」という声が聞こえた。


---


部屋に入ると、暖炉の火が静かに燃えていた。


暖かい空気が、肌を包み込む。本棚には、たくさんの古い書物が並んでいる。机の上には、一枚の絵が飾られていた。


「座ってくれ」


アレクサンダー様が、ソファを指差した。


私は、静かに座った。彼も、向かい側に座る。


暖炉の火が、彼の横顔を照らしている。いつもの凛とした表情ではなく、どこか寂しげな顔だった。


「エリアナ、君に話したいことがある」


「はい」


彼は、しばらく黙っていた。それから、机の上の絵を手に取った。


「これは、ルシアだ」


絵には、美しい女性が描かれていた。優しい微笑みを浮かべている。


「ルシア・ヴァンヘルシング。私の、かつての恋人だ」


---


アレクサンダー様が、静かに語り始めた。


「若い頃、私はルシアと出会った」


彼の声は、優しく揺れていた。


「彼女は、魔法研究に情熱を注ぐ、聡明な女性だった。私も、魔法理論に興味があった。だから、すぐに意気投合した」


暖炉の火が、パチパチと音を立てている。


「毎日、一緒に研究した。魔法陣の構造、魔力の流れ、古代魔法の解読。すべてが、楽しかった」


彼の瞳に、懐かしさが浮かんでいる。


「彼女の笑顔が、私の支えだった。一緒にいるだけで、幸せだった」


私は、静かに聞いていた。この人が、こんなに感情を露わにするのは初めてだ。


「あの頃は、未来が輝いて見えた」


その言葉に、胸が締め付けられた。


---


「でも、ある日――」


アレクサンダー様の声が、震えた。


「結社の者たちが、彼女を狙った」


私の心臓が、強く打った。


「彼女の研究成果を、結社が欲しがったんだ。特に、語り箱――ことりの技術を」


ことり。その名前を聞いて、私は水晶箱に目をやった。


「ルシアは、拒否した。でも、結社は諦めなかった」


彼の拳が、強く握られている。


「そして、私の仲間の一人が、裏切った」


「裏切り...?」


「ああ。研究仲間の一人、ヴィクターが、結社に情報を売ったんだ」


その名前を、私は記憶に刻んだ。


「ヴィクターの裏切りによって、結社はルシアの居場所を突き止めた」


アレクサンダー様の瞳に、深い悲しみが浮かんでいる。


「私は...彼女を守れなかった」


---


「ルシアは、結社の襲撃で命を落とした」


その言葉に、私は息を呑んだ。


「私が、もっと早く気づいていれば。もっと強ければ。彼女を守れたのに」


彼の声が、震えている。


「私の...せいだ」


涙が、彼の頬を伝った。


私は、彼の手を握った。


「アレクサンダー様...」


「君に、これを話すのは辛い。でも、君には知っていてほしかった」


私は、彼の手を強く握った。


「あなたは、悪くありません」


「でも――」


「悪いのは、裏切ったヴィクターです。そして、結社です」


私の言葉に、彼は目を閉じた。


---


「あなたは、精一杯戦ったんですよね」


私は、優しく語りかけた。


「それでも、守れなかった。その苦しみは、計り知れません」


彼は、静かに頷いた。


「でも、ルシアさんは、あなたを責めていないと思います」


「なぜ、そう思う?」


「だって、あなたはこんなにも、彼女のことを想い続けているから」


私は、彼の手を両手で包んだ。


「その想いが、彼女への最大の供養です」


アレクサンダー様が、私を見つめた。


「エリアナ...」


「あなたは、一人じゃありません。私が、ここにいます」


その言葉に、彼の瞳から涙が溢れた。


私は、彼の背中をそっとさすった。


---


暖炉の前で、私たちは静かに寄り添っていた。


火の温もりが、部屋を包み込んでいる。


「ありがとう、エリアナ」


アレクサンダー様が、ようやく口を開いた。


「君がいてくれて、心が軽くなった」


「私こそ、お話ししてくださってありがとうございます」


私は、彼の肩に手を置いた。


「これから、一緒に戦いましょう」


「ああ」


彼が、優しく微笑んだ。その笑顔は、少し寂しげだったけれど、以前よりも穏やかだった。


暖炉の火が、パチパチと音を立てている。窓の外には、静かな夜が広がっている。


「この人を、もっと支えたい」


そう思った。


彼は、ずっと一人で苦しみを抱えてきた。ルシアを失った痛み。自分を責める気持ち。


でも、これからは違う。私がいる。


---


「エリアナ」


「はい?」


「君は、私にとって特別な存在だ」


その言葉に、胸が高鳴った。


「私も、アレクサンダー様は特別です」


彼が、私の手を握った。


「君の優しさに、いつも救われている」


その手の温もりが、胸に染み込んでくる。


「私も、あなたに救われています」


前世では、誰にも必要とされなかった。孤独だった。


でも、この世界では違う。この人が、私を必要としてくれている。


「ずっと、一緒にいてくれるか?」


その言葉に、涙が溢れそうになった。


「はい。ずっと、一緒にいます」


アレクサンダー様が、私を抱きしめてくれた。


その温もりの中で、私は幸せを感じた。


---


暖炉の火が、少しずつ弱くなっていく。


「そろそろ、休もう」


アレクサンダー様が言った。


「はい」


私は、立ち上がった。


「おやすみなさい、エリアナ」


「おやすみなさい、アレクサンダー様」


部屋を出る前に、もう一度振り返った。


彼は、暖炉の前で静かに座っていた。その背中が、少し寂しそうに見えた。


でも、きっと大丈夫。


私が、彼を支える。一緒に戦う。


そして、いつか彼の心の傷を、癒してみせる。


---


自室に戻り、ベッドに横になった。


今夜、彼の過去を知った。


ルシアとの幸せな日々。そして、裏切りによる別れ。


彼が抱えてきた苦しみの深さを、少しだけ理解できた気がする。


「この人を、救いたい」


その想いが、胸に強く刻まれた。


私は転生者として、この世界を救う使命がある。


でも、それと同じくらい、彼を救いたい。


彼の心の傷を、癒したい。


そのために、私は戦う。


目を閉じると、彼の温もりがまだ残っている気がした。


明日から、また頑張ろう。


この人のために。この世界のために。


そして、私自身のために。

**次回予告**


裏切り者ヴィクターの正体が、明らかになる。侯爵様の深い憎しみと、私の想い。復讐ではなく、未来を選ぶ道を――。第80話: 裏切り者、次回もお楽しみに。

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