第77話: 内部情報
深夜の書斎に、四人が集まっていた。
蝋燭の灯りが、机の上に広げられた書類を照らしている。セレスティアさんが持ってきた文書は、想像以上に詳細だった。
「これを見てください」
フィリップスさんが、一枚の羊皮紙を指差した。
「『世界の魔力支配計画』...まさか」
アレクサンダー様の声が、わずかに震えた。私も、その文字を凝視した。心臓が、早鐘のように打っている。
セレスティアさんが、別の書類を取り出した。
「父の記録によれば、結社の真の目的は『不老不死の完成』ではありません」
「では、何が目的なのですか?」
私が尋ねると、セレスティアさんは深く息を吸った。
「世界中の魔力を、支配することです」
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その言葉に、私たちは言葉を失った。
世界中の魔力を支配する。それは、想像を絶する規模の野望だ。
「魔法陣は、その核となる装置だったんです」
セレスティアさんが続けた。
「各地に設置された魔法陣を通じて、世界中の魔力を一箇所に集約する。そして、それを制御する者が、世界の支配者となる」
フィリップスさんが、資料を読み込んでいる。
「この図を見ると、魔法陣のネットワークは既に、大陸の主要都市すべてに及んでいます」
私の前世の知識が、その構造を理解していく。これは、まるで巨大なサーバーネットワークだ。各ノードから魔力を集約し、中央で制御する。
「もし、これが完成したら――」
アレクサンダー様が、低い声で言った。
「世界中の魔法使いが、魔法を使えなくなる。いや、彼らに支配される」
私は、その恐ろしさに身震いした。
「世界が...危ない」
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私は、小さな水晶箱を取り出した。ことりに相談するしかない。
> 世界規模の魔法を防ぐ方法はありますか?
【ことり】
*************
確率: 50%
世界規模の魔力支配を防ぐには、魔法陣の制御装置を破壊する必要があると推測されます。
中央制御ノードを無効化すれば、ネットワーク全体が機能停止する可能性があります。ただし、場所の特定と侵入が困難です。
*************
[魔力: 140/150]
確率50%か。あまり高くはないけれど、他に手がかりがない。
「ことりによれば、制御装置を破壊すればいいそうです」
私がそう伝えると、フィリップスさんが頷いた。
「理にかなっています。ネットワーク構造なら、中央ノードを破壊すれば全体が崩壊します」
「問題は、その制御装置がどこにあるか、ですね」
セレスティアさんが、また別の書類を取り出した。
「父の記録には、遺跡の最深部に『核』があると書かれています。おそらく、それが制御装置でしょう」
アレクサンダー様が、地図を広げた。
「東の森の遺跡、最深部。そこに向かわなければならない」
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「私たちが、止めなければ」
私は、決意を込めて言った。
この世界を守りたい。転生者として、この世界に生かされた私には、使命がある。
前世では、何も成し遂げられなかった。ただ働いて、疲れて、孤独だった。
でも、この世界では違う。大切な人たちがいる。守るべきものがある。
アレクサンダー様が、私の手を握った。
「君がいてくれて、心強い」
その温もりに、胸が熱くなった。この手は、大きくて、温かい。
「私も、皆さんがいてくれて、心強いです」
セレスティアさんが微笑んだ。
「一緒に戦いましょう、エリアナ」
フィリップスさんも頷いた。
「君たちがいれば、勝算はある」
私たちは、互いに頷き合った。
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深夜の書斎で、重苦しい雰囲気が続いていた。
アレクサンダー様が、立ち上がった。
「一息つこう」
彼は、書斎の隅にある小さなキッチンに向かった。やがて、紅茶の良い香りが漂ってくる。
「はい、エリアナ」
差し出されたカップを受け取ると、温かさが手のひらに伝わってきた。
「ありがとうございます」
一口飲むと、カモミールの優しい香りが鼻に抜けていく。疲れた心が、少しずつ解れていくのを感じた。
「こういう時こそ、落ち着くことが大切だ」
アレクサンダー様の言葉に、私は頷いた。
セレスティアさんも、紅茶を手に取った。
「温かい...」
彼女の表情が、少し和らいだ。
フィリップスさんも、カップを手にして窓の外を見た。
「夜空が綺麗ですね」
私も、窓の外を見た。満天の星が、静かに瞬いている。こんなに綺麗な星空を、前世で見たことはなかっただろうか。
「美しいですね」
その言葉に、アレクサンダー様が微笑んだ。
「この星空を、守りたいな」
その言葉に、私は深く共感した。
そうだ。この世界を、この美しい星空を、守りたい。
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紅茶を飲み終えると、少し気持ちが落ち着いた。
「さて、続きをしましょうか」
フィリップスさんが、資料に目を戻した。
「遺跡への侵入ルートですが、セレスティアさんの情報によれば、三つのルートがあります」
「一つ目は正面からの侵入。ただし、これは監視が厳重です」
「二つ目は、地下水路を通るルート。こちらは監視が薄いですが、危険が伴います」
「三つ目は、空中からの侵入。飛行魔法を使えば可能ですが、魔力消費が大きいです」
アレクサンダー様が、考え込んだ。
「どのルートも、一長一短だな」
私は、前世のSEとしての経験を活かして考えた。
「リスクとリターンを考えると、地下水路が最適かもしれません。監視が薄いなら、侵入の成功率が高いです」
「同感です」
フィリップスさんが頷いた。
「では、地下水路ルートを中心に、詳細な計画を立てましょう」
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会議は、さらに数時間続いた。
詳細な侵入計画、各人の役割、緊急時の対応。すべてを綿密に詰めていく。
気づけば、窓の外が少しずつ明るくなり始めていた。
「そろそろ、休みましょう」
アレクサンダー様が言った。
「明日も、長い一日になる。体力を温存しないと」
私は、頷いた。確かに、今夜はほとんど眠っていない。
「おやすみなさい、皆さん」
セレスティアさんが、部屋を出て行った。
フィリップスさんも、資料を片付けて退室した。
「エリアナ」
アレクサンダー様が、私を呼び止めた。
「何でしょうか?」
「君の分析力と決断力に、いつも助けられている。ありがとう」
その言葉に、胸が温かくなった。
「私こそ、アレクサンダー様がいてくださるから、頑張れます」
彼は、優しく微笑んだ。
「この人と一緒なら」
そう思った。
どんな困難も、乗り越えられる気がした。
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自室に戻り、ベッドに横になった。
今夜知った真実が、頭の中を巡る。
世界規模の陰謀。魔力支配計画。そして、私たちが止めなければならない使命。
不安は大きい。でも、諦めない。
私には、仲間がいる。アレクサンダー様がいる。
そして、この世界を守りたいという、強い想いがある。
目を閉じると、疲れが一気に押し寄せてきた。
明日からは、本格的な準備が始まる。
私は、その覚悟を胸に、深い眠りに落ちていった。
**次回予告**
世界を救う使命を背負った私たち。しかし、不安も大きい。朝の庭園で、アレクサンダー様と語り合う中で、私は自分の気持ちと向き合う――。第78話: 危機感と決意、次回もお楽しみに。




