第76話: 決断
夕暮れの応接室に、緊張が満ちていた。
私は、隣に座るセレスティアさんを見つめた。彼女の瞳には、今までに見たことのない決意が宿っていた。窓から差し込むオレンジ色の光が、彼女の金色の髪を淡く照らしている。
「アレクサンダー様、フィリップスさん、エリアナ様」
セレスティアさんの声が震えることなく響いた。
「私は、家族と一時的に距離を置きます。友人たちと共に、結社と戦う道を選びます」
侯爵様――いや、アレクサンダー様が、深く頷いた。その瞳には、セレスティアさんへの信頼と、覚悟を認める色が浮かんでいる。
「お前の決意、受け止めた」
フィリップスさんも、真剣な表情で口を開いた。
「セレスティアさん、その決断は容易ではなかったはずだ。君の勇気を尊敬する」
セレスティアさんは、一瞬だけ目を伏せた。それから、胸元から小さな革袋を取り出した。
「これを、お渡しします」
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「それは?」
アレクサンダー様が尋ねると、セレスティアは静かに答えた。
「父の書斎から見つけた書類です。結社の本拠地に関する手がかりが、ここに」
私の心臓が、一気に高鳴った。
フィリップスさんが立ち上がり、革袋を受け取った。中から取り出した書類を広げると、彼の表情が一変する。
「これは...東の森の地図だ。そして、この印は――」
「遺跡の位置です」
セレスティアさんが言葉を継いだ。
「父は、そこに結社の本拠地があると言っていました。魔法陣の核も、そこに」
アレクサンダー様の瞳が、鋭く輝いた。
「東の森の遺跡か。あそこは、300年前の大魔法戦争で放棄された場所だ」
フィリップスさんが地図を指差した。
「ここの印を見てください。複数の魔力反応点が記されています。これは、大規模な魔法陣の配置を示しています」
私は、地図を凝視した。前世のSEとしての知識が、自然に頭の中で情報を整理していく。魔法陣のネットワーク構造。制御ノードの配置。これは、まるで分散システムの設計図のようだ。
「確かに、結社の本拠地で間違いなさそうですね」
私がそう言うと、アレクサンダー様が私の手を取った。
「君の分析力は、本当に助かる」
その言葉に、頬が少し熱くなるのを感じた。
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「セレスティアさん」
私は、彼女に歩み寄った。そして、静かに抱きしめた。
「あなたの勇気に、心から感謝します」
セレスティアさんの体が、わずかに震えた。それから、彼女は静かに微笑んだ。
「ありがとう、エリアナ。あなたの言葉が、私に勇気をくれました」
私たちは、しばらくそうしていた。夕日が少しずつ沈んでいき、部屋の中が薄暗くなっていく。
フィリップスさんが、地図を机に広げた。
「では、詳細な戦略を立てましょう。この地図を基に、侵入ルートを検討します」
アレクサンダー様が頷いた。
「東の森は広大だが、この地図があれば迷わない。まずは偵察部隊を送り、状況を確認するべきだ」
「父の情報によれば、遺跡は三つの層に分かれているそうです」
セレスティアさんが説明を続けた。
「最上層は監視拠点、中層は研究施設、最深部に魔法陣の核があります」
私は、その構造を頭の中で整理した。
「最深部に到達するには、上から順番に突破しなければならないということですね」
「その通りです」
フィリップスさんが地図に線を引いた。
「ここから侵入し、この通路を通れば、監視を避けられる可能性があります」
会議は、夜まで続いた。
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「そろそろ、休憩しませんか」
マーガレットさんが、温かい紅茶とサンドイッチを運んできてくれた。その香りが、緊張していた心を少しだけ和らげてくれる。
「ありがとうございます」
私は、紅茶を一口飲んだ。ベルガモットの香りが、優しく鼻に抜けていく。温かい液体が喉を通り、胃に届くと、ほっとため息が漏れた。
アレクサンダー様も、紅茶を手に取った。
「無理をしすぎてはいけない。今夜はここまでにして、明日また続きを話そう」
セレスティアが、サンドイッチを一口食べた。
「マーガレットさんの作る料理は、いつも美味しいですね」
「ありがとうございます、お嬢様」
マーガレットさんが優しく微笑んだ。
フィリップスさんも、紅茶を飲みながら微笑んだ。
「こうして皆で食卓を囲むのは、久しぶりですね」
その言葉に、私は思わず笑顔になった。
そうだ。私は一人じゃない。仲間がいる。家族のような温もりがある。
前世では、SEとして忙しく働き、こんな風に誰かとゆっくり食事をする時間さえなかった。この世界で得たものは、魔法や知識だけじゃない。人との繋がりだ。
「家族っていいな」
思わず、その言葉が口から零れた。
アレクサンダー様が、優しく微笑んだ。
「そうだな。君のおかげで、仲間が増えた」
その眼差しに、私は胸が高鳴るのを感じた。この人の傍にいると、不思議と勇気が湧いてくる。
「明日から、また頑張りましょう」
私がそう言うと、皆が頷いた。
夜の静けさが、部屋を包み込んでいく。窓の外には、満天の星空が広がっていた。
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応接室を出て、自室に戻る廊下。
アレクサンダー様が、隣を歩いてくれた。
「今日は、よく頑張ったな」
「いえ、セレスティアの勇気に、私も励まされました」
「君は、本当に優しい」
その言葉に、私は少し照れてしまった。
「おやすみなさい、エリアナ」
「おやすみなさい、アレクサンダー様」
部屋に入り、ベッドに横になると、今日の出来事が頭の中を巡った。
結社の本拠地が判明した。東の森の遺跡。これから、本格的な戦いが始まる。
不安もある。でも、私には仲間がいる。アレクサンダー様も、フィリップスさんも、セレスティアも。
私は、明日への決意を胸に、目を閉じた。
この世界を、守りたい。大切な人たちを、守りたい。
そのために、私は戦う。
**次回予告**
結社の真の目的が、ついに明らかになる。それは、想像を遥かに超える、恐るべき計画だった――。第77話: 内部情報、次回もお楽しみに。




