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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第III部: 試練と葛藤

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第75話: 家族との対峙

 翌朝、私はセレスティアと共に馬車に乗っていた。


 王都の貴族街へと向かう道のりは、沈黙に包まれていた。


「大丈夫?」


 私がセレスティアの手を握ると、彼女は小さく頷いた。


「エリアナがいてくれるから」


 でも、彼女の手は冷たく震えていた。


「一人じゃないよ」


 私は彼女の手を握りしめた。


「私が、ずっとそばにいる」


「ありがとう...」


 セレスティアの目が、潤んでいた。


---


 ローレンス家の邸宅は、立派な建物だった。


 王都でも有数の貴族の家。白い石造りの壁が、朝日に輝いている。


 門をくぐり、玄関へと進む。


 執事が出迎えた。


「セレスティア様、お帰りなさいませ」


「父は、いますか?」


 セレスティアの声が、少し震えていた。


「書斎におられます」


「案内してください」


---


 書斎のドアの前で、セレスティアは立ち止まった。


「怖い...」


 彼女が小さく呟いた。


「大丈夫」


 私は彼女の背中を優しく押した。


「一緒だよ」


 セレスティアが深呼吸をして、ドアをノックした。


「父上、セレスティアです」


「入りなさい」


 低い男性の声が聞こえた。


---


 書斎の中には、中年の男性が座っていた。


 セレスティアの父、ローレンス侯爵様だ。厳格そうな顔立ち。鋭い目つき。


「セレスティア。それと...」


 彼が私を見た。


「エリアナ・フォンテーヌです」


 私は礼儀正しく挨拶した。


「アレクサンダー侯爵様のもとでお世話になっております」


「ああ、噂は聞いている」


 ローレンス侯爵様が頷いた。


「で、今日は何の用だ?」


---


 セレスティアが一歩前に出た。


「父上、お聞きしたいことがあります」


「何だ?」


「ローレンス家が...」


 セレスティアの声が震えた。


「秘密結社に、資金を提供しているというのは本当ですか?」


 部屋の空気が、一瞬で凍りついた。


 ローレンス侯爵様の表情が、変わった。


「...誰から聞いた?」


「それは...」


「アレクサンダーか」


 彼が鋭い目で私を見た。


「あの男も、余計な詮索を...」


---


「答えてください、父上」


 セレスティアが声を張り上げた。


「本当なんですか?」


 ローレンス侯爵様が、大きくため息をついた。


「...本当だ」


「どうして...」


 セレスティアが青ざめた。


「家のためだ」


 父親が冷たく言った。


「ローレンス家を守るため、結社との関係が必要だった」


「でも、結社は危険な組織です!」


「分かっている」


 父親が机を叩いた。


「だが、選択肢はなかった!」


---


 セレスティアが、後ずさった。


 私は彼女の肩を支えた。


「お父様...そんな人だったんですか」


 セレスティアの声が、震えていた。


「私は、あなたを尊敬していました」


「セレスティア...」


「でも、もう...」


 涙が、彼女の頬を伝った。


「もう、あなたを信じられません」


---


「待て、セレスティア」


 父親が立ち上がった。


「これは家族のためだ。お前も、いずれ理解する」


「理解できません」


 セレスティアがはっきりと言った。


「悪と手を組むことが、家族のためだなんて」


「世間知らずが」


 父親が冷たく言った。


「貴族の世界は、そんなに甘くない」


「私は、父上のようにはなりません」


 セレスティアが顔を上げた。涙で濡れた顔だったが、目には強い意志が宿っていた。


「私は、正しい道を選びます」


---


 私はセレスティアの手を握った。


「行こう、セレスティア」


「...はい」


 私たちは、書斎を出た。


 後ろから、父親の声が聞こえた。


「セレスティア!戻ってこい!」


 でも、セレスティアは振り返らなかった。


---


 邸宅を出て、馬車に乗り込んだ。


 セレスティアは、ずっと泣いていた。


「よく頑張ったね」


 私は彼女を抱きしめた。


「本当に、よく頑張った」


「エリアナ...」


 セレスティアが私の肩で泣いた。


「お父様が...あんな人だったなんて...」


「辛かったよね」


 私は彼女の背中を撫でた。


「でも、あなたは間違っていない」


---


「家族を選べないけど」


 私が優しく言った。


「友人は選べる」


「友人...」


「そう。私は、あなたの友達だよ」


 私はセレスティアの顔を見た。


「これからも、ずっと」


「ありがとう...」


 セレスティアが、ようやく小さく笑った。


「あなたがいてくれて、本当に良かった」


「こちらこそ」


 私も笑顔を返した。


---


 馬車が屋敷に戻る途中、私たちは王都のカフェに立ち寄った。


「少し休もう」


 私が提案すると、セレスティアが頷いた。


 カフェの中は、温かくて落ち着いていた。


 私たちは窓際の席に座り、ココアを注文した。


「ココア、好き?」


「はい」


 セレスティアが小さく笑った。


「子供の頃から、大好きです」


「私も」


---


 温かいココアが運ばれてきた。


 カップを両手で包むと、その温もりが手のひらに広がる。


「温かい...」


 セレスティアが呟いた。


「心まで、温まりますね」


「うん」


 私も一口飲んだ。甘くて、優しい味。ココアの香りが、鼻をくすぐる。


「美味しい」


 セレスティアが、少し笑顔を見せた。


 その笑顔を見て、私も安心した。


---


「これから、どうしましょう」


 セレスティアが不安そうに聞いた。


「父とは、もう...」


「無理に関係を修復しなくてもいいよ」


 私が言った。


「あなたは、あなたの道を行けばいい」


「でも、家族を捨てるなんて...」


「捨てるんじゃない」


 私は彼女の手を握った。


「距離を置くだけ」


 セレスティアが、ゆっくりと頷いた。


「...そうですね」


---


「それに」


 私が続けた。


「あなたには、私たちがいる」


「私たち...?」


「侯爵様も、フィリップスさんも、マーガレットさんも。みんな、あなたの味方だよ」


 セレスティアの目に、また涙が浮かんだ。でも、今度は嬉し涙だった。


「本当に...ありがとうございます」


「家族は選べないけど、家族のように大切な人は選べる」


 私は微笑んだ。


「あなたは、私の大切な友達だから」


---


 カフェを出る頃には、セレスティアの表情も明るくなっていた。


「エリアナ」


「うん?」


「私、これから頑張ります」


 セレスティアがしっかりとした声で言った。


「父の道ではなく、私の道を」


「応援してる」


 私は彼女の肩を叩いた。


「一緒に、頑張ろう」


「はい」


 セレスティアが笑顔を見せた。


 その笑顔は、朝よりずっと明るかった。


---


 屋敷に戻ると、侯爵様が待っていてくれた。


「お帰り」


 彼が優しく言った。


「二人とも、よく頑張ったな」


「侯爵様...」


 セレスティアが深くお辞儀をした。


「ご心配をおかけしました」


「気にするな」


 侯爵様が微笑んだ。


「君は何も悪くない」


「ありがとうございます」


---


 夜、自分の部屋に戻った。


 今日は、本当に長い一日だった。


 セレスティアの辛さ。父親との対峙。すべてが、重かった。


 でも、乗り越えた。


 ベッドに座り、窓の外を見た。


 星が、静かに輝いている。


「セレスティア、頑張ったね」


 私は小さく呟いた。


 彼女は、自分の道を選んだ。それは、勇気のいる決断だった。


「私も、頑張らなきゃ」


 私にも、乗り越えなければならないことがたくさんある。


 結社のこと、呪いのこと、そして侯爵様への想い。


 でも、一人じゃない。仲間がいる。


 その事実が、私を強くしてくれる。


---


 侯爵様の顔を思い出す。


 今日、屋敷で私たちを迎えてくれた時の優しい笑顔。


「君が無事で良かった」


 彼がそう言ってくれた時、私の胸は温かくなった。


 この人は、いつも私を心配してくれている。


 守ってくれている。


「侯爵様...」


 私は枕を抱きしめた。


 好き。


 その想いが、日に日に強くなっていく。


 でも、今は想いを伝えるタイミングじゃない。


 呪いのこと、結社のこと。すべてが片付いてから。


「その時まで、待っていてください」


 私は心の中で呟いた。


 そして、ゆっくりと眠りについた。


 明日も、新しい一日が始まる。

**次回予告**


セレスティアが下した重大な決断。家族との決別を選んだ彼女は、これからどう生きていくのか。一方、結社の動きが活発化し始める。エリアナたちに、新たな試練が迫る——。


次回、第76話: 決断。

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