第73話: リリーとの時間
午後、突然の訪問客があった。
「エリー!」
応接室のドアが勢いよく開き、リリーが飛び込んできた。
「リリー!」
私は驚いて立ち上がった。
「会いたかった!」
リリーが私に抱きついてきた。彼女の明るいエネルギーが、部屋全体を包む。
「急に来てごめんね。でも、どうしてもエリーに会いたくなって」
「全然いいよ。嬉しい」
本当に嬉しかった。リリーと会うのは、久しぶりだった。
「さあ、座って座って」
私たちはソファに座り、マーガレットさんが紅茶とケーキを運んできてくれた。
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「で、どうなの?」
リリーが紅茶を一口飲んでから、ニヤリと笑った。
「何が?」
「とぼけないで」
リリーが私をじっと見つめる。
「最近、侯爵様といい感じなんじゃない?」
「ええっ、そんな...」
私は顔が熱くなるのを感じた。
「ほら、赤くなった!」
リリーが指を指す。
「やっぱりそうなんだ!」
「リリー...」
私は恥ずかしくて、顔を手で覆った。
「可愛い〜」
リリーが笑った。彼女の笑い声が、部屋に響く。
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「教えてよ、何があったの?」
リリーが身を乗り出してきた。
「その、色々...」
「色々って?」
「昨日、庭園で散歩したり...」
私が小さく言うと、リリーの目が輝いた。
「夜の散歩?」
「うん」
「それで?」
「手、繋いだ...」
「きゃー!」
リリーが声を上げた。
「手繋ぎデート!それ完全に付き合ってるじゃん!」
「付き合ってないよ!」
私は慌てて否定した。
「まだ、そういう関係じゃ...」
「でも、好きなんでしょ?」
リリーが真剣な顔で聞いてきた。
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私は、言葉に詰まった。
「...うん」
小さく頷いた。
「やっと認めた!」
リリーが嬉しそうに笑った。
「もう侯爵様のこと好きって認めなさいよ」
「認めます」
私は観念して、はっきりと言った。
「私、侯爵様が好きです」
口に出してみると、不思議と心が軽くなった。
「良かった。ずっと気づいてたよ」
リリーが優しく笑った。
「エリーの目が、侯爵様を見る時いつも違ってたもん」
「そんなに分かりやすかったの?」
「うん。でも可愛かったよ」
リリーがケーキをフォークで刺しながら言った。
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「でもね」
リリーが少し真剣な表情になった。
「呪いがあるから、告白のタイミングが難しいよね」
「...そうなの」
私は俯いた。
侯爵様の呪い。それが、私たちの間に立ちはだかっている。
「呪いが解けたら...」
私が呟くと、リリーが頷いた。
「その時は、ちゃんと想いを伝えなきゃね」
「うん」
「でも、今はそばにいてあげることが大事だよ」
リリーが私の手を握った。
「エリーは、もう十分に侯爵様を支えてる」
「ありがとう、リリー」
友達の言葉が、心に染みた。
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「そういえば」
私がケーキをフォークで切りながら言った。
「リリーは、誰か気になる人いないの?」
「え?」
リリーが一瞬、顔を赤らめた。
「いない、いない!」
「嘘」
私は笑った。
「今、絶対顔赤くなったよ」
「エリーのせいだよ!」
リリーが抗議した。
「急に聞くから」
「教えてよ」
今度は私が身を乗り出した。
「その...王宮の騎士団に...」
リリーが小声で言った。
「騎士団?」
「うん。エドワードって人がいて...」
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リリーが話し始めた。
エドワードという騎士は、真面目で優しくて、でも少し不器用な人らしい。リリーが困っている時、いつも助けてくれるという。
「それ、完全に好きじゃん」
私が言うと、リリーが真っ赤になった。
「でも、まだ何も...」
「じゃあ、これから」
「エリーと侯爵様みたいに、うまくいくといいな」
リリーが恥ずかしそうに笑った。
「きっとうまくいくよ」
私は励ました。
「リリーは明るくて可愛いから」
「エリーもだよ」
お互いに笑い合った。
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私たちは、お茶とケーキを楽しみながら他愛ない話を続けた。
最近の流行の服の話、王都で人気のカフェの話、共通の友人の近況。
すべてが楽しかった。
こうやって、女の子同士で語り合う時間。それが、心を軽くしてくれる。
「ねえ、このケーキすごく美味しい」
リリーがイチゴのショートケーキを食べながら言った。
「でしょ?屋敷のシェフが作ったの」
「さすが侯爵様家」
リリーが感心している。
ケーキの甘さが、口の中に広がる。イチゴの酸味とクリームの甘さが、絶妙に調和している。紅茶の香りと相まって、幸せな気分になる。
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「そういえば」
リリーが紅茶を飲み終えてから言った。
「セレスティアは元気?」
「うん、元気だよ」
私はセレスティアのことを思い出した。
「また三人で会いたいね」
「本当に」
リリーが笑顔を見せた。
「三人でお茶会したいな」
「じゃあ、今度企画しよう」
「うん!」
未来の約束をするのは、楽しい。それだけで、心が弾む。
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気づけば、もう夕方近くになっていた。
「あ、もうこんな時間」
リリーが時計を見て驚いた。
「そろそろ帰らなきゃ」
「もう少しいてもいいのに」
「また来るから」
リリーが立ち上がった。
私も一緒に立ち上がり、玄関まで見送った。
「今日は、本当に楽しかった」
私が言うと、リリーが笑った。
「私も。またすぐ来るね」
「待ってる」
リリーが馬車に乗り込む前に、私を振り返った。
「エリー、頑張ってね」
「うん」
「侯爵様との恋、応援してるから」
その言葉に、私は頬が熱くなった。
「ありがとう」
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リリーの馬車が去っていくのを見送りながら、私は微笑んだ。
良い友達がいる。それだけで、人生は豊かになる。
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部屋に戻り、ことりに相談してみた。
> 恋愛感情を自覚した今、どう行動すべきでしょうか?
【ことり】
*************
確率: 62%
恋愛感情を自覚することは、大きな一歩です。
今は焦らず、侯爵様との時間を大切にしてください。呪いの問題もありますので、タイミングが重要です。
あなたの気持ちは、適切な時が来れば、自然と伝わるでしょう。それまで、今の関係を育んでいってください。
*************
[魔力: 140/150 (-10)]
確率62%。タイミング、か。
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応接室にはまだ紅茶の香りが残っていた。
ケーキの皿も、空になっている。
楽しい時間の余韻が、部屋に漂っている。
私は窓辺に座り、外を眺めた。夕日が、オレンジ色に染まっている。
「侯爵様...」
小さく呟いた。
リリーに認めた想い。それは、本当の気持ちだ。
私は、侯爵様を愛している。
でも、呪いのことがある。簡単には進めない。
「でも、諦めない」
私は決意を新たにした。
呪いを解く方法を見つける。そして、いつか侯爵様に想いを伝える。
その日まで、私は侯爵様の傍にいる。支え続ける。
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夜、自分の部屋でベッドに横になった。
今日は、本当に良い一日だった。
リリーと笑い合い、恋の話をし、友情を確かめ合った。
心が、温かい。
でも、明日からまた、色々なことが待っている。
結社のこと、呪いのこと、様々な問題。
それでも、私には仲間がいる。侯爵様がいる。リリーがいる。セレスティアがいる。
一人じゃない。
その事実が、私を強くしてくれる。
「明日も、頑張ろう」
私は自分に言い聞かせて、目を閉じた。
ゆっくりと、眠りについた。
夢の中で、侯爵様の笑顔とリリーの笑い声が聞こえた気がした。
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**次回予告**
幸せな日々を過ごすエリアナ。しかし、翌日、衝撃的な事実が判明する。フィリップスさんの調査により、セレスティアの家族が秘密結社と取引関係にあることが明らかに。親友を信じたいエリアナは、どう向き合うのか——。
次回、第74話: セレスティアの秘密。




