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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第III部: 試練と葛藤

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第72話: 二人の時間

 翌日の夜、私は自分の部屋で読書をしていた。


 コンコン、とノックの音がした。


「エリアナ」


 侯爵様の声だ。私の心臓が、急に早く鳴り始めた。


「はい」


 ドアを開けると、侯爵様が立っていた。いつもと違う、柔らかな表情をしている。


「良い夜だ。庭園を散歩しないか?」


「散歩、ですか?」


 私は窓の外を見た。満月が、夜空に輝いている。


「はい、喜んで」


---


 庭園は、月明かりに照らされて幻想的だった。


 銀色の光が、木々や花々を柔らかく照らしている。夜の冷たい空気が、頬を撫でる。でも、不快ではない。むしろ心地よい。


「綺麗ですね」


 私が呟くと、侯爵様が頷いた。


「ああ。満月の夜は、特に美しい」


 私たちは、ゆっくりと庭園の小道を歩いた。砂利を踏む音が、静かな夜に響く。


 風が吹いて、私の髪が揺れた。


「少し、寒いか?」


 侯爵様が心配そうに聞いた。


「大丈夫です」


 本当は少し寒かったけれど、侯爵様と一緒にいると、不思議と温かく感じた。


---


 歩いているうちに、私の手が侯爵様の手に触れた。


 一瞬、体が固まる。


 侯爵様が、優しく私の手を握った。


「...いいか?」


 低い声で聞かれて、私は頷くしかできなかった。


 侯爵様の手は、大きくて温かかった。包み込まれるような感覚。その温もりが、腕を伝って体全体に広がっていく。


 心臓が、激しく鳴っている。聞こえてしまわないか心配になるほど。


「君の手は、小さいな」


 侯爵様が微笑んだ。月明かりに照らされた彼の顔が、いつもより優しく見える。


「侯爵様の手が、大きいだけです」


 私は恥ずかしくて、少しだけ反論した。


 侯爵様が小さく笑った。その笑い声が、夜の静寂に溶けていく。


---


 私たちは、手を繋いだまま歩き続けた。


「エリアナ」


 侯爵様が静かに呼んだ。


「はい」


「君がいてくれるだけで、幸せだ」


 その言葉に、私の胸が締め付けられた。


「私も...」


 言葉を探す。心の中にある想いを、どう言葉にすればいいのか。


「私も、あなたと一緒にいると、安心します」


 精一杯の言葉だった。でも、侯爵様は優しく微笑んだ。


「それは、嬉しい」


 彼の手が、私の手を少し強く握った。その温もりが、心に染み渡る。


 私たちは、庭園の奥へと進んだ。バラ園を抜けると、小さな池がある。月が、水面に映っていた。


「綺麗...」


 私は思わず声を漏らした。


 月の光が、水面でゆらゆらと揺れている。まるで、宝石が散りばめられたように輝いている。


「ここは、私のお気に入りの場所だ」


 侯爵様が言った。


「あまり人に見せたことはない」


「それを、私に...?」


「君になら、見せたい」


 侯爵様の紫色の瞳が、私を見つめている。その視線に、私は息が詰まりそうになった。


---


 池のほとりに、木製のベンチがあった。


「座ろうか」


 侯爵様が促して、私たちはベンチに座った。


 夜風が、優しく吹いている。花の香りが、かすかに漂ってくる。


「疲れていないか?」


「大丈夫です」


 私は侯爵様を見上げた。彼の横顔が、月明かりに照らされている。彫刻のように美しい横顔。


「昨日は、ありがとうございました」


 私が言うと、侯爵様が首を傾げた。


「何のことだ?」


「慰めてくださって」


 昨日の私室での時間を思い出す。侯爵様の優しさ、温もり。


「当然のことをしただけだ」


 侯爵様が答えた。


「君が辛い時、私はそばにいたい」


 その言葉が、胸に響く。


「私も、侯爵様の傍にいたいです」


 自分でも驚くほど、素直に言葉が出た。


---


 侯爵様が、ゆっくりと私の肩に手を回した。


「いいか?」


「...はい」


 私は侯爵様の肩に、頭を預けた。


 温かい。安心する。この人の傍にいると、すべてが大丈夫な気がする。


「こんな時間が、ずっと続けばいいのに」


 私が小さく呟くと、侯爵様が答えた。


「ああ。私もそう思う」


 彼の声が、頭の上から降ってくる。低くて、優しい声。


 私たちは、しばらく黙って座っていた。


 池の水面が、月の光を反射して揺れている。遠くで、夜鳥の鳴き声が聞こえた。風が、木々の葉を揺らす音。すべてが、穏やかで心地よい。


---


「見て」


 部屋に戻る前に、ことりに相談してみた。


> 侯爵様との距離を縮めるために、私にできることは?


【ことり】

*************

確率: 68%


あなたは既に正しい道を歩んでいます。


大切なのは、この瞬間を楽しむこと。焦らず、自然に心を開いていけば、関係は深まっていくでしょう。


あなたの素直な笑顔が、侯爵様にとって何よりの贈り物です。

*************

[魔力: 140/150 (-10)]


 確率68%。自然に、か。


---


 庭園のベンチに戻ると、侯爵様が突然、空を指差した。


 流れ星だった。一筋の光が、夜空を横切っていく。


「願い事を」


 侯爵様が言った。


 私は目を閉じた。心の中で、願う。


 ——ずっと、あなたの傍にいたい。


「何を願った?」


 侯爵様が聞いてきた。


「...秘密です」


 私は顔を赤らめた。


「そうか」


 侯爵様が笑った。


「私もだ」


「侯爵様も、願い事をしたんですか?」


「ああ」


 侯爵様が私を見つめた。


「でも、それも秘密だ」


 彼の紫色の瞳が、月明かりの中で優しく輝いている。


 もしかしたら、同じことを願ったのかもしれない。そう思うと、胸がキュンとした。


---


 星空を見上げた。無数の星が、夜空に散りばめられている。


「星が、こんなにたくさん」


「王都では、見られない景色だ」


 侯爵様が言った。


「ここは、空気が澄んでいる」


「前世では...」


 私は言いかけて、口をつぐんだ。でも、侯爵様は待っていてくれた。


「前世では、こんなに星を見ることはありませんでした」


「そうか」


 侯爵様が頷いた。


「それなら、これから一緒に、たくさん見よう」


「...はい」


 私の目に、涙が滲んだ。嬉しくて、幸せで、涙が出そうになる。


 侯爵様の腕が、私を優しく抱きしめた。


「泣かなくていい」


「泣いてません」


「そうか」


 侯爵様の声が、笑っていた。


---


 どれくらい時間が経ったか分からない。


 私たちは、ベンチに座ったまま、星空を見上げていた。


 夜風が心地よい。花の香りが、時折風に乗って運ばれてくる。侯爵様の温もりが、私を包んでいる。


 完全にリラックスしていた。


 この瞬間が、永遠に続けばいいのに。


「そろそろ、戻ろうか」


 侯爵様が優しく言った。


「夜も更けた。風邪を引いてしまう」


「はい」


 少し名残惜しかったけれど、私たちは立ち上がった。


 侯爵様が、再び私の手を握った。私たちは、手を繋いだまま屋敷へと戻った。


---


 部屋の前まで来ると、侯爵様が立ち止まった。


「今夜は、ありがとう」


 侯爵様が微笑んだ。


「こちらこそ」


 私も笑顔を返した。


「侯爵様と過ごせて、幸せでした」


「また、一緒に散歩しよう」


「はい」


 侯爵様が、私の頭を優しく撫でた。その手が、温かい。


「おやすみ、エリアナ」


「おやすみなさい、侯爵様」


 侯爵様が去っていく背中を見送りながら、私は胸に手を当てた。


 心臓が、まだ激しく鳴っている。


---


 部屋に入り、ベッドに座った。


 今夜のことが、夢のようだった。


 手を繋いだこと。肩に頭を預けたこと。流れ星を見たこと。すべてが、宝物のような思い出。


「侯爵様...」


 私は頬に手を当てた。まだ、熱が引かない。


 窓の外を見ると、満月が輝いていた。


 あの月の下で、私たちは特別な時間を過ごした。


「好き...」


 小さく呟いた。


 私は、侯爵様を愛している。


 その想いが、日に日に強くなっていく。


 でも、呪いのことがある。簡単に想いを伝えることはできない。


 それでも、今は幸せだった。


 侯爵様の傍にいられる。それだけで、十分に幸せだった。


 私はベッドに横になり、目を閉じた。


 心が、温かかった。


 ゆっくりと、眠りについた。


 夢の中でも、侯爵様の笑顔が見えた。

**次回予告**


幸せな時間を過ごすエリアナ。翌日、親友のリリーが屋敷を訪れる。恋愛トークが盛り上がり、リリーに「侯爵様のこと好きって認めなさいよ」と迫られて——。女の子同士の楽しい時間が始まる。


次回、第73話: リリーとの時間。

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