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【第III部更新中】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第III部: 試練と葛藤

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第71話: 侯爵様の慰め

 昨夜はぐっすりと眠れた。体も心も疲れていたけれど、朝目覚めた時には少し楽になっていた気がする。魔力も回復している。


 その日の夕方、私は自分の部屋で一人、窓辺に座っていた。


 外の景色が、ぼんやりと霞んで見える。視界が、涙で滲んでいた。


「もっと、うまくできたはず...」


 昨夜の作戦のことが、頭から離れない。確かに完全な失敗ではなかったけれど、もっと良い結果を出せたはずだ。もっと冷静に判断できていれば。もっと的確に動けていれば。


 自分を責める思いが、胸の中でぐるぐると渦巻いている。


 涙が一粒、頬を伝って落ちた。膝の上に握りしめた手が、震えている。


「私は、まだまだ...」


 前世のSEとしての経験があっても、この世界では私はまだ未熟だ。魔法も、戦闘も、すべてが不十分だ。


 侯爵様や仲間たちに、迷惑をかけてしまっている。その事実が、胸を締め付ける。


---


 コンコン、とノックの音がした。


「エリアナ」


 侯爵様の声だった。


「は、はい」


 私は慌てて涙を拭った。でも、きっと顔は赤くなっている。


 ドアが開き、侯爵様が入ってきた。私の顔を見て、彼の表情が変わる。


「泣いていたのか」


「いえ、その...」


 言い訳しようとしたけれど、声が震えていた。


 侯爵様が近づいてきて、私の隣の椅子に座った。近い。心臓が早く鳴る。


「一人で抱え込むな」


 侯爵様の声は、優しかった。低く落ち着いた声が、心に染み渡る。


「昨夜のことを、自分だけの責任だと思っているだろう」


「...はい」


 正直に答えるしかなかった。


「私がもっとしっかりしていれば、もっと良い結果が...」


「そうかもしれない」


 侯爵様は否定しなかった。でも、その言葉には優しさがあった。


「でも、失敗から学べばいい」


---


 侯爵様の深い紫色の瞳が、私を見つめている。


「君は、一人じゃない」


 その言葉に、また涙が溢れそうになった。


「私がいる。フィリップスさんがいる。マーガレットさんがいる。みんなが、君を支えている」


「侯爵様...」


「だから、一人で背負わなくていい」


 侯爵様の手が、私の手に触れた。大きくて、温かい手。その温もりが、私の震えを止める。


「君は十分に頑張っている。それを、忘れないでほしい」


 私は、もう我慢できなかった。涙が、ぼろぼろと溢れてくる。


「ありがとう、ございます...」


 侯爵様が優しく、私を抱きしめてくれた。


 温かい腕の中で、私はすべてを委ねた。堰を切ったように、涙が流れる。


「泣いていい。誰も見ていない」


 侯爵様の声が、頭の上から降ってくる。その優しさに、私はただ泣き続けた。


---


 どれくらい時間が経ったか分からない。


 ようやく涙が止まり、私は侯爵様の腕の中で顔を上げた。


「すみません、服が...」


 侯爵様のシャツが、私の涙で濡れていた。


「気にするな」


 侯爵様が微笑んだ。その笑顔に、私の胸がまたドキリとする。


「少しは、楽になったか?」


「はい」


 本当だった。心が、少し軽くなっている。


「良かった」


 侯爵様が立ち上がった。


「実は、君を私の私室に招きたくて来た」


「私室、ですか?」


 驚いて聞き返した。侯爵様の私室は、誰も入れない場所だと聞いている。


「ああ。二人だけで、ゆっくり話がしたい」


 その言葉に、頬が熱くなった。


---


 自分の部屋に戻る前に、私はことりを取り出した。


> 侯爵様との関係で、今の私に必要なことは何でしょうか?


【ことり】

*************

確率: 65%


今のあなたに必要なのは、「素直になること」です。


侯爵様は、あなたの支えになりたいと願っています。その想いを受け入れ、自分の弱さも見せてください。完璧である必要はありません。


あなたの素直な姿が、関係をより深めるでしょう。

*************

[魔力: 140/150 (-10)]


 確率65%。素直になること、か。


---


 侯爵様の私室は、屋敷の最上階にあった。


 ドアを開けると、落ち着いた雰囲気の部屋が広がっていた。暖炉があり、書棚が壁一面を覆っている。革張りのソファが二つ、暖炉の前に置かれていた。


「ここが、私の私室だ」


 侯爵様が暖炉に火を入れる。パチパチと薪が燃える音が、静かな部屋に響く。


「座ってくれ」


 私はソファに座った。柔らかい革の感触が、心地よい。


 侯爵様も隣に座り、紅茶を淹れ始めた。


「君は、知っているか?」


 侯爵様が静かに言った。


「私も、かつて失敗で苦しんだことがある」


「侯爵様が...?」


 驚いて顔を上げた。


「ああ。若い頃、判断を誤って、仲間を危険にさらした」


 侯爵様の表情が、少し暗くなる。


「その時、私は自分を責め続けた」


---


 侯爵様が紅茶をカップに注ぎ、私に手渡してくれた。温かいカップを両手で包む。


「でも、ある人が言ってくれた」


 侯爵様が続けた。


「『失敗は成長の糧だ。大切なのは、そこから何を学ぶかだ』と」


「...そうですね」


「その言葉に救われた」


 侯爵様が私を見つめた。


「だから、君にも同じことを伝えたい」


「ありがとうございます」


 私は紅茶を一口飲んだ。ダージリンの優雅な香りが、口の中に広がる。温かい液体が喉を通り、体の中から温めてくれる。


「君がいてくれて、私も救われている」


 侯爵様の言葉に、私は驚いて顔を上げた。


「え?」


「君は、この屋敷に光をもたらしてくれた」


 侯爵様の紫色の瞳が、暖炉の光を反射して輝いている。


「君の優しさ、君の強さ、君の存在そのものが、私の支えになっている」


「侯爵様...」


 それは、告白に近い言葉だった。


---


 私の胸が、激しく鳴っている。


「私は...」


 何か言おうとしたけれど、言葉にならなかった。


 侯爵様が優しく微笑んだ。


「今は、無理に答えなくていい」


 彼の手が、私の頭を優しく撫でる。その温もりが、心地よい。


「ただ、君に伝えたかった」


 暖炉の火が、パチパチと音を立てている。温かい熱が、部屋全体を包んでいる。


 私は紅茶のカップを両手で包み、その温もりを感じた。心が、穏やかになっていく。


 窓の外は、すっかり暗くなっていた。夜空に、星が輝いている。


「この部屋、落ち着きますね」


 私が小さく言うと、侯爵様が頷いた。


「ああ。一人で考え事をする時、ここに来る」


「素敵な場所です」


「君がいると、もっと素敵になる」


 侯爵様の言葉に、また頬が熱くなった。


---


 私たちは、しばらく黙って紅茶を飲んでいた。


 沈黙は、少しも苦しくなかった。むしろ、心地よかった。


 暖炉の温かさ、紅茶の香り、侯爵様の隣にいる安心感。すべてが、私を包み込んでくれている。


「エリアナ」


 侯爵様が静かに呼んだ。


「はい」


「これからも、君の傍にいさせてほしい」


 その言葉が、私の心に深く刻まれた。


「こちらこそ...お願いします」


 私は小さく答えた。


 侯爵様の笑顔が、暖炉の光に照らされて優しく輝いていた。


 この人の傍にいたい。その想いが、心の奥底から湧き上がってくる。


 私は、この時間がずっと続けばいいのにと思った。


---


 部屋を出る時、侯爵様が私の肩に手を置いた。


「明日から、また一緒に頑張ろう」


「はい」


 私は力強く頷いた。


 廊下を歩きながら、私の心は軽かった。


 侯爵様の言葉、温もり、優しさ。すべてが、私を支えてくれている。


 自分の部屋に戻り、ベッドに座った。


 今日は、大切な一日だった。


 失敗に打ちひしがれていた私を、侯爵様が救ってくれた。そして、特別な時間を過ごせた。


「侯爵様...」


 私は枕を抱きしめた。


 心の中で、確信が芽生えていた。


 私は、侯爵様を愛している。


 その事実を、もう否定できない。


 窓の外を見ると、満月が輝いていた。優しい光が、部屋を照らしている。


「明日から、また頑張ろう」


 私は自分に言い聞かせた。


 侯爵様がいる。仲間がいる。だから、私は前に進める。


 そして、ゆっくりと眠りについた。心が、温かかった。

**次回予告**


侯爵様との距離が縮まったエリアナ。翌日、二人は月夜の庭園で特別な時間を過ごすことになる。手を繋ぎ、甘い言葉を交わし、星空を見上げる。恋心が、ますます深まっていく——。


次回、第72話: 二人の時間。

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