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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第III部: 試練と葛藤

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第69話: 作戦実行

 深夜、私は黒いフードを被り、馬車に乗り込んだ。侯爵様も同じく変装している。月明かりだけが、私たちを照らしていた。


「準備はいいか?」


 侯爵様が低く囁いた。


「はい」


 私は胸元の革の筒を確認した。中には、偽の魔法陣図が入っている。これを、結社の使者に渡す。


 馬車がゆっくりと動き出した。屋敷を出て、王都へ向かう。夜の道は静かで、時折、遠くで犬の鳴き声が聞こえるだけだった。


「エリアナ」


 侯爵様が私の手を握った。


「何かあったら、すぐに逃げろ。いいな?」


「はい」


 侯爵様の手は大きく、温かかった。その温もりが、不安を和らげてくれる。


「私は、すぐ近くにいる。君を守る」


 侯爵様の紫色の瞳が、月明かりの中で光っていた。


---


 王都の裏通りに着くと、私は馬車を降りた。侯爵様は少し離れた場所に隠れ、私を見守る。


 指定された場所は、古い倉庫の前だった。人気がなく、薄暗い。壁には蔦が絡まり、廃墟のような雰囲気がある。窓ガラスは割れ、扉は半分開いたまま錆びついている。


 私は深呼吸をして、心を落ち着かせた。冷たい夜の空気が肺に入り、少しだけ頭がすっきりする。


「大丈夫。侯爵様が見ている」


 時計を確認する。約束の時間まで、あと五分。


 風が吹き、フードが揺れた。冷たい空気が頬を撫でる。遠くで、猫の鳴き声が聞こえた。


 そして、足音が聞こえてきた。


---


 暗闇の中から、人影が現れた。黒いローブを着た男だ。顔は深いフードで隠れていて、表情が見えない。背は高く、がっしりとした体格をしている。


「お前が、侯爵様の使者か?」


 低く、しわがれた声だった。年齢は分からないが、若くはなさそうだ。


「はい」


 私はできるだけ冷静に答えた。


「魔法陣の図面を持ってきました」


 男が一歩近づいた。その動きは慎重で、警戒している様子が分かる。


「見せろ」


 私は革の筒を取り出し、男に渡した。男は筒を開け、中の羊皮紙を取り出す。


 月明かりの下で、男は魔法陣図を確認した。長い沈黙が続く。私の心臓が、激しく鳴っていた。


 男の顔に、浅い傷跡があるのが見えた。左頬から顎にかけて、古い傷が残っている。戦士だろうか? それとも、別の理由? 月明かりの下で、その傷跡が白く浮かび上がっている。


「...これは、本物か?」


 男が疑わしげに私を見た。フードの奥から、鋭い視線を感じる。


「本物です」


 私は嘘をつくのが苦手だった。でも、今は演じなければならない。


「侯爵様が、直接私に託しました」


 男は再び魔法陣図を見た。そして、ゆっくりと頷いた。


「分かった。これは受け取る」


---


 男が羊皮紙を筒に戻そうとした時、私は質問をした。


「あなたたちは、なぜこの魔法陣を欲しがるのですか?」


 男が動きを止めた。


「お前には関係ない」


「でも、私は知りたい」


 私は一歩前に出た。


「この魔法陣が、どう使われるのか」


 男は長い間、私を見つめた。そして、低く笑った。


「勇敢だな。だが、愚かだ」


 男が再び近づいてきた。私は後ずさりした。


「我々の目的を知りたければ、もっと協力することだ」


「それは...」


「次は、実際に魔法陣を動かすところを見せてもらう」


 男の声が、冷たくなった。


「拒否すれば、お前の侯爵様がどうなるか、分かっているな?」


 脅しだ。私は喉が渇くのを感じた。


「...考えさせてください」


 私はなんとか答えた。


「分かった。三日後、また連絡する」


 男は背を向け、暗闇の中に消えていった。


---


 私は安堵のため息をついた。足が震えている。心臓が、まだ激しく鳴っていた。


「エリアナ!」


 侯爵様が駆け寄ってきた。その腕が、私を抱きしめる。


「大丈夫か?」


「はい、なんとか」


 侯爵様が私を強く抱きしめた。その温もりに、緊張が一気に解けた。侯爵様の心臓の音が聞こえる。早く鳴っている。侯爵様も、緊張していたのだろう。


「よく頑張った」


 侯爵様の声が優しかった。その声に、涙が出そうになった。


「もう大丈夫だ。帰ろう」


 私たちは馬車に乗り込み、屋敷へ向かった。


---


 馬車の中で、私はことりを取り出した。


> 作戦の成功率はどれくらいですか?


【ことり】

*************

確率: 40%


一時的には成功していますが、長期的には不透明です。


相手はあなたに追加の協力を要求しています。これは警戒を強めている証拠です。


次の接触では、より慎重な対応が必要です。偽情報が見破られるリスクも高まっています。

*************

[魔力: 140/150]


 確率40%。低い。私は唇を噛んだ。


「もっと慎重にすべきだった」


 私は小さく呟いた。


「相手も警戒を強めている。次は、もっと難しくなる」


 侯爵様が私の肩を抱いた。


「自分を責めるな。お前はよくやった」


「でも...」


「結果はまだわからない」


 侯爵様の声が、温かかった。


「今は、休むことを考えろ」


 私は侯爵様の胸に顔を埋めた。その温もりに、涙が溢れそうになった。


---


 屋敷に戻ると、マーガレットさんが迎えてくれた。彼女の顔には、安堵の色が浮かんでいた。


「お帰りなさい、エリアナ様」


 彼女は温かい紅茶を用意していた。湯気が立ち上り、優しい香りが広がる。


「どうぞ、召し上がってください」


 私は紅茶を一口飲んだ。優しい甘さが、心を落ち着かせてくれる。


「ありがとうございます」


 マーガレットさんが優しく微笑んだ。


「大変でしたね。でも、あなたは立派にやり遂げました」


 彼女の言葉に、少しだけ救われた気がした。


 フィリップスさんも書斎に来て、報告を聞いた。


「男の顔に傷跡があった、か」


 フィリップスさんが考え込んだ。


「それが手がかりになるかもしれない」


「でも、次の接触が心配です」


 私は正直に言った。


「相手は、実際に魔法陣を動かすところを見たがっています」


「それは応じられない」


 侯爵様が即座に言った。


「本物の魔法陣を見せるわけにはいかない」


「では、どうすれば...」


 私たちは、再び悩み始めた。


---


 夜が更けて、私は部屋に戻った。ベッドに座り、今日のことを振り返る。


 作戦は、半分成功で半分失敗だった。偽情報は渡せたが、相手は警戒している。次の接触が、より困難になるだろう。


「私は、本当に正しい選択をしたのだろうか?」


 自己嫌悪が、心の奥底から湧き上がってきた。もっと良い方法があったかもしれない。もっと慎重に、もっと賢く。


 でも、侯爵様の言葉を思い出した。「よく頑張った」「君を守る」。


 侯爵様がいてくれて良かった。あの人がいなければ、私は耐えられなかっただろう。


「侯爵様...」


 私は枕に顔を埋めた。その顔が、頭から離れない。紫色の瞳、優しい笑顔、そして温かい抱擁。


 私の心は、どんどん侯爵様に引かれていく。それが、嬉しくて、そして少し怖かった。


 窓の外では、夜が静かに更けていた。

**次回予告**


作戦は半分成功、半分失敗。自分を責めるエリアナを、侯爵様が優しく抱きしめる。「君を守る」というその言葉が、深く胸に響く。涙を流した夜の後、エリアナは立ち直りへの一歩を踏み出す——。


第70話: 立て直し。

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