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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第III部: 試練と葛藤

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第68話: 自分の判断

 夕方、書斎に私たち四人が集まった。侯爵様、フィリップスさん、マーガレットさん、そして私。


 机の上には、フィリップスさんが作成した偽の魔法陣図が広げられている。精巧な作りで、一見すると本物と見分けがつかない。羊皮紙の質感、インクの濃淡、すべてが本物そっくりだ。


「よくできているわ」


 マーガレットさんが感心した声を上げた。彼女は魔法に詳しくないが、それでも丁寧な仕事ぶりは分かるようだ。


「でも、これで本当に騙せるのかしら?」


「完全に騙すことは難しい」


 フィリップスさんが答えた。


「でも、少なくとも数日は時間を稼げるはずだ」


 私は偽の魔法陣図を手に取り、細部を確認した。魔法陣の一部は本物だが、肝心な部分は意図的に間違えてある。前世でプログラムのバグを仕込む時のような感覚だ。


「私から提案があります」


 全員の視線が私に集まった。


「偽の情報を渡すだけでなく、相手の反応を観察します。どこに興味を持つか、どんな質問をするか。それで、敵の知識レベルが分かるかもしれません」


 侯爵様が頷いた。


「なるほど。情報を渡すだけでなく、情報を得る機会でもあるわけだ」


「その通りです」


 私は自信を持って答えた。


---


 侯爵様が椅子から立ち上がった。


「エリアナ」


 侯爵様は私の目を真っ直ぐ見つめた。


「本当に、これでいいのか?」


 その声には、まだ不安が残っている。


「危険すぎる。君が狙われる可能性がある」


「侯爵様」


 私も立ち上がり、侯爵様と向き合った。


「私は、もう子供ではありません」


 侯爵様の瞳が揺れた。その瞳の奥に、驚きと、そして何か別の感情が見えた気がした。


「前世で、私は多くの困難に直面しました。システム障害、プロジェクトの失敗、人間関係のトラブル」


 私は一つ一つ、指を折って数えた。


「そして、学んだんです。恐れていては、何も変わらないと。行動しなければ、何も始まらないと」


 侯爵様は黙って私を見つめている。


「私は、自分で判断します。自分で責任を取ります」


 長い沈黙の後、侯爵様はゆっくりと頷いた。


「...君を信じる」


 その言葉は、重く、温かかった。


「でも、何があっても君を守る。それだけは、約束させてくれ」


 侯爵様の真剣な眼差しに、私の胸が熱くなった。


「はい」


 私は小さく頷いた。


---


 フィリップスさんが偽の魔法陣図を丁寧に巻き、革の筒に収めた。


「これで準備は整った。あとは、いつ渡すかだ」


「明日の夜」


 私が答えた。


「脅迫状には、三日後が期限と書いてありました。明日なら、まだ余裕があると思わせることができます」


「賢明な判断だ」


 フィリップスさんが頷いた。


「では、渡す場所は?」


「王都の裏通り」


 侯爵様が地図を広げた。


「ここなら人目につかず、かつ逃げ道も確保できる」


 私たちは細部まで計画を詰めた。渡す時間、場所、万が一の時の退避ルート。すべてを想定して、準備を整える。


 マーガレットさんが護衛体制の強化を提案した。


「私も、剣の扱いには自信があります。エリアナ様の護衛をさせてください」


「マーガレットさん...」


 私は驚いた。優雅なマーガレットさんが、剣を?


「侯爵様家の使用人は、皆、護衛の訓練を受けています」


 マーガレットさんが微笑んだ。


「お嬢様を守るのは、私たちの務めです」


 温かい気持ちが胸に広がった。私は一人じゃない。みんなが、私を守ろうとしてくれている。


---


 会議が終わり、夕食の時間になった。マーガレットさんが用意した料理が、テーブルに並ぶ。


「さあ、召し上がれ」


 マーガレットさんが椅子を引いてくれた。


 温かいスープが湯気を立てている。野菜と鶏肉の優しい香りが、鼻をくすぐる。ニンジン、玉ねぎ、セロリ。丁寧に煮込まれた野菜が、柔らかく煮えている。


「いただきます」


 私はスプーンを手に取り、スープを一口飲んだ。柔らかい味が口の中に広がる。塩加減が絶妙で、ハーブの香りがほのかに香る。温かさが体を包み、緊張が少しだけ和らいだ。


「美味しいです」


 マーガレットさんが嬉しそうに微笑んだ。


「エリアナ様の好きな味付けにしました」


 侯爵様とフィリップスさんも、静かに食事をしている。誰も多くを語らないが、空気は穏やかだった。


 四人でこうして食卓を囲むのは、初めてかもしれない。普段は侯爵様と二人、あるいは一人で食事をすることが多い。でも今日は、みんなが一緒だ。この温かさが、心地よい。


「みんながいれば大丈夫」


 私は心の中で呟いた。どんな困難が待っていても、一人じゃない。この人たちが、私を支えてくれる。侯爵様の優しい眼差し、フィリップスさんの頼もしい姿、マーガレットさんの温かい笑顔。みんなが、私の味方だ。


 窓の外では、夕日が沈み始めていた。オレンジ色の光が、部屋を優しく照らしている。


---


 食事を終えて、私は自分の部屋に戻った。机の前に座り、ことりを取り出す。


> 明日の作戦について、注意すべき点は?


【ことり】

*************

確率: 62%


相手の反応を慎重に観察してください。特に以下の点に注意が必要です。


1. 相手が魔法陣図をすぐに受け取るか、検証しようとするか

2. 追加の要求をしてくるか

3. あなた個人に興味を示すか


また、必ず退避ルートを確認し、危険を感じたらすぐに逃げてください。勇気と無謀は違います。

*************

[魔力: 140/150]


 確率62%。中程度の信頼性だが、貴重なアドバイスだ。


「勇気と無謀は違う、か」


 ことりの言葉が、胸に刺さった。私は勇敢でいたい。でも、無謀になってはいけない。


 ベッドに横になり、天井を見つめた。明日は、大きな一日になる。成功すれば、時間を稼げる。失敗すれば...


「大丈夫」


 私は自分に言い聞かせた。


「侯爵様が、フィリップスさんが、マーガレットさんが、みんながいる。私は一人じゃない」


 でも、心の奥底には、小さな不安が残っていた。


---


 夜、窓の外を見ると、星が輝いていた。


 侯爵様の言葉を思い出す。「君を信じる」。その言葉が、胸の中で温かく響いている。


 信じてくれている。侯爵様は、私の判断を信じてくれている。だから、私も自分を信じなければならない。


「明日、私は偽の情報を渡す」


 私は窓に手を当てた。冷たいガラスの感触が、手のひらに伝わる。


「そして、敵の正体を探る。この作戦を、必ず成功させる」


 決意を新たに、私はベッドに戻った。明日に備えて、しっかり休まなければならない。


 目を閉じると、侯爵様の顔が浮かんだ。紫色の瞳、優しい笑顔、そして真剣な表情。


「侯爵様...」


 私の心臓が、少しだけ早く鳴った。この想いは、何だろう。信頼? それとも、もっと別の何か?


 考えるのをやめて、私は眠りについた。明日のために、体を休めなければならない。


 窓の外では、月が静かに輝いていた。

**次回予告**


作戦実行の日。偽の情報を渡すエリアナだが、使者は疑いの目を向けてくる。緊張の駆け引きの末、相手は「本物を見せろ」と要求する。半分成功、半分失敗——複雑な結果に、エリアナは揺れる。


第69話: 作戦実行。

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