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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第III部: 試練と葛藤

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第67話: 選択の悩み

 書斎に入ると、侯爵様だけでなくフィリップスさんもいた。彼は窓際に立ち、腕を組んでいる。二人とも、私を待っていたのだろう。


「おはようございます」


 私が挨拶すると、フィリップスさんが頷いた。


「おはよう、エリアナ。侯爵様から話は聞いた」


 彼の声は普段より低く、緊張が伝わってくる。


「状況は良くない。だが、諦めるわけにはいかない」


 侯爵様が机の上の手紙を指した。


「私は、完全に拒否する。戦う準備をする」


 侯爵様の声には、強い決意が込められていた。紫色の瞳が、揺るぎない意志を示している。


「屋敷の防御を強化し、敵の襲撃に備える。エリアナ、君は安全な場所に避難してもらう」


「侯爵様」


 私は首を横に振った。


「私だけ逃げるわけにはいきません」


「しかし...」


「私も、一緒に戦います」


 侯爵様は言葉を失った。そしてゆっくりと、深いため息をついた。


---


 フィリップスさんが口を開いた。


「侯爵様、まずは防御魔法の強化から始めましょう。屋敷全体に結界を張り、侵入者を検知できるようにします」


「それだけでは足りない」


 侯爵様が反論した。その声には、まだ怒りが残っている。


「敵は組織だ。数も多いだろう。受け身だけでは、いずれ押し切られる」


「では、先制攻撃をするのですか?」


 フィリップスさんの問いに、侯爵様は黙った。窓の外を見つめ、何かを考えている。朝日が侯爵様の紫色の瞳を照らし、宝石のように輝かせていた。


 私は二人のやり取りを聞きながら、考えていた。戦うか、逃げるか。どちらも正しい選択肢に思える。でも、他に道はないのだろうか?


 私は机に近づき、ことりを取り出した。


> 協力を装い、時間稼ぎをする方法はありますか?


【ことり】

*************

確率: 55%


短期的には有効な戦略です。偽の情報を提供し、その間に敵の本拠地や意図を探ることができます。


ただし、リスクも高いです。偽情報が見破られた場合、より強硬な手段に出る可能性があります。


慎重な計画と実行が必要です。

*************

[魔力: 140/150]


 確率55%。ギリギリの数値だが、可能性はある。


「侯爵様、フィリップスさん」


 私は二人を見た。


「別の選択肢があります。協力するふりをして、時間を稼ぐのです」


 侯爵様の顔が険しくなった。


「敵に協力するなど...」


「ふりです」


 私は強く言った。


「偽の情報を渡して、その間に敵の正体を探る。ことりも、短期的には有効だと言っています」


 フィリップスさんが興味深そうに私を見た。


「なるほど。情報戦か」


「しかし危険だ」


 侯爵様が声を荒らげた。


「エリアナ、君が狙われる可能性がある」


「私なら大丈夫です」


 私は侯爵様を見つめた。


「前世で、私はシステムエンジニアでした。トラブル対応は得意です」


 侯爵様の瞳が揺れた。


---


 長い沈黙が続いた。侯爵様は窓の外を見つめ、何かを考えている。フィリップスさんは腕を組んだまま、侯爵様を見守っている。


 私は自分の提案が正しいのか、自信が持てなかった。でも、戦うだけが選択肢ではない。策略を使えば、もっと良い結果が得られるかもしれない。


「どちらも正しいのに...」


 私は小さく呟いた。侯爵様の強硬姿勢も、ことりの戦略的提案も、どちらも一理ある。でも、どちらを選ぶべきなのか。私は自分の判断に自信が持てなかった。


 書斎の窓から、朝日が差し込んでいる。光と影が、床に幾何学的な模様を描いている。時計の針が、静かに時を刻む音が聞こえた。


 私は板挟みになっていた。侯爵様を説得すべきか、それとも侯爵様の意見に従うべきか。


「エリアナ」


 侯爵様がゆっくりと振り向いた。


「少し、二人で話せるか?」


 フィリップスさんが頷き、部屋を出て行った。扉が静かに閉まる音がした。


---


 侯爵様は私の手を取った。その手は大きく、温かかった。


「庭園に行こう」


 私たちは屋敷を出て、庭園へ向かった。朝の空気は冷たく、頬を撫でる風が心地よい。鳥のさえずりが聞こえる。


 ベンチに座ると、侯爵様は私の手を握ったまま、空を見上げた。


「エリアナ、君の判断を尊重する」


 侯爵様の声は優しかった。


「君は賢い。前世の経験もある。私よりも、冷静に状況を見ることができる」


「侯爵様...」


「でも」


 侯爵様は私を見つめた。


「君を危険に晒してほしくない。それだけは、譲れない」


 その瞳には、深い想いが込められていた。保護欲だけではない。もっと深い、何か別の感情が見える気がした。


「侯爵様」


 私は侯爵様の手を握り返した。


「一緒に考えましょう。私一人の判断ではなく、二人で」


 侯爵様の手が、わずかに震えていた。


「...ありがとう」


 侯爵様が小さく微笑んだ。その笑顔に、私の胸が少しだけ温かくなった。


---


 ベンチに並んで座り、私たちは庭園を眺めた。初夏の風が頬を撫でる。木々の葉が揺れ、さらさらと音を立てる。遠くで鳥が鳴いている。青い空に、白い雲が流れていく。


 侯爵様の隣にいると、不思議と安心する。危険な状況なのに、この人がいれば大丈夫だと思える。侯爵様の体温が、わずかに私に伝わってくる。その温もりが、心を落ち着かせてくれる。


「エリアナ」


 侯爵様が静かに言った。


「君が来てから、この屋敷は明るくなった」


「侯爵様」


「いや、本当だ」


 侯爵様は空を見上げた。


「君がいてくれて、私は...」


 侯爵様は言葉を切った。何を言いかけたのだろう。でも、それ以上は聞けなかった。


 風が優しく吹き、私の髪を揺らした。侯爵様の横顔が、朝日に照らされて輝いている。整った顔立ち、紫色の瞳、どこか憂いを帯びた表情。普段は威厳に満ちた侯爵様が、今は少しだけ弱さを見せている気がした。


 私の心臓が、少しだけ早く鳴った。この感情は、何だろう。尊敬? それとも、もっと別の何か?


---


 しばらくして、私たちは書斎に戻った。フィリップスさんが待っていた。


「決まったか?」


 侯爵様が頷いた。


「エリアナの提案を試す。偽の情報を渡して、時間を稼ぐ」


 フィリップスさんが驚いた顔をした。


「本当にいいのか?」


「ああ」


 侯爵様は私を見た。


「エリアナを信じる」


 その言葉に、私の胸が熱くなった。信じてくれている。侯爵様は、私の判断を信じてくれている。


「ありがとうございます」


 私は深く頭を下げた。


「必ず、成功させます」


 フィリップスさんが腕を組んだ。


「では、具体的な計画を立てよう。偽の情報をどう作るか、どうやって渡すか」


 私たちは机を囲み、作戦会議を始めた。


---


 数時間後、私たちは大まかな計画をまとめた。フィリップスさんが偽の魔法陣図を作成し、私がそれを結社の使者に渡す。その間に、フィリップスさんと侯爵様が敵の本拠地を探る。


「危険だが、やる価値はある」


 フィリップスさんが言った。


「エリアナ、くれぐれも注意してくれ」


「はい」


 私は頷いた。不安はあるが、これが最善の方法だと信じている。


「では、準備を始めよう」


 侯爵様が立ち上がった。


「時間がない。三日後までに、すべてを整える」


 私たちは動き出した。


 でも、私の心の中には、まだ小さな疑問が残っていた。本当にこれでいいのだろうか? 他に、もっと良い方法はないのだろうか?


「第三の道...」


 私は小さく呟いた。戦うでもなく、逃げるでもなく。もっと別の、誰も傷つかない道があるかもしれない。


 でも今は、目の前のことに集中しなければならない。私は深呼吸をして、準備に取りかかった。

**次回予告**


偽の情報を渡す作戦を決意したエリアナ。翌日、自分の判断に揺れながらも、仲間たちの支えを受けて準備を整える。侯爵様の「君を信じる」という言葉が、胸に響く——。


第68話: 自分の判断。

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