表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第III部: 試練と葛藤

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/83

第66話: 新たな脅威

 真夜中、誰かが私の肩を激しく揺さぶっていた。


「エリアナ様、起きてください。大変です」


 マーガレットさんの声だった。普段は落ち着いた彼女の声が、今は上ずっている。何かあったのだろうか。私は飛び起きた。


「何があったんですか?」


「侯爵様が、今すぐ書斎に来るようにと」


 マーガレットさんの顔は青ざめていた。ただ事ではない。私は急いで上着を羽織り、マーガレットさんの後を追った。


 廊下を駆ける間、胸の鼓動が激しくなる。窓の外はまだ暗い。時計を見る余裕もなかったが、おそらく朝の五時くらいだろう。こんな時間に呼び出されるなんて、何か重大な問題が起きたに違いない。


 石造りの廊下は冷たく、裸足で歩くとひやりとする感触が足裏から伝わってくる。マーガレットさんの足音が、静寂の中で響いている。私の心臓の音も、自分には大きく聞こえた。


---


 書斎の扉を開けると、暖炉の火だけが部屋を照らしていた。侯爵様は机の前に立ち、窓の外を見つめている。その背中は緊張で固まっていた。


「侯爵様」


 私が声をかけると、侯爵様はゆっくりと振り向いた。紫色の瞳が、暗闇の中で鋭く光っている。


「すまない、こんな時間に起こして」


 侯爵様の声は低く、普段の優しさが消えていた。


「だが、これを見てくれ」


 侯爵様は机の上にある手紙を指した。黒い封蝋が施された、見るからに不吉な手紙だった。私は恐る恐る手に取る。


 羊皮紙には、乱暴な文字で短い文章が綴られていた。


『魔法陣の秘密を公開するか、我々に協力するか。選べ。期限は三日後。』


 手紙を読み終えた瞬間、私の手が震えた。秘密結社からの脅迫だ。


「これは...」


「今夜、門の前に置かれていた。誰にも気づかれずにな」


 侯爵様の声が怒りで震えている。


「ふざけるな」


 侯爵様は手紙を握りつぶした。その手が、わずかに震えていた。普段は冷静な侯爵様が、こんなに感情を露わにするのは初めて見た。暖炉の火が、侯爵様の影を壁に大きく映し出している。


「君を、この屋敷を、危険に晒すわけにはいかない」


 侯爵様の紫色の瞳が、怒りと不安で揺れていた。


---


 私は深呼吸をして、冷静になろうと努めた。前世で、システム障害が起きた時のことを思い出す。緊急事態こそ、感情的にならずに対処しなければならない。


「侯爵様、まずは落ち着きましょう」


 私の言葉に、侯爵様は少し驚いたような顔をした。


「感情的になっても、解決策は見えません。冷静に、選択肢を考えましょう」


 侯爵様は一瞬、言葉を失った。そして、ゆっくりと頷いた。


「...君は、いつも冷静だな」


 侯爵様の声が、少しだけ穏やかになった。


「それが、助かる」


 侯爵様は椅子に座り、深くため息をついた。私も向かいの椅子に腰を下ろす。


「まず、情報を整理しましょう」


 私は前世のSEとしての経験を思い出していた。システム障害が起きた時、最初にすべきことは情報の整理だ。感情に流されず、事実を把握する。落ち着いて、論理的に。それが、問題解決の第一歩だ。


「敵は魔法陣の秘密を知りたがっている。でも、本当にすべてを知っているのでしょうか?」


 私の言葉に、侯爵様が考え込む表情を見せた。


 侯爵様が顔を上げた。


「どういうことだ?」


「もし敵がすべてを知っているなら、こんな脅迫は必要ありません。つまり、敵は情報の一部しか持っていない可能性があります」


 侯爵様の瞳に、希望の光が灯った。


---


 部屋に戻ると、私は机の引き出しから小さな水晶箱を取り出した。ことりだ。淡い青色の光が、箱の表面に浮かび上がる。


> 状況を分析してください。敵の真の意図は何でしょうか?


【ことり】

*************

確率: 65%


脅迫の内容から判断すると、敵は魔法陣の詳細を完全には把握していない可能性が高いです。


もし完全な情報を持っているなら、協力や公開を求める必要はありません。これはブラフの可能性もあります。


ただし、敵が部分的な情報を持っていることは確実です。慎重な対応が必要です。

*************

[魔力: 140/150]


 確率65%。中程度の信頼性だが、可能性は高い。つまり、敵は私たちほど詳しくないのかもしれない。


「ブラフ...そうか」


 私は小さく呟いた。前世で、ハッカーが企業を脅迫する手口を思い出す。彼らは完全な情報を持っていなくても、持っているかのように振る舞う。相手を怖がらせ、自分から情報を出させる。それが彼らの常套手段だった。


 机の上のことりが、淡い青色の光を放っている。この小さな水晶箱が、私の最大の味方だ。前世の知識と、この世界の魔法。二つを組み合わせれば、道が開けるかもしれない。


 ことりの分析を元に、次の手を考え始める。私たちには、まだ戦える余地があるかもしれない。


---


 ノックの音がして、マーガレットさんが入ってきた。


「エリアナ様、朝食の準備ができております」


 彼女は銀のトレイに、紅茶と軽食を載せていた。優しい花の香りが部屋に広がる。


「ありがとうございます」


 私は紅茶を一口飲んだ。温かい液体が喉を通り、心がほっと落ち着く。ローズヒップとカモミールのブレンドだろうか。甘い香りが鼻腔をくすぐる。


「落ち着いて、エリアナ様」


 マーガレットさんが優しく微笑んだ。


「侯爵様も、あなたも、一人ではありません。私たちが、ここにいます」


 彼女の言葉に、涙が出そうになった。そうだ、私は一人じゃない。侯爵様も、マーガレットさんも、フィリップスさんも、みんながいる。


 窓から朝日が差し込み始めた。部屋がゆっくりと明るくなっていく。新しい一日の始まりだ。カーテンの隙間から、金色の光が細く伸びている。


「はい、少し落ち着きました」


 私は紅茶を両手で包み、その温もりを感じた。陶器のカップが、ちょうどいい温度で手のひらを温めてくれる。ローズヒップの甘酸っぱい香りが鼻をくすぐり、カモミールの優しい香りが心を落ち着かせてくれる。


---


 朝食を終えて、私は再び書斎へ向かった。廊下を歩きながら、頭の中で考えをまとめる。


 侯爵様は怒っている。それは当然だ。私たちの安全が脅かされているのだから。


 でも、怒りだけでは解決しない。冷静に、戦略を立てなければならない。


「侯爵様と、フィリップスさんと、そしてことり...意見が分かれるかもしれない」


 私は小さく呟いた。侯爵様は戦いたがるだろう。フィリップスさんは慎重派だ。ことりは、確率と論理で判断する。


 そして私は...私はどう判断すべきなのか。


 書斎の扉の前に立ち、深呼吸をする。


「でも、私は正しい道を見つける。必ず」


 決意を胸に、私は扉をノックした。これから、大切な話し合いが始まる。私たちの未来がかかっている。


 侯爵様の「入れ」という声が聞こえた。私は扉を開け、一歩を踏み出した。

**次回予告**


脅迫を受けた侯爵様は戦いを選ぼうとする。しかし、フィリップスさんは慎重派。意見が分かれる中、エリアナが提案する第三の道とは——。


第67話: 選択の悩み。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ