第6話: 新たな訪問者
**次回予告**
侯爵の指導で本格的な魔法訓練が始まる。手を取って魔力の流れを教えてもらい、至近距離に心臓が高鳴るエリアナ。二人の距離が、少しずつ縮まっていく。
第7話「魔法の訓練」をお楽しみに!
図書室で本を読んでいると、馬車の音が聞こえた。
窓から外を見ると、立派な馬車が玄関前に停まっている。
「誰か来客...?」
ドアをノックする音。
「エリアナ様、客人がいらっしゃいました」
メイド長の声だ。
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エントランスホールに降りると、見知らぬ男性がいた。
30代後半くらい、明るい茶色の髪に穏やかな笑顔。学者のような雰囲気だ。
「おや、これはこれは。侯爵、新しいお弟子さんですか?」
その男性が、私を見て微笑む。
侯爵様が現れた。
「フィリップ、久しぶりだな。こちらはエリアナさん、私の指導を受けている魔法使いだ」
「初めまして。フィリップ・エヴァンスと申します。魔法技術の研究者です」
「エリアナ・フォレストです。よろしくお願いします」
フィリップさんは気さくな雰囲気で、緊張が少しほぐれる。
「可愛らしい魔法使いさんですね。魔法学院の出身?」
「はい、王都の魔法学院を卒業しました」
「優秀そうだ。侯爵の目に留まるとは、相当な才能をお持ちなんでしょうね」
褒められて、少し照れる。
侯爵様が「昼食にしましょう」と促す。
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ダイニングルームでの昼食は、いつもより賑やかだった。
「フィリップは古い友人でね。ルシアの研究仲間でもあった」
侯爵様の言葉に、私は反応する。
「ルシア様の...!」
「ええ、彼女は素晴らしい研究者でした。魔法とテクノロジーの融合という、革新的な分野を開拓していた」
フィリップさんが懐かしそうに語る。
「語り箱の技術も、彼女の研究から生まれたんです。意識の保存と転送...当時は夢物語だと思われていましたが」
「意識の保存...」
前世の知識が反応する。まるでバックアップシステムみたいだ。
「エリアナさんも興味がある?素晴らしい。もしよければ、一緒に研究してみませんか」
フィリップさんの提案に、心が躍る。
でも、その時。
「エリアナさんは私の指導下にあります」
侯爵様の声が、少し強い口調だった。
え?侯爵様が、こんな風に...?
「おっと、失礼。侯爵が大切に指導されているんですね」
フィリップさんは意味深な笑みを浮かべる。
侯爵様の表情は、いつもより硬い気がする。
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午後、侯爵様の書斎兼研究室で、フィリップさんが持参した資料を見せてもらった。
古代魔法の文献、魔法陣の設計図、意識の保存に関する理論...
驚きと好奇心で胸が高鳴り、ふとこの一節について確かめたくなった。資料を前にして、ことりに簡単に尋ねてみる。
【ことり】
*************
こんにちは、エリアナ様。何を調べましょうか?
*************
[魔力: 55/55]
> この図面の注記にある「記憶のループ」の意味を教えてください。
少しの間、ことりが考えるように光を揺らす。
【ことり】
*************
確率: 68%
「記憶のループ」は、記憶の同一性を保持しながら情報を循環させるための構造です。異なる時間軸の情報を統合する役割を持ちます。
*************
[魔力: 45/55] (-10)
説明は簡潔ながら有用だった。これで資料を読み解く手助けになるはずだ。
「これは...すごいです」
「でしょう?エリアナさんのような若い魔法使いに、これらの知識を継承したいんです」
フィリップさんの言葉に、侯爵様が割って入る。
「彼女の教育は私が責任を持っています」
何だか、いつもと違う侯爵様だ。
フィリップさんは愉快そうに笑っている。
何か、おかしな雰囲気...?
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フィリップさんが帰った後、侯爵様が私をお茶に誘ってくれた。
庭園のガゼボで、二人きり。
その席で、侯爵様はふと私の表情を見て、『よければ、簡単な運動を一つ教えようか』と控えめに言った。
私は頷き、侯爵の動きを真似る。指先のリズムに合わせて呼吸を整えると、体内にじんわりとした消耗が伝わってきた。
練習を終え、表示を見ると小さくこう出ていた。[魔力: 35/55] (-10)
侯爵様は満足げに微笑み、紅茶を一杯進めてくれた。二人は穏やかにお茶を飲み交わし、庭園の時間はあっという間に過ぎていった。
説明は簡潔ながら有用だった。これで資料を読み解く手助けになるはずだ。
「先ほどは、強く言いすぎました。申し訳ありません」
侯爵様が、珍しく謝罪する。
「いえ、大丈夫です」
「フィリップは良い研究者ですが...」
言葉を選んでいるようだ。
「あなたには、この屋敷で安心して学んでほしい。焦らず、ゆっくりと」
侯爵様が自ら淹れてくれた紅茶。私の好みを覚えていてくれたみたいだ。
「ありがとうございます」
庭園の花々が美しい。穏やかな時間だ。
夕日に照らされた侯爵様の横顔が、とても美しく見える。
「侯爵様といると...安心します」
思わず本音が出る。
侯爵様は少し驚いた表情の後、優しく微笑んだ。
「私も...あなたといる時間は心地よい」
その言葉に、胸が温かくなる。
この人は、本当に特別な人なのかもしれない。
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夜、部屋に戻って今日の出来事を振り返る。
フィリップさんは面白い人だった。でも、侯爵様の反応が気になる。
いつもより、強い口調だった。
ことりを起動する。
【ことり】
*************
今日はどうでしたか?
*************
[魔力: 35/55]
> 侯爵様が、今日はいつもと違う態度でした。なぜだと思いますか?
【ことり】
*************
確率: 45%
不確定要素が多く、推測は困難です。人間の感情は複雑で、多くの要因が関係します。
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[魔力: 25/55] (-10)
ことりらしい答えだ。確かに、わからないことは多い。
でも、侯爵様が私に対して...何か特別な感情を持っているのかもしれない。
「いや、そんなはずない。考えすぎだ」
自分に言い聞かせる。
窓の外を見ると、西棟の一室に灯りが見える。
まだ、この屋敷には知らないことがたくさんある。
フィリップさんの言っていた「意識の保存」。
ことりと、どう関係しているんだろう。
明日も、たくさんのことを学ぼう。
ベッドに入り、目を閉じる。
今日も良い一日だった。
そして、少しだけドキドキする一日だった。




