第51話: 禁断の部屋
西棟の廊下を進むたび、私の心臓はどんどん高鳴っていった。侯爵様、セレスティアさん、フィリップスさんと共に、私は屋敷の最奥へと足を踏み入れる。
「ここは……」
侯爵様が立ち止まり、重い扉の前で静かに息を吐いた。その横顔には、普段見せないほどの緊張と、どこか懐かしさが滲んでいる。
セレスティアさんが封印の魔法陣を慎重に解除し、扉がゆっくりと開かれる。中からは、長い間誰も入っていなかった空気と、淡い花の香りが漂ってきた。
「……ルシアさんの部屋だ」
侯爵様の声は、かすかに震えていた。
私は思わず息を呑む。部屋の中は、時間が止まったかのように整然としていて、窓辺には色褪せたカーテン、机の上には古い本や小物が並んでいる。
「失礼します」
私は小さく呟き、そっと一歩を踏み出した。足元の床がきしむ音さえ、場違いに思えるほど静かな空間。
フィリップスさんが壁際の棚を調べ始め、セレスティアさんは魔力の痕跡を探るように目を閉じている。
侯爵様は部屋の中央で立ち尽くし、ゆっくりと周囲を見渡していた。その瞳には、深い哀しみと、消えない想いが宿っているようだった。
私は胸の奥に、言葉にできない緊張と期待を抱えながら、ルシアさんの痕跡を探し始めた。
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部屋の奥、古びた机の引き出しに手を伸ばすと、かすかな抵抗の後、静かに開いた。
私はそっと日記帳を引き出しから取り出した。革の表紙は手にしっとりと馴染み、時の重みを静かに伝えてくる。
「これ……ルシアさんのものだ」
私が差し出すと、侯爵様が両手で受け取り、そっとページをめくる。その指先が震えているのが、私にも伝わってきた。
セレスティアさんが日記帳に手をかざし、目を細める。
「魔力の痕跡が強いわ。特にこの日記帳……」
セレスティアさんが真剣な表情で報告する。
「……魔力の流れを視る魔法を使います。少し時間をください」
侯爵様が静かにうなずき、日記帳を私に戻す。
私は両手を重ね、儀式的な詠唱を始めた。空気がわずかに震え、青白い光が日記帳を包み込む。
[魔力: 50/113] (-40)
意識を集中すると、日記帳の奥底から複雑な魔法陣の痕跡が浮かび上がる。まるで誰かの強い想いが、今もそこに残っているかのようだった。
「……見えました。日記の中に、隠された魔法陣の設計図があります」
私はそっと報告し、日記帳を侯爵様に手渡す。
侯爵様は私の隣に歩み寄り、日記帳を見つめたまま、かすかに唇を震わせた。
「ルシアは……本当に僕を守ろうとしていたんだな」
その声には、深い愛情と、拭いきれない哀しみが滲んでいた。
侯爵様は日記帳を胸に抱き、静かに涙を流していた。その横顔は、普段の威厳とは違う、ひとりの人間としての弱さと優しさを見せていた。
私はそっと侯爵様の手に触れた。彼の手は少し冷たく、けれど確かに温もりがあった。
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フィリップスさんが壁際の棚を調べていると、小さな箱を見つけた。
「これは……指輪のようだ」
フィリップスさんが指輪を手に取り、光にかざす。
「細工が精巧だ。魔法的な仕掛けがあるかもしれない」
セレスティアさんが指輪にも注意を向け、魔力の痕跡を探るように目を閉じる。
「こちらの指輪にも、微かな魔力が残っているわ」
私は指輪をそっと受け取り、表面の模様を観察した。繊細な彫刻が施されていて、どこかルシアさんの面影を感じさせる。
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夕暮れ時、私たちは食堂に集まった。長い調査の後の食卓は、どこかほっとする温かさに包まれている。
「今日は本当にお疲れさまでした」
セレスティアさんが優しく声をかけ、フィリップスさんが「温かいスープが沁みるな」と微笑む。
侯爵様は私の隣に座り、静かに「今日はありがとう」と囁いた。その声は、どこか柔らかく、私の胸にじんわりと広がる。
私はスプーンを手に取り、湯気の立つスープを口に運ぶ。優しい香りと味が、心の奥まで染み渡っていく。
「遺品の魔力は、まだ残っています。慎重に調べましょう」
セレスティアさんが真剣な表情で報告する。
「はい。無理はしません」
私は微笑み返し、そっと息を吐いた。
食卓を囲むこのひとときが、どれほど大切かを改めて感じる。みんなの笑顔と温もりが、私の心を静かに癒してくれた。
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夜、自室のベッドに横たわりながら、私は今日の出来事を静かに振り返っていた。
ルシアさんの想い、侯爵様の涙、そして日記に隠された魔法陣——すべてが胸の奥で渦を巻いている。
「……ルシアさんの想いを、必ず解き明かす」
私は小さく誓い、枕元にそっと語り箱を置いた。ことりは淡く青く光っているが、今は相談をしない。
静かな夜に、私は目を閉じた。月明かりが静かに部屋を照らし、明日への決意が心に満ちていく。
**次回予告**
日記に隠された魔法陣の謎と、ルシアの想いを追う新たな調査が始まる。エリアナと仲間たちの絆が、さらなる真実へと導く――第52話「ルシアの想い」をお楽しみに!




