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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第II部: 調査と成長

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第41話: 競争

中庭の石畳は昼の陽を反射して眩しく、訓練用の吹き抜けには前日の魔法の残り香が微かに漂っていた。鉄の匂いと、遠くで準備をする給仕たちの紅茶の湯気が混じり合い、空気はいつになく張りつめている。


セレスティアがにこりと笑い、挑発するように言った。

「あなたの魔法、どこまで通用するのか見てみたい」


ざわつく声、誰かの吐息、侯爵の細い眉の動き。リリアは両手を握りしめ、声援の準備をしている。私は胸の奥で戸惑いと期待がぶつかり合うのを感じた。


――受ける、と私は静かに呟いた。


心拍が高鳴り、掌のひんやりとした汗を感じる。

相手は学院でも評判の優等生だ。彼女の腕先から冷気が立ち上り、小さな結晶が指先で纏められていく。氷の槍はまるで刃物のように形を取り、光を受けて鋭く輝いた。


一瞬、身体が凍るように思えた。だが私は学んだ理屈をひとつずつ確かめる。氷が生む密度差、結晶の結び付き方、周囲の微かな風の流れ。結晶が砕けるときの高い金属的な音まで、頭の中に積み上がる。

私は詠唱より早く、掌の力の入れ方を変えた。結晶の結び目を崩し、形を散らし、気配を薄めていく。氷は鋭い槍から淡い霧へと変化し、冷気は肌をなでるように立ち上った。

見学者たちの息が一斉に止まるのが分かる。セレスティアの眉がぴくりと動き、口元に微かな笑みが広がった。

「面白い」

その一言は私の胸の緊張をふっと和らげた。誰かが私の思考を理解していると知ることが、こんなにも励みになるとは思わなかった。


【ことり】

*************

確率: 82%

「セレスティアの氷魔法は高密度の結晶を作りやすく、冷気の位相に強みがあります。弱点としては、位相が乱れると結晶の軌道が不安定になる点が挙げられます。風の干渉で軌道を乱す戦術が有効です。」

*************

[魔力: 71/110(消費: 10)]


耳元でことりの声が静かに響く。情報は的確で、私は次の一手を考える余裕を得た。目の端で侯爵がこちらを見ている。彼の瞳は心配そうでありながら、どこか誇らしげだった。


対決はたちまち激しさを増す。セレスティアは連続詠唱で氷壁と風刃を織り交ぜ、空気に切り裂くような風圧の波を作り出した。風のうねりが肌を撫で、砂埃が舞い上がる。

私は風の流れを読み、氷壁の反射を逆手に取る。氷と風の相互作用を利用して相手の風刃を狂わせ、軌道を逸らす。攻防が一瞬で一体化する感覚――それが私の得意とするやり方だった。


セレスティアが一度息を吐く。

「あなた、ただの転生者じゃないわね」

その言葉には揶揄の余地がなく、むしろ尊敬が含まれていて、胸がじんと熱くなる。


終盤、彼女は最後の技、氷の結晶弾幕を放った。空に散った結晶は太陽を受けて小さな星のように瞬き、圧の波は足元の感覚を消し去る。

ことりが淡く警告を発した。「魔力残量、注意」――その文字が視界の片隅に浮かび、瞬時に取るべき手段を切り替える。

(ここで私の魔力は減っている。使える量を計算して――)


私は二段構えの策を選んだ。まず霧を使った幻影で視界を歪め、結晶の軌道を錯覚させる。次いで小さな防御結界を展開し、直接の衝撃を吸収する。

幻影が弾幕を別の方角へ流すように見せる間に、結界が衝撃を削り取る。魔法を二度使った瞬間、身体の奥に疲労が波打ち、呼吸が浅くなるのを感じた。


結果は引き分けだった。終わった瞬間、セレスティアが近づき、汗ばんだ掌で私の手を包んだ。

「あなたとなら、もっと高みを目指せる」

その手は温かく、言葉は刃のように鋭く、それでいて確かな励ましだった。私は手を握り返し、笑みを返す。侯爵は肩の力を抜いて小さく安堵の息を漏らし、リリアは嬉し涙をこぼした。


夕方、皆でサロンに移ると紅茶の湯気が室内を柔らかく満たしていた。セレスティアは侯爵に向かい、小さく提案する。

「次は共同で実験をしてみませんか。互いの理論を合わせれば、面白い結果が出るはずです」

侯爵の瞳が開き、柔らかな声で答えた。

「ぜひ頼む。あなたの観点は我々にも新しい示唆をくれる」

そのやり取りを聞いて、私は胸のどこかが温かくなるのを感じた。リリアが私に駆け寄り、満面の笑みで抱きつく。


私はことりに小さく訊ねた。「私、少しは成長できたかな?」


【ことり】

*************

確率: 70%

「あなたは確実に強くなっています。今後も継続して訓練すれば、さらに安定した制御が期待できます。」

*************

[魔力: 26/110(消費: 10)]

その声は穏やかで、でも確信に満ちていた。私は肩の力が抜け、心地よい安堵が胸に広がるのを感じた。


夜、ベッドに横たわりながら今日の出来事を反芻する。握った手の感触、空に散った氷の煌めき、セレスティアの真剣な眼差し。

嬉しさの裏に、不安が一片残る。

「半年の猶予……研究期限は短い。果たして鍵を見つけられるのだろうか」

思わずそう呟くと、ことりが優しく返した。「大丈夫、あなたならできます」

月明かりが窓から差し込み、私の瞼を柔らかく照らした。今日、私は確かに一つ先へ進んだ。だが道のりはまだ長い。明日はまた、新しい自分に出会う日だ。私は深呼吸して目を閉じ、小さな決意を胸に刻んだ。

**次回予告**

新たな協力関係が生まれる中、研究の進展とともに新たな課題が浮上する。セレスティアとの絆が深まる一方で、外部からの圧力が二人を試す――


第42話「友情の芽生え」をお楽しみに!

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