第3話: 最初の謎
図書室であの日記を見つけてから、頭の中が落ち着かない。
暗号のような文字、「禁断の研究」という言葉、メイド長の不自然な反応。すべてが謎めいていて、早く解読したい気持ちでいっぱいだ。
でも、まずは夕食。侯爵様との時間を大切にしなくては。
---
夕食は侯爵様と一緒だった。
「エリアナさん、屋敷には慣れましたか?」
侯爵様が優しい口調で聞いてくる。
「はい、メイド長に案内していただきました。図書室が素晴らしいです」
「気に入ってもらえて嬉しい。あそこの本は自由に読んでいいですよ」
食事は上品で美味しい。温かいスープ、柔らかい肉料理、焼きたてのパン。
テーブル越しに侯爵様を見る。
不思議なほど若々しい。魔法学院で習ったことでは、魔法使いは一般の人より老化が遅いと聞いたけれど...侯爵様は本当に若く見える。
45歳のはずなのに、30歳くらいにしか見えない。
肌に皺がほとんどなく、髪も艶やか。
(魔法使いって、こんなに若く見えるものなのかな)
「何か困ったことがあれば、遠慮なく言ってください」
侯爵様の言葉は、本当に私のことを気にかけてくれているように聞こえる。でも、同時に何か隠しているような...そんな印象も受ける。
食事を終え、書斎へ向かう侯爵様を見送る。その途中、廊下に飾られた美しい女性の肖像画の前で、侯爵様が一瞬立ち止まった。
その横顔に、複雑な表情が浮かんでいる。
誰の絵だろう?聞きたいけれど、今は聞くタイミングじゃない気がする。
---
部屋に戻り、ベッドに座る。
さっき図書室で見つけた日記のことが頭から離れない。あの暗号化された文章、メイド長の反応...すべてが気になる。
「今夜、あれを解読しよう」
決意して、もう一度図書室へ向かうことにした。夜の屋敷は静かで、足音だけが廊下に響く。
図書室の扉を開ける。魔法の灯りを灯すと、本棚の影が揺れる。
奥の棚へ急ぐ。日記は、さっきと同じ場所にあった。
革装丁の重い本を取り出し、テーブルに戻る。
ページを開くと、几帳面な筆跡の文章が現れる。
でも、読んでいくうちに気づいた。一部が暗号化されている。
「これは...」
普通の日記じゃない。意図的に隠されている情報がある。
文字の配列、記号の使い方...前世で見たことがあるような、でも違うような。
「解読しないと」
私は前世の経験を思い出す。論理的に考えよう。パターンを見つけるんだ。
文字を並べ替えてみる。繰り返し出てくる記号に注目する。
でも、なかなか進まない。
「ことりに聞いてみよう」
語り箱を取り出す。
【ことり】
*************
こんばんは、エリアナ様。深夜のご相談ですね。
*************
[魔力: 42/50]
> 古代魔法文字を使った暗号を解読したいです。文章は日記形式で、一部の単語が記号に置き換えられています。具体的には、このような記号が使われています...
前世の経験を活かして、できるだけ具体的に状況を説明する。記号の特徴、出現パターン、文脈...情報を整理して提供する。
すると、ことりの反応が早い。
【ことり】
*************
確率: 78%
それは古代魔法文字の変形です。基本的な置換暗号ですが、魔力の性質を表す記号が混ざっています。
月の記号は「隠された」、星の記号は「力」、波の記号は「流れ」を意味します。
*************
[魔力: 32/50] (-10)
「なるほど!」
ことりのヒントを元に、もう一度文章を見る。
記号を対応する言葉に置き換えていくと、少しずつ意味が見えてくる。
「月の記号が『隠された』...星が『力』...」
私の論理的思考と、ことりの助言が組み合わさる。前世で培った分析力が、ここで役立っている。
パターンが見えてきた。規則性がある。
「これだ!」
ついに、暗号の一部を解読できた。
「地下書庫 東の壁 三つの月の紋章」
心臓が高鳴る。地下書庫?三つの月の紋章?
次の行も解読する。
「記憶の器 意識の保存 禁断の実験」
そして、最後のページ。
署名があった。
「ルシア・ヴァンヘルシング」
侯爵様と同じ姓。親族だろうか?
「前世の経験とことりの助言...この組み合わせは本当に強力だ」
解読できた喜びと、新しい謎への好奇心が混ざり合う。
でも同時に、疲労感も感じる。魔力を使いすぎたかもしれない。
---
机の上に、何か置いてあることに気づいた。
手紙だ。見覚えのある筆跡。
「リリアからだ!」
親友のリリアからの手紙。懐かしさが込み上げる。
封を開けて読む。
『エリアナへ
元気にしてる?侯爵様の屋敷での生活はどう?
王都はいつも通り賑やかよ。でも、あなたがいないとなんだか寂しい。
魔法学院の友達も、あなたのことを聞いてくる。「エリアナは今頃、すごい研究をしてるんだろうね」って。
時々、お茶でも飲みながらおしゃべりしたいな。手紙でも書いてね。
体に気をつけて。
リリア』
温かい言葉に、胸がじんとする。
リリアは本当に良い友達だ。王都での生活が懐かしい。
少しホームシックになる。でも、ここでの生活も悪くない。むしろ、初めて自分が必要とされている気がする。
「リリアにも、いつか返事を書こう」
手紙を大切にしまう。
---
ベッドに横になろうとした時、何か音が聞こえた。
廊下から?いや、もっと遠くから。
西棟の方角だ。
足音のような、でも違うような...何かが動いている音。
ドアに近づき、そっと開ける。
廊下は静かで、誰もいない。
でも確かに、音がした。
「誰かいるのかな...」
メイド長?侯爵様?
いや、もっと別の誰か?
音は止んでいる。でも、不思議な気配は残っている。
「明日、もっと調べてみよう」
ベッドに戻り、毛布にくるまる。
たくさんのことがあった一日だった。地下書庫、ルシア・ヴァンヘルシング、三つの月の紋章...
そして、夜の音。
この屋敷には、まだまだ秘密がありそうだ。
でも不思議と怖くない。むしろ、ワクワクしている。
前世の知識と、ことりの助け。そして侯爵様の優しさ。
きっと、私はここで何か大切なことを見つけられる気がする。
目を閉じると、すぐに眠りに落ちた。
夢の中で、私は地下の大きな部屋にいた。そこには複雑な魔法陣が描かれていて...
**次回予告**
エリアナは地下書庫への入口を探し始める。そして、隠された通路を発見し、そこで目にしたものは...?侯爵の保護的な態度が、より明確になる。
第4話「隠された通路」をお楽しみに!
明日以降も7時、12時、21時の1日3回更新で完結(160話予定)まで走り抜けます!
ブックマーク、評価など頂けるととっても嬉しいです。




