第28話: 呪いの魔法陣構造の理解
侯爵様は、私を地下研究所ではなく書斎へ呼んだ。
いつもより窓が閉められていて、音が吸われるみたいに静かだった。
「エリアナさん。……話すべきことがあります」
胸が跳ねる。
言いかけて止まった“時期ではない”の続きかと思ってしまい、恥ずかしくて息が乱れた。
◇
侯爵様は机の引き出しから、一枚の古い羊皮紙を取り出した。
複雑に絡み合った線。幾重にも重なる円環。
「これは……呪いの魔法陣です」
「呪い……」
言葉の重さに、喉が乾く。
侯爵様は淡々と続けた。
「ルシアが死んだ夜、私はこの呪いを受けました」
「外見年齢が止まり、時間に縛られる」
私は息を呑んだ。
ずっと不思議だった。侯爵様の、年齢に似合わない静けさ。時々見える、長い孤独。
それが“時間の縛り”だったなんて。
◇
「呪いも魔法陣の一種です」
侯爵様が羊皮紙を指でなぞる。
「ただし、複雑な多層構造で……解除条件を隠すように組まれている」
私は前に身を乗り出した。
「この輪……回り続けています」
「ええ。魔力フローが同じ経路を巡る。終点がない」
無限ループ。
前世で、私は何度も見た。
条件式が抜けていたり、例外処理がなかったり、出口が塞がれていたり。
「それに、ここ」
私は重なった線の結節点を指した。
「互いに待ち合ってるみたい。……デッドロックに似てます」
侯爵様が驚いた顔をする。
「デッドロック」
「複数の処理が、互いの資源を待って止まる状態です。動かないのに、解けない」
「……なるほど」
侯爵様の目が、少しだけ光った。
「君の言葉は、呪いを“理解できる形”にしてくれる」
私は羊皮紙の上で、出口条件の場所を探す。
ループ脱出条件。
解除の鍵。
「必要なのは、出口です」
言い切った瞬間、胸の奥で何かが広がった。
◇
その夜、部屋に戻ると、ことりが淡く光った。
【ことり】
*************
確率: 78%
解析結果:呪い魔法陣は多層ループ構造。
脱出条件の探索が必要です。
進行に伴い、魔力上限が拡張されました。
[魔力上限: 100]
スキル成長:魔法陣解析Lv.3
*************
[魔力: 100/100]
私は画面――じゃない、箱の表面に浮かぶ文字を見つめた。
「……百?」
数字が信じられない。
この屋敷に来たばかりの頃、私は“足りない”ばかりだったのに。
でも、成長している実感がある。怖くても、学んできた。前世の知識も、この世界の魔法も、混ぜ合わせて。
私はペンダントを握りしめ、深く息を吸った。
「出口を見つけます」
それは、侯爵様の時間を動かすため。
**次回予告**
私は侯爵様の呪いを解くことを、はっきりと決意する。「あなたを救いたい」と告げたとき、侯爵様は驚き、そして優しく微笑む。ことりも協力を約束し、三者の絆が確かな形になる。
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第29話「決意と絆」もお楽しみに!




