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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第I部: 到着と発見

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第27話: ルシアの想いと研究

朝、書斎の空気はいつもより重かった。


机の上に置かれた日記の束。侯爵様は手袋を外し、紙の端に指を置く。


「読むのは、一部だけです」


「はい」


私は頷きながら、胸の奥がざわつくのを止められない。


ルシア。


この屋敷に残された影。その影を辿るほど、侯爵様の表情が痛む。



侯爵様がページを開き、静かに読み上げた。


『魔法陣は、意志を構造へ落とし込む器だ。構造は、いずれ“思考”をも写し取れる』


研究者の文章。けれど、行間に熱がある。


『失敗すれば、私が壊れる。それでも――彼を守りたい』


その一文で、胸がきゅっと縮んだ。


守りたい。


私も同じ言葉を、いつか侯爵様に向けて言うのだろうか。


――私が言うのは、許される?


そんな卑怯な思いが頭をよぎり、私は自分に腹が立った。


ルシアは命を懸けている。


私は、今ここにいて、守られている。



侯爵様の声が、少しだけ掠れた。


『彼は時間に縛られている。外見は止まり、日々だけが積もる。私は、その鎖をほどきたい』


私は息を呑んだ。


時間。


縛り。


言葉の意味はまだ分からないのに、確かに背中が寒くなる。


侯爵様はページを閉じ、しばらく目を伏せた。


「……ここまでにしましょう」


「侯爵様」


名前を呼ぶと、侯爵様は少しだけ笑った。


「君に、重いものを背負わせたくない」


「背負いたいわけじゃありません」


私は正直に言った。


「でも、知って、考えて……一緒に解きたい」


侯爵様の目が揺れる。


「……君は強い」


「強くなりたいんです」


それは、あなたの隣に立つため。



侯爵様は一度、窓の外へ視線を逃がしてから、静かに言った。


「ルシアは……研究の人でした。けれど、私のこととなると、不器用なくらい真っ直ぐだった」


不意に胸が痛む。


嫉妬という言葉で片付けたくない。尊敬と、羨ましさと、置いていかれる怖さが混ざっている。


「……私、ルシア様のこと、すごいと思います」


そう言うと、侯爵様の目がわずかに揺れた。


「君は、彼女を否定しないのですね」


「否定できません。私も……守りたいから」


言ってしまってから、頬が熱い。


侯爵様は何も言わず、机の上のカップを私の前へ寄せた。湯気の温度が、張り詰めた胸を少しだけほどく。


「今日は、ここまでにしましょう」


私は頷いた。怖いけど、無理に先へ進めば折れる。いま必要なのは、折れないための呼吸だ。



午後、私は図書室でルシアの研究記録を整理した。


意志×魔力×構造。


彼女も同じ骨格で世界を見ていた。私の前世の言葉に置き換えても、矛盾がない。


「先人の想いを、受け継ぐ」


口にすると、責任の重さが増す。でも同時に、道が一本見えた気がした。


夜、侯爵様と廊下ですれ違ったとき、私は言った。


「ルシア様の研究、無駄にしません」


侯爵様は足を止め、私を見た。


「……ありがとう」


その声は、少しだけ救われた人の声だった。

**次回予告**

侯爵様から、呪いの存在を正式に告げられる。呪いもまた魔法陣で、複雑な多層構造は“無限ループ”のように彼を縛っていた。脱出条件を見つけるため、私の解析は加速する――。


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おかげさまで多くの方に一気読みしていただけているようで、執筆の励みになります!第1部完結の30話まで、あと3話。ドキドキの展開を用意していますので、第28話「呪いの魔法陣構造の理解」もお楽しみに!

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