表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第III部完結】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第I部: 到着と発見

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/100

第25話: 告白の予感と躊躇

舞踏の練習のあとから、侯爵様の視線が少しだけ違って見える。


朝、窓から差し込む光が部屋の隅まで届き、私はぼんやりと昨日の余韻を思い出していた。舞踏会の練習で、侯爵様の手のぬくもり、リリーの応援、すべてが心の奥に残っている。


けれど、今朝の侯爵様はどこか遠い。食卓で目が合っても、すぐに視線を逸らされる。近いのに、遠い。


触れられそうなのに、触れられない。


私が勝手にそう感じているだけかもしれない。でも、心臓は正直だった。胸の奥がざわざわと波立ち、息が浅くなる。


廊下を歩くと、壁にかかった絵画やランプの灯りが、いつもより冷たく感じられる。リリーの声も今日は控えめで、私の不安を映しているようだった。


「大丈夫?」とリリーが小声で聞く。


「うん、たぶん」と答えながら、私は自分の気持ちを整理しようとする。


今日こそ、何かが変わる予感がしていた。


---


夕方、廊下で侯爵様と二人きりになった。


「エリアナさん」


呼ばれた声が、いつもより低い。


私は足を止めて振り向いた。


侯爵様は一歩近づき、何かを言いかけて――止まった。


口元がわずかに揺れる。視線が、私の胸元ではなく、もっと奥を見ている気がした。


廊下の空気がひんやりと冷たく、窓から差し込む夕陽が壁に長い影を落としている。侯爵様の声は、普段より低く、どこか迷いが滲んでいた。


「……侯爵様?」


私は不安と期待が入り混じった気持ちで問いかける。


「すみません。言うべきことがあるのに」


その言葉に、胸が締め付けられる。侯爵様の表情は苦しげで、目の奥に深い葛藤が見える。


「言うべきことって……」


私が問うと、侯爵様は首を振った。


「まだ時期ではない」


短い言葉。けれど、その表情は苦しげだった。ルシア様、呪い、屋敷の秘密――いろいろなものが、侯爵様の背中に乗っている。


私は息を整え、ゆっくり言った。


「待ちます」


侯爵様の目が、驚いたように大きくなる。夕陽がその瞳に反射して、揺れる光が映る。


「……待つ、と?」


「はい。侯爵様が言える時に。……その代わり、隣にいさせてください」


言い終えた瞬間、自分の頬が熱い。心臓が跳ね、手のひらがじんわりと汗ばんでいる。


侯爵様は目を伏せ、苦しさの中にほんの少しだけ安堵を混ぜた顔で頷いた。


「ありがとう」


その一言が、胸の奥で柔らかく響いた。私は、彼の想いと葛藤を受け止める覚悟を決めた。


その一言が、胸の奥で柔らかく響いた。


---


夜。テラスへ出ると、空が澄んで星が近い。


冷たい夜風が頬を撫で、星空が広がる。テラスの欄干に手を置くと、指先がひんやりとした石の感触を伝えてくる。


侯爵様も静かに隣へ来て、欄干に手を置いた。二人の距離は、昼間よりも近い。


「……君は、怖くないのですか」


侯爵様の声は低く、夜の静けさに溶けていく。


「怖いです」


即答すると、侯爵様が少しだけ笑った。唇の端がわずかに上がり、目の奥に優しさが滲む。


「正直ですね」


「でも、逃げたくない。……私、ここで学べて、守られて、居場所をもらってる」


言葉が途切れた。胸の奥がじんわりと熱くなる。


本当は、もっと単純な理由もある。あなたが好きだから。でも、それは今は胸の内側にしまう。


侯爵様の横顔が、星明かりに縁取られて切なげに見えた。頬のラインが淡い光に照らされ、影が揺れる。


私はそっと、自分の手を欄干の上に置く。指先が震えているのがわかる。


すると、侯爵様の指が近づき、触れるか触れないかの距離で止まった。迷い。ためらい。それでも、そこにいる。


夜風が二人の間を通り抜け、心臓の鼓動が静かに響く。


私は小さく笑って、言った。


「……いつか、触れてください」


その言葉は、勇気と願いの両方だった。侯爵様の喉が動き、やがて、ほんの少しだけ指先が重なった。


その温度が、泣きそうなくらい優しかった。星空の下、二人の距離がほんの少しだけ縮まる。


侯爵様の喉が動き、やがて、ほんの少しだけ指先が重なった。


その温度が、泣きそうなくらい優しかった。


---


部屋へ戻る前、客間の前でリリーに捕まった。


「どうだった?」


リリーは湯気の立つカップを手に持ち、私の顔をじっと見つめる。


「……だめ。言いかけて、止まった」


私は肩を落とし、カップの温かさに指先を沈める。


「ふふ。大丈夫。あなた、ちゃんと待てる顔してる」


リリーは優しく微笑み、私の肩を軽く叩く。


「そんな顔あるの?」


「ある。私が決めた」


二人でソファに座り、夜食の焼き菓子を分け合う。リリーは「待つのも勇気だよ」と言い、私は「怖いけど、信じてる」と答える。


窓の外には星空が広がり、部屋の中は静かで温かい。


「呪いが解けるまで、待つ。その先で、きっと何かが変わるよ」


リリーの言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。私は笑って、頷いた。


待つ。


呪いが解けるまで。

そして、その先で。


---


部屋に戻ると、窓の外には星空が広がっていた。私はベッドに腰掛け、今日の出来事を静かに振り返る。


侯爵様の苦しげな表情、リリーの励まし、そして自分の決意。


「待つ」という選択は、簡単なようで難しい。でも、私は信じている。いつか、すべてが解き明かされる日が来ることを。


ペンダントを手に取り、胸の奥で願う。「私は、変わりたい。もっと強く、もっと優しく」


未来への不安もあるけれど、今日の一歩がきっと次へつながる。


明日、西棟からまた物音がするかもしれない。侯爵様と一緒に調査することになるだろう。


私は深呼吸し、目を閉じる。心臓の鼓動が静かに響く。


「私は、待つ。信じて、進む」


そう願いながら、眠りにつく。

**次回予告**

再び西棟から物音がする。今度は侯爵様と共に調査し、奥の部屋でルシアの私物と日記の新たな断片を見つける。苦しげに読む侯爵様を、私は見守るしかなくて――。


第26話「西棟の声」をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ