第22話: 母の形見の秘密
ペンダントは、胸元でいつも小さく揺れている。
母の形見。私がこの屋敷に来るまで、ただの“お守り”だと思っていた。
でも、侯爵様が視線を止めるたび、あれはきっと――ただの装飾品じゃない。
◇
午後、書斎へ呼ばれた。
机の上には資料と、薄い革の手袋。侯爵様は窓際に立ち、私が入るとすぐに振り向いた。
「エリアナさん。ひとつ、確認させてください」
「はい」
侯爵様の目が、私の胸元へ落ちる。
「それは……いつから持っているのですか」
私はペンダントを指で摘まみ、鎖ごと持ち上げた。
「母の形見です。……小さい頃から、ずっと」
その瞬間、侯爵様の指先がわずかに止まった。
驚き、というより……動揺。胸の奥が冷える。
「侯爵様?」
侯爵様は深く息を吸い、ゆっくりと言った。
「その意匠……ルシアが好んだものです」
ルシア。
私の心臓が跳ねる。母とルシア様が、どうして。
◇
侯爵様は机の引き出しから小さな布袋を取り出し、中に入っていた薄い水晶片を掌に乗せた。
「これは、魔力の反応を見るための簡易具です」
私のペンダントへ近づけると、水晶片が淡く光った。
「……やはり」
侯爵様の声が、ほんの少し震える。
「このペンダントは魔法具です。保護の構造が組み込まれている」
「保護……?」
「危険な魔力に触れたとき、衝撃を和らげる。つまり――」
侯爵様は言葉を切り、私をまっすぐ見た。
「これがあったから、君は無事だった」
西棟に踏み込んだ夜。
地下研究所で、暴走の光を浴びかけた朝。
私はその瞬間、背筋がぞくりとした。偶然じゃない。守られていた。
「……母が、知っていたんでしょうか」
私の声は小さかった。
「分かりません。しかしルシアは、あなたの母上と繋がりがあった可能性が高い」
侯爵様の目に、悔しさの影がよぎる。
「私が知らないところで……」
私は思わず一歩近づいた。
「侯爵様のせいじゃありません」
言った途端、侯爵様の肩が少しだけ落ちた。
「……ありがとう」
その言葉に、胸の奥が温かくなる。
◇
夕方、客間のリリアとお茶を飲んだ。
「ペンダントが魔法具だったなんて、漫画みたいね」
「笑わないで……私もまだ信じられない」
「でも、守られてきたってことよ。あなたはひとりじゃない」
リリアの言葉が、肩の力を抜いてくれる。
私はペンダントを握りしめた。
母。ルシア。侯爵様。
点と点が、少しずつ線になり始めている。
◇
夜、部屋でペンダントを机に置き、光に透かす。
意匠の奥に、細い線――魔法陣の“構造”が見えた気がした。
「意志×魔力×構造……」
三要素の言葉をなぞる。
守るための意志。
使われた魔力。
組まれた構造。
母が残したものが、ここまで私を導いている。
**次回予告**
リリアと夜更けまで語り合う女子会。恋の話に、救出の恐怖に、そして侯爵様の本音――「目は、あなただけを見てるわ」と背中を押されて、私は真っ赤になる。
第23話「リリアとの語らい」をお楽しみに!




