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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第I部: 到着と発見

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第21話: 図書室での魔法理論学習

あの日――地下研究所で装置が暴走してから、私は「わかった気になっていること」が怖くなった。


知らないまま踏み込むのも危険だけど、半端に理解したつもりで触るのも、もっと危ない。


だから私は、屋敷の図書室にこもった。



重い扉を押すと、紙と木の匂いが静かに胸へ入ってくる。棚の背表紙は古びていて、指で触ると粉のような埃がついた。


「……魔法基礎理論大全」


奥の棚の一番下。布に包まれた一冊を引き出すと、表紙にそう刻まれていた。


ページをめくった瞬間、私は息を呑んだ。


“魔法は、意志×魔力×構造の三要素で構成される。”


意志――何をしたいか。

魔力――どれだけの力を使うか。

構造――どう実現するか。


「……これ、プログラミングだ」


口から零れた言葉に、自分で笑ってしまう。前世で私が毎日向き合っていたのは、データと処理と出力。目的と資源と実装。


世界が違っても、骨格は同じ。


私は机にノートを広げ、必死にまとめ始めた。


意志が強すぎると暴走。

魔力が足りないと失敗。

構造が不完全だと誤動作。


……まるで、システムのバランス設計そのものだ。



昼前、ページの角が指に引っかかるころ、背後で床がきしんだ。


振り向くと、侯爵様が入口に立っていた。静かなのに、空気が少しだけ整う。


「ここにいると思いました」


「すみません、夢中で……」


私はノートを差し出した。手が少し震えている。


「侯爵様、見てください。魔法の三要素理論……意志×魔力×構造。これ、私の前世の“設計”に似ていて」


侯爵様はノートに目を落とし、短く頷いた。


「基礎中の基礎です。しかし……あなたのまとめ方は実に分かりやすい」


「私の言葉は、変じゃないですか」


「変ではありません。むしろ、私たちが見落としてきた視点です」


胸がふっと軽くなる。


“前世の知識は異物”だと思っていた。でも、ここでは役に立つ。必要とされる。


侯爵様は続けた。


「意志は、術者の心に近い。魔力は体の器に近い。構造は……訓練と経験です」


「だから、君は学べば伸びる」


私の胸が、また少し熱くなった。



午後、侯爵様が庭園散歩を提案してくれた。


母なる木――古木の前に立つと、寒さの残る時期でも幹は温かい気がした。私は無意識に手を伸ばしかけて、思いとどまる。


「触れてみますか」


侯爵様の声は、背中を押すみたいに優しかった。


私はそっと幹に指を当てる。ざらりとした感触の奥で、なぜか“既視感”が走った。前世のどこか――いや、違う。もっと、わからない場所。


「……変な感じがします」


「ルシアが植えた木です」


ルシア。その名を聞くたび、書斎の肖像画が浮かぶ。


「この木は、いつか大きな力となるでしょう」


侯爵様と並んでベンチに座る。木々のざわめきと鳥の声が、危機の記憶を少しずつ薄めていく。


「今日、本当に勉強になりました」


「君は学ぶことを怖がらない」


「怖いです。でも……怖いから学びたい」


侯爵様は微笑んだ。


「その姿勢が、君を守ります」


胸の奥がじんわり温かい。安心、という言葉に似ている。



夜、部屋でノートを閉じ、今日の三要素を指でなぞった。


意志。魔力。構造。


前世の私は、構造ばかりを磨いてきた気がする。けれど、この世界では意志も魔力も同じくらい大事だ。


私は枕元の水晶箱に視線をやる。ことりは今夜は静かだった。


「明日は……母の形見を見てもらおう」


あのペンダント。侯爵様が時々、視線を止める理由。

**次回予告**

母の形見のペンダントを見た瞬間、侯爵様が一瞬だけ動揺する。それはルシアが作った“魔法具”で、私を守ってきた証だった――。


第22話「母の形見の秘密」をお楽しみに!

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