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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第I部: 到着と発見

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第20話: 修復作業と嫉妬、最適化の実践

地下研究所の朝は、地上よりずっと静かだった。魔法灯の光が淡く揺れ、装置の低い唸りだけが続く。


昨夜のことを思い出すたび、胸の奥が熱くなる。侯爵様の腕の重み。心臓の音。手を繋いだ温度。


けれど、温かいだけでは終われない。


私は資料の束を抱え、魔法陣の前に立った。



「修復の手順は、原因の特定からです」


フィリップが端的に言う。侯爵様は頷き、私へ視線を向けた。


私は前世の記憶を、机の上に並べるみたいに思い出していた。


原因特定。影響範囲。修正。テスト。


「……ネットワークの障害対応に似てます」


言いながら、自分でも少し驚く。魔法回路の配置が、システム図のように見える。魔力フローはデータフローだ。


「まず、滞っている箇所――ボトルネックを見つけましょう」


フィリップが目を丸くした。


「素晴らしい洞察力ですね! その視点は新しい」


その瞬間、隣の侯爵様の気配が、ほんの少しだけ固くなった気がした。



作業に入る。


私は床の線を追い、指先で微かな熱を感じ取った。魔力が“回り続ける”場所。前世なら無限ループ、そして過負荷。


「ここ、戻り道が閉じてない。……エラーハンドリングが足りない」


口にした言葉は、魔法使いの世界では変かもしれない。でも、私には確かにそう見える。


フィリップが身を乗り出した。


「戻り道……なるほど。確かにここで渦が生まれている」


「この経路も冗長です」


私は線の束を指し示す。


「ショートカットできます。計算量を減らす……じゃなくて、魔力消費を減らす考え方」


言い直すと、侯爵様が口元を和らげた。


「君の言葉は、いつも正確に“本質”を突きます」


その一言で背筋が伸びる。


私は集中し、魔法陣の一部を書き換える。呼吸と、意志と、構造。


光が走った。


次の瞬間、体の中を温かい波が通り抜ける。


――何かが、繋がった。


机の上の水晶箱が淡く光り、文字が浮かび上がる。


【ことり】

*************

確率: 76%


スキル獲得:魔法陣解析Lv.1


解析精度が向上しました。

*************

[魔力: 10/50] (-10)


「……スキル?」


フィリップが目を輝かせる。


「やりましたね! エリアナさん、天才です。まるで設計者みたいだ」


興奮した勢いで、フィリップの手が私の肩に触れた。


その瞬間、侯爵様の表情が一瞬で凍る。


「フィリップ。この部分は私が担当します」


声に棘があった。


フィリップは気づかず、首を傾げる。


「え? はい、もちろん……」


私は侯爵様の視線を感じ、頬が少し熱くなった。



休憩時間。


フィリップが片付けながら言った。


「エリアナさん、一緒にお茶でも。頭を使いましたし」


「ありがとうございます。少しだけ――」


言い終わる前に、侯爵様が一歩前に出た。


「エリアナさんは、私と約束があります」


「え?」


初耳だった。


侯爵様が私の手を取る。強い。逃がさない強さ。


「少しお話ししたいことが」


有無を言わさず、私は連れ出された。背後でフィリップが困惑した声を上げた気がするけど、振り返れなかった。



研究所の奥の小部屋。魔法灯が一つだけ灯り、外の作業音が遠い。


侯爵様が手を離し、少し気まずそうに目を逸らした。


「……すみません。少し、一人占めしたくなりました」


子どもみたいに拗ねた声。そんな声を出す人だなんて。


私は思わず笑ってしまった。


「嫉妬、ですか?」


侯爵様の頬が赤くなる。


「……そうかもしれません」


正直に認めるのが、ずるい。胸がきゅっと鳴ってしまう。


「私は、侯爵様とご一緒したいです」


そう言うと、侯爵様の肩から力が抜けた。


「本当ですか」


「当然です」


お茶の香りが、小さな部屋に満ちる。温かい湯気。静かな時間。


侯爵様はカップを手にしたまま、低く言った。


「あなたは本当に素晴らしい。……でも、それを他の人に取られるのは、嫌なのです」


その独占欲が、怖いどころか、愛おしい。


私はカップを置き、そっと侯爵様の指に触れた。


「取られません。私はここにいます」


侯爵様が、やっと笑った。



作業に戻ると、魔法陣の光は安定し始めていた。


フィリップが確認し、侯爵様が最後の調整を行う。私も線を追い、変化を目で、肌で確かめる。


やがて、水晶箱が静かに輝いた。


【ことり】

*************

確率: 82%


接続が安定しました。

ありがとうございます。

*************

[魔力: 0/50] (-10)


私は笑ってしまう。魔力は空っぽでも、胸は満たされている。



夜、部屋に戻り、机の上にことりを置いた。


「……前世の経験が、この世界でも意味を持つんだね」


そして、昼の侯爵様の拗ねた顔を思い出す。


頬が緩む。


「可愛かったな……」


ベッドに横になり、目を閉じた。明日もまた、学んで、進む。

**次回予告**

図書室で古い魔法理論書を見つけ、魔法の基本原理を学び始める。「意志×魔力×構造」――それは前世の“設計”にも似ていて。庭園の古木の下、侯爵様と静かな時間を過ごす。


第21話「図書室での魔法理論学習」をお楽しみに!

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