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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第I部: 到着と発見

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第19話: ことりの異変と救出

朝、カーテンの隙間から光が差し込むのに、眠りは浅かった。


昨夜の、揺れる確率表示。途切れる文字。ことりの沈黙。


私は洗面台の前で髪をまとめ、深呼吸して机へ向かった。


【ことり】

*************

確率: 29%


お……は……よ……う……


状……態……不……安……定

*************

[魔力: 40/50] (-10)


「そんな……」


いつもなら整っている光が、今は点滅して読み取りづらい。


「大丈夫? 原因はわかる?」


光が弱まり、文字は途中で止まった。続きを待っても、何も出てこない。


私は拳を握りしめ、すぐに扉を開けた。侯爵様に報告しなきゃ。ことりを“装置”として扱うんじゃない。助けてもらった相手として、放っておけない。



地下研究所に降りる階段は、前に来た時より冷たく感じた。


侯爵様とフィリップが先に到着しており、魔法陣の中心部に資料を広げている。


「ことりが……今朝もおかしいんです」


私の声に、侯爵様の表情が引き締まった。


「見せてください」


水晶箱を机に置くと、フィリップが覗き込み、眉を寄せる。


「回路の波形が乱れています。接続先の魔法陣にも、揺らぎが」


床の紋様が、心臓みたいに脈打っていた。規則正しくあるべき魔力の流れが、どこかで引っかかっている。


「このままでは危険です」


フィリップの言葉に、侯爵様が即座に頷く。


「すぐに修復の準備を」


私は一歩前に出た。


「私も、手伝います。……ことりのこと、私のことでもあるから」


侯爵様の視線が私に止まり、短く、でも確かな声が返った。


「無理はしない。君の安全が最優先です」


その言葉に、胸が少しだけ落ち着く。怖いのに、支えられている。



魔法陣の中心部へ近づくほど、空気が薄く、耳が詰まるようだった。


フィリップが指で線を追う。


「ここです。エネルギーの流れが不安定で、戻りが発生している」


戻り。前世ならループだ。


私は息を飲み、目を凝らした。


「……ここ、分岐が多すぎる。戻り道が閉じてない」


口にした瞬間、紋様が一段強く光った。


「エリアナさん?」


フィリップが驚いた声を出す。そのとき。


――轟音。


装置が震え、床の魔法陣が眩い白に染まった。


「下がって!」


侯爵様の声が届く前に、足元から引き剥がされる感覚が走る。魔力の渦。風じゃないのに、髪が舞い、身体が持ち上がる。


「……っ!」


恐怖で声が出ない。私は手すりを掴もうとして、指が滑った。


次の瞬間――


「エリアナ!」


侯爵様が駆け寄り、私を押し倒すように抱え込んだ。


床に背中が当たる。上から覆いかぶさる体温。重み。強い腕が私を完全に包む。


光と衝撃が、二人の上を通り過ぎた。


耳鳴りの中で、侯爵様の息遣いだけが聞こえる。心臓の鼓動が、私の頬のすぐ横で激しく鳴っていた。


――生きてる。


そう思った瞬間、涙が勝手に溢れた。



静寂が戻る。魔法陣の光が、弱く点滅するだけになった。


侯爵様がゆっくり体を起こし、私の顔を覗き込む。近すぎて、息が触れそうで、胸が痛い。


「大丈夫ですか。怪我は?」


「はい……侯爵様は?」


「私は平気です」


でも、肩口に赤い線が見えた。薄い傷。私のせいだ。


「ごめんなさい……私が、近づいたから……」


言い終わる前に、侯爵様の腕が私を引き寄せた。


抱きしめられる。優しく、でも逃がさない力で。


「謝らないで」


耳元の声は、私の泣き声より静かだった。


「あなたが無事で良かった。それだけが大切なのです」


胸に頬を押し当てると、鼓動がまだ速い。私を失うのが怖い――その気持ちが伝わって、涙が止まらなかった。



遅れてフィリップが駆けつけ、休憩室へ移動した。


「お二人とも無事で良かった……本当に」


フィリップが消毒薬を取り出し、侯爵様の傷を手当てする。私はその間、侯爵様の手を握っていた。離したら、また何かに攫われる気がした。


フィリップが消毒薬を取り出し、侯爵様の傷を手当てする。私はその間、侯爵様の手を握っていた。


「装置は一時的に停止しました。原因は……過負荷ですね」


「修復には時間がかかるでしょう」


侯爵様は頷き、私を見た。


「今日はここまでにしましょう。君は休むべきです」


「でも、ことりが……」


「守ります。私たちで」



夜。テラスに出ると、空気が冷たいのに、昼の恐怖がまだ肌に残っていた。


侯爵様が隣に立ち、欄干に手を置く。


「今日は怖かったでしょう」


「……怖かったです。でも、侯爵様がいてくださったから」


侯爵様が私を見た。


「私は……あなたを失うことが一番怖い」


言葉が、胸に落ちる。


私は小さく息を吸って、答えた。


「私も……同じです」


囁くと、侯爵様は少しだけ微笑んだ。


手が触れ、指が絡む。


温かい。安心が、体の中でじわりと広がる。


――ことりも、無事でいて。

**次回予告**

魔法陣の修復作業が本格的に始まる。前世の「デバッグ」の感覚を頼りに、私は魔法陣の“バグ”を見つけていく。けれどフィリップが私を褒めた瞬間、侯爵様の様子が……?


第20話「修復作業と嫉妬、最適化の実践」へ続く。

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