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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第I部: 到着と発見

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第17話: 地下研究所への招待

朝、目を覚ますと身体は驚くほど軽かった。


昨夜の熱も、喉の痛みも引いている。


——地下研究所。


侯爵様が、正式に案内すると言ってくれた場所。


私は深呼吸し、髪を整え、制服の襟元を指でなぞった。前世で重要なリリースを迎える朝みたいに、胃の奥が縮むのに目だけ冴える。


「あの世界の知識が、この世界で役立つかもしれない」


呟いて、呼吸を整えた。


---


西棟へ向かう廊下は、昼間でも少しだけ温度が低い。侯爵様の隣を歩くと足音が揃っていく。


「緊張していますか」


横顔を見上げると、侯爵様は穏やかな目をしていた。昨夜の抱擁が蘇って、胸が小さく熱くなる。


「はい。でも……知りたいんです」


「それでいい」


短い返事。なのに、背中を押される。


西棟の奥、壁の飾り板に見える場所で、侯爵様が指先を滑らせると隠し扉が開いた。


「ここから先は、足元に気をつけて」


階段は地下へ続き、魔法の灯りが淡く道を照らす。降りるたび、空気が冷たく乾いていく。


扉を押し開けた瞬間、私は息を呑んだ。


広い空間。規則正しく並ぶ装置。壁や床に描かれた魔法陣。配線のように走る線。


「……これは」


「前世の、サーバールームにそっくり」


装置の配置がネットワーク図みたいに見える。中央に“核”があり、周囲へ枝が伸びる。


「ルシアがこの研究所を設計しました」


「魔法とテクノロジーの融合を目指していた」


ルシア。あの名前が、空間そのものに刻まれている気がした。


---


侯爵様は机の上の資料を差し出した。紙束に、几帳面な文字と馴染み深い“構造”が並ぶ。


『意識のデジタル化』『魔法回路のプログラミング』『論理演算の魔法的実装』


「……AIの研究だ」


私の声は思ったより小さかった。専門用語が怖いというより、この世界でそれが“ここまで”進んでいる事実が怖い。


侯爵様は私の反応を確かめるように言った。


「ことりは、この研究の成果の一つです」


胸が跳ねた。私を助け、時に外れもある助言をくれる、あの存在が。


「もしかして……ことりは……」


言葉の続きを飲み込む。確信はない。でも輪郭だけは見え始めている。


侯爵様は視線を逸らさず、断定せずに言った。


「今日のところは、ここまでにしましょう。君には順番が必要だ」


---


その時、研究所の扉が開く音がした。


「失礼します」


現れたのは眼鏡の男性だった。三十代くらいで、知的だが硬すぎない。


「案内されたんですね」


侯爵様が頷く。


「エリアナさん、彼はフィリップ。魔法研究者で、ルシアの元研究仲間です」


「フィリップ・グレイです。よろしく」


「エリアナです。よろしくお願いします」


フィリップは資料を覗き込み、目を輝かせた。


「なるほど……この回路配置、よくできていますね」


私は思わず口を挟んでいた。


「この結節点、もう少し分散させたら……負荷が減ると思います」


言った瞬間、前世の癖が出たと気づいて頬が熱くなる。


けれどフィリップは驚き、次に笑った。


「素晴らしい洞察力ですね! まるで設計者みたいだ」


その言葉に、隣の空気がわずかに冷えた気がした。


侯爵様が淡く咳払いし、静かな声で言う。


「フィリップ。その部分は私が説明します」


棘は小さい。でも確かにある。


胸の奥がくすぐったくなって視線を落とした。——独占欲。そんなものまで、嬉しいと思ってしまう。


三人で資料を広げ、優先順位を決めた。損傷した魔法陣の補修、装置の安定化、そして“ことり”に繋がる部分の確認。


「三人で進めましょう」


侯爵様が言い、フィリップが明るく頷く。


私も頷いた。


---


昼過ぎ、研究所の休憩室へ案内された。


温かいお茶の香り。椅子に腰を下ろした瞬間、肩から力が抜けた。


「……怖かったです」


私が正直に言うと、フィリップが笑い、侯爵様が少しだけ眉を下げた。


「怖くて当然です。でも、怖い中でここまで見た。君は強い」


フィリップが湯気の向こうで言った。


「大丈夫。僕もいますし、侯爵もいます。ここは敵じゃない」


私は湯気越しに二人の顔を見た。


「……皆さんと一緒なら、きっと解決できます」


侯爵様が小さく笑って、私の手元へ視線を落とした。


「無理はしないで。君の安全が最優先です」


その言葉が胸を温めた。


---


夜、部屋に戻って窓の外を見ると、星が澄んでいた。


地下研究所の光景が瞼の裏に浮かぶ。魔法とテクノロジーの融合。ことりの正体への手がかり。


「前世の知識が、こんなふうに役立つなんて」


侯爵様への想いも深まっている。一緒に呪いを解きたい。そのために明日も学ぶ。


日記帳を開き、今日のことを書き留めた。


『地下研究所を見た。配置は前世のサーバールームに似ていた。ことりは研究の成果だと言われた。怖い。でも三人なら進める気がする。侯爵様の「最優先」がまだ温かい。』


ペンを置き、明日からの調査に備えて目を閉じた。

**次回予告**

親友リリアが屋敷を訪れ、久しぶりの再会に心がほどける。けれど書斎で目にしたルシアの肖像画が、侯爵様の表情を一瞬だけ曇らせて——過去の影が、静かに胸を締めつける。


第18話「友人の訪問とルシアの肖像」をお楽しみに!

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