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異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第V部: 決戦と新たな始まり

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第158話: 結婚式

朝の控室で、私は深呼吸を繰り返していた。仕立て係が最後のピンを留め、鏡の中の私は少しだけ大人びて見える。窓の外からは祝鐘の音。今日が本当に来たのだと、やっと実感した。


---


式場入口でアレクサンダー様と並ぶ。彼は驚くほど落ち着いていて、私の震える指先をそっと包んだ。


「大丈夫」


その一言で、胸の鼓動が整う。ことりは省電力待機のまま、必要時だけ補助する設定にしていた。今日は演算より、誓いの声を大事にしたい。


---


昼、式場中央。聖職者の言葉が高い天井へ反響し、来賓の視線が私たちへ集まる。花の香り、楽器の低音、衣擦れの音。世界のすべてがこの瞬間へ集まっているみたいだった。


誓いの言葉を交わすとき、私は自分の声が震えていないことに驚いた。


「どんな日も、あなたの隣で生きます」


アレクサンダー様はまっすぐ頷き、同じ強さで誓いを返す。拍手が広がり、私は涙をこらえきれず笑ってしまった。


「永遠に、君を愛する」


その言葉が落ちた瞬間、式場の空気がふわりと揺れた気がした。私は頷いて一歩近づき、彼の口づけを受ける。短いはずの一瞬が、長い旅路のすべてを優しく肯定してくれるようだった。


来賓席からあがった拍手は、さっきよりも大きく、あたたかい。リリーの泣き笑いの声まで聞こえて、私は笑いながらもう一度だけ目元を拭った。


聖壇の両脇で、私は祭式の演出として微光の魔術を一度だけ起動する。白金の粒子が花弁のように天井へ昇り、誓いの言葉を静かに包んだ。戦いのためではなく、祝福のために使う魔法。胸の奥が、じんわりと熱くなる。


その裏で、ことりが進行補助を短く表示する。


> 進行状態を確認して。


【ことり】

*************

確率: 94%


進行補助:

次手順まで 40秒。

誓約記録、正常保存。

*************

[魔力: 120/150] (-10)


伝統の儀式と、小さな技術の支え。どちらも今日の私たちには必要だった。


---


昼下がり、控室通路で小さな混乱が起きる。来賓の一人が席次を誤解し、護衛が対応に迷った。私は駆けつけ、ことりを起動する。


> 最短で穏便に収束する手順を。


【ことり】

*************

確率: 90%


推奨:

1) 案内役を交代

2) 当該来賓へ個別説明

3) 主会場導線を一時切替

*************

[魔力: 110/150] (-10)


護衛隊が即座に動き、誤解は数分で解けた。来賓は恐縮し、私は「お気になさらず」と笑って送り出す。誰も傷つかない形で終われたことが、何より嬉しい。


---


夜、庭園の祝宴は灯りの海だった。仲間たちの笑顔、杯の音、甘い菓子の匂い。リリーは案の定泣きながら笑い、フィリップさんは祝辞を三回書き直した紙を握っていた。


ことりが最後に短いログを出す。


> 祝宴終了までの安全確認をお願い。


【ことり】

*************

確率: 97%


本日の安全評価: 良好。

全工程、問題なく完了しました。

*************

[魔力: 100/150] (-10)


私はアレクサンダー様と視線を交わし、静かに頷く。ここまでの戦いも痛みも、全部抱えたまま、それでも今日を迎えられた。


---


祝宴の後半、私は庭園の端で少しだけ一人になる時間をもらった。花壇の間を抜ける夜風は冷たく、頬をやさしく撫でる。遠くでは仲間たちの笑い声が続いていて、その音が胸の奥へ穏やかに染み込んだ。


ふと足音が近づき、アレクサンダー様が隣に立つ。


「逃げてきたのか」


「少しだけ呼吸しに」


「同じだ」


二人で並んで夜空を見上げる。星は驚くほど澄んでいた。戦いの夜に見た星と同じはずなのに、今日の光はやわらかい。


「この先、穏やかな日ばかりじゃないですよね」


私の言葉に、彼は正直に頷いた。


「ああ。だが、今日のような日を守るために働けるなら、それでいい」


私は小さく笑う。


「私も同じ気持ちです」


そのとき、リリーたちがこちらへ手を振っていた。呼ばれて戻る途中、私はもう一度だけ振り返る。灯りに照らされた式場、揺れる花飾り、祝福の余韻。すべてが現実で、夢ではない。


席へ戻ると、フィリップさんが不器用な祝辞を読み始め、途中で噛んでしまった。皆が笑い、本人も照れて笑う。そういう小さな失敗まで含めて、今日という日が愛しい。


アレクサンダー様は私の耳元で、誰にも聞こえない声で囁く。


「今日の君は、世界でいちばん綺麗だ」


私は照れて視線を落としながら、それでも手だけは離さなかった。こういう不意打ちに、私はたぶん一生慣れない。


私は杯を持ち上げ、静かに誓った。これからも、守るべきものを守る。守られるだけではなく、自分の足で立って。


---


宴の終盤、私は一人ずつへ礼を伝えて回った。戦時に支えてくれた人、復興で汗を流した人、今日を静かに見守ってくれた人。短い言葉でも、目を見て伝えるたび胸の奥が温かくなる。祝福は受け取るだけでなく返していくものなのだと、今日ようやく実感した。私は最後に会場を振り返り、静かに一礼してから席へ戻った。


席へ戻る途中、花弁が靴先へひとひら落ちた。私はそれをそっと拾い、胸元のしおりへ挟む。今日の記憶を、明日からの支えとして持ち歩くために。


幸せは儚いものではなく、守り続けるものだと私は知った。


私はその守り手でありたいと、静かに願った。


この日を境に、私たちの物語は「戦って勝つ物語」から、「守って育てる物語」へ変わる。そう信じられるだけの光が、いま確かにここにある。

祝福の灯りを胸に、私たちは夫婦として最初の朝へ向かう。

次話、第159話「新婚生活」。


本日最終160話まで一気に4話公開します。

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