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異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第V部: 決戦と新たな始まり

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154/160

第154話: エリアナの返事

昼、控え室では来賓同士の低い交渉が続いていた。笑顔のまま譲歩を迫る声、扇の陰で交わされる視線。私は直接踏み込まず、必要な情報だけ拾う。


「祝福しますよ、もちろん」


ある貴族はそう言いながら、指先で封書の端を折った。言葉と態度の温度差が、むしろ分かりやすい。私は感情を飲み込み、今夜の警備を厚くする決断をした。




警備指揮所でことりを連続起動する。


> 会場内のリスク分布を表示。


【ことり】

*************

場内管理:

北翼控室に人流偏在。

警戒度を一段階上げてください。

[魔力: 100/150 (-10)]

*************


> 祝宴監視、緊急導線を再計算。


【ことり】

*************

非常導線を更新。

第三廊下を開放推奨。

護衛再配置を提示しました。

[魔力: 90/150 (-10)]

*************


夕方、軽い混乱が起きた。来賓の一団が誤って閉鎖区画へ入りかける。


> 緊急対処手順を簡潔に。


【ことり】

*************

対処:

1) 誘導員を二名追加

2) 封鎖表示を更新

3) 要人通路を一時分離

[魔力: 80/150 (-10)]

*************


護衛隊は即応し、混乱はすぐ収まった。大事には至らない。私は胸を撫で下ろし、遅れて空腹に気づいた。




夜、私室へ戻るとようやく静かになった。窓の外で噴水が小さく鳴る。


「今日は、長かったですね」


「だが君の返事で、すべてが前に進んだ」


アレクサンダー様の言葉に、私は笑って肩を寄せた。


「次は、穏やかな準備にしたいです」


「努力しよう」


二人で小さく笑う。祝宴の喧騒のあと、その静けさは驚くほど優しかった。




夜半、私は私室の机で来賓名簿を見返した。祝福の言葉をくれた人、曖昧な笑顔で去った人、最後まで残って手伝ってくれた人。紙の上には同じ文字列でも、心に残る温度はまったく違う。


扉が軽く叩かれ、マーガレットさんが温めたミルクを持ってきてくれた。


「お疲れでしょう。少しだけでも休んでください」


「ありがとうございます」


甘い香りを吸い込むと、ようやく肩の力が抜けた。私は杯を手に、今日一日の場面を思い返す。返答の瞬間、拍手、ざわめき、控え室での静かな駆け引き。どれも同じ日に起きたことなのに、別の世界みたいだ。


アレクサンダー様はソファで書類を閉じ、私を見る。


「君の返事で、味方も中立も動いた。明日からは政治が速くなる」


「分かっています。だからこそ、焦らず進みたいです」


彼は満足げに頷いた。


私は窓を少しだけ開ける。夜風がカーテンを揺らし、遠くで馬車の車輪が鳴る。王都は眠らない。私たちの選択が、明日の議会や市場へ届いていくのだと思うと、責任の重さに背筋が伸びた。


それでも、怖さの隣には確かな喜びがある。私は机の隅へ小さく書き込んだ。


『今日、私は自分の意思で答えた。』


その一文を見て、私は静かに笑った。




机上の帳面を閉じる前に、私は返答の言葉をもう一度だけ心の中で復唱した。今日の私は、誰かに押されて答えたのではなく、自分で選んで答えた。その事実が、祝宴の喧騒より強く私を支えている。窓の外の夜景を見つめながら、私は明日へ向けた短い行動計画を整えた。感情と責務を両立させるのが、これからの私の仕事だ。


私は最後に手袋を揃えて机へ置く。緊張で強張った指先はまだ少し熱い。それでも、この熱を持ったまま進むことが私の答えだと思えた。


私は胸元の鼓動を確かめ、静かに灯りを落とした。


答えの重みを、私はまっすぐ抱えて眠る。


迷いはない。

祝福と注目が集まる中、王都では婚約を正式に公表する式典が幕を開ける。第155話「婚約発表」をお楽しみに!

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