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異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第V部: 決戦と新たな始まり

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153/160

第153話: 正式な告白

朝の商店街は、戦後とは思えないほど賑やかだった。行き交う人の肩が触れ、果物の香りが風に乗る。私は配達袋を抱えた子どもをよけた瞬間、足元に落ちた厚紙へ気づいた。金の縁取りがある招待状。端にだけ、見覚えのある刻印が押されている。




「拾ってくださってありがとうございます、奥様」


慌てた商人へ招待状を返しながら、私は胸の奥で小さく息をついた。今日の発表は、もう王都中が知っている。午後、カフェと書斎を往復しながら段取りを詰める時間は、戦場とは違う緊張で指先が冷えた。


アレクサンダー様は公的文言の案を見せながら言う。


「形式は必要だ。だが、君への言葉は私のものにしたい」


私は笑って頷いた。


「私は、あなたの言葉で聞きたいです」




夕方、自室の書斎でことりを起動する。


> 告白文の最終チェック。表現と安全面を確認して。


【ことり】

*************

確認完了。

公的発表文: 問題なし。

私的文言: 簡潔化を推奨。

場内導線・警備配置は安全基準内です。

[魔力: 100/150 (-10)]

*************


> タイミングは?


【ことり】

*************

最適時刻: 20時14分。

祝辞前、静寂が生まれる瞬間を推奨。

[魔力: 90/150 (-10)]

*************


私は端末を閉じ、鏡の前で深呼吸した。戦うときの息とは違う。怖いのは失敗ではなく、幸せを受け取る覚悟の方だった。




夜、広間中央。来賓のざわめきが静まり、蝋燭の炎だけが揺れる。アレクサンダー様は壇上から降り、私の前で片膝をついた。


「エリアナ。侯爵としてではなく、アレクサンダーとして願う。私の伴侶になってほしい」


息を飲む音が広間を巡る。私は胸がいっぱいで、すぐには声が出なかった。


「……はい。喜んで」


言えた瞬間、拍手が波のように押し寄せる。リリーは泣きながら笑い、フィリップさんは眼鏡を拭い、セレスティアさんは腕を組んだまま小さく笑った。祝福の中に政治的な視線も混じるけれど、いまははっきり分かる。私はこの人と進む。


アレクサンダー様が立ち上がり、私の手を包んだ。その温度に触れた途端、長い戦いの終わりと新しい始まりが、同時に胸へ降りてきた。




祝辞の列が落ち着いたあと、私は控え室へ移って深呼吸した。豪奢な室内なのに、耳にはまださっきの拍手が残っている。手のひらには、彼に握られた温度がはっきり残っていた。


リリーが扉を閉めるなり抱きついてくる。


「おめでとう、エリー!」


「ありがとう。まだ少し夢みたい」


フィリップさんは咳払いしながら花束を差し出し、セレスティアさんは「泣き顔は見せないって決めてたのに」と目元を拭った。どの反応も、その人らしくて愛おしい。


私は窓辺へ寄り、夜の王都を見下ろす。灯りが無数に瞬いている。あの一つひとつに暮らしがあり、今日の言葉はそこへ波紋のように広がっていくのだろう。


「怖いですか」


背後からアレクサンダー様が問う。


「はい。でも、嬉しいです」


「同じだ」


彼は隣に立ち、私と同じ景色を見る。その横顔に、侯爵としての責任と、一人の人間としての不器用な優しさが重なって見えた。


「明日から、もっと忙しくなりますね」


「なら、今日のうちに笑っておこう」


私は頷き、少しだけ肩を預けた。未来は簡単ではない。それでも、この人となら選び続けられる。


夜更けに残務を終えたとき、私は自分の名で書かれた公式記録を見た。そこには硬い文体で婚約の準備開始が記されている。けれど私の心に残るのは、あの壇上で聞いた一言だけだった。




深夜、控え室に戻ってから私は今日の発言録を読み返した。公的な文章はどこまでも硬いのに、その行間へ確かに私の鼓動が残っている気がする。私は招待状を束ね直し、明日の導線メモへ小さく印を付けた。祝福の声に浮かれるだけでは足りない。だからこそ、足元の準備を丁寧に積む。そう決めると、胸のざわめきがすっと静まった。


机の隅に置いた花束へ視線を移し、私は小さく笑う。どれほど公的な場でも、最後に私を支えるのは人の温度だ。私は礼状を書くための紙を取り出し、最初の一行を丁寧に記した。


明日の私は、今日の勇気をそのまま抱えて人前に立つ。


その覚悟を、私はもう疑わない。

公の場で想いを受け取ったエリアナは、王都中が見守る中で自らの返答を示す。第154話「エリアナの返事」をお楽しみに!

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