表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第V部: 決戦と新たな始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

152/160

第152話: 朝日

八月七日の朝、宿営地の天幕を透かした光は思ったより柔らかかった。戦いの翌朝なのに、鳥の声が聞こえる。私は毛布を畳みながら、これが戻ってきた日常の音なのだと、遅れて実感した。




負傷者の列では、看護班が黙々と包帯を替えていた。湯気の立つ薬草茶、湿った布、消毒の匂い。私は一人ずつ顔を見て声をかける。昨日まで敵の術式に追われていた手が、今日は誰かの袖を直している。


ことりは省電力で待機したまま、必要なときだけ小さく光った。


【ことり】

*************

朝の健康確認を実施。

重症者の再診時刻を通知します。

*************


「ありがとう。短時間だけで十分」


私はそう返し、湯飲みを両手で包んだ。温度が指先から胸へ上がってくる。これだけで、泣きたいほど安心する。




昼、仮指揮所の広間で情報整理会議が始まった。偵察報告、資材残量、負傷状況。数字は多いのに、迷いは少ない。


> 情報統合、優先順位を提案して。


【ことり】

*************

統合表示:

最優先: 医療資材補充

次点: 西門修繕

第三: 市民向け告知

推奨行動をタグ付けしました。

[魔力: 70/150 (-10)]

*************


幹部たちが表示を見て即座に役割を分ける。私は項目を読み上げ、アレクサンダー様が決裁する。


「無理に全部やらない。今日やるべきことだけ確実に」


その言葉で、室内の空気が整った。


会議の終盤、私はもう一度ことりを起動した。


> 午後の行動案、二つだけ。


【ことり】

*************

提案A: 復旧班を二分して時短。

提案B: 市民説明会を先行実施。

期待効果を比較表示しました。

[魔力: 60/150 (-10)]

*************


私たちはAを採用し、Bを夕方へ回すことに決めた。




夕方、広場脇の小さな茶屋で短い休憩を取る。焼き菓子の甘い匂い、木椅子のきしむ音、笑い声。リリーが「戦場で食べる固いパンより百倍おいしい」と頬をふくらませ、セレスティアさんが「比較対象がひどい」と呆れる。


私はそのやり取りを見て、ことりを使わない時間の大切さを思う。分析や最適解だけでは埋まらないものが、人の間にはある。




夜、応急指揮所で最終確認を行う。


> 明朝までのチェックリストを表示して。


【ことり】

*************

夜間チェック:

1) 見回り交代

2) 再診対象の確認

3) 物資搬入時刻の再通知

[魔力: 50/150 (-10)]

*************


私は紙へ写し取り、アレクサンダー様に渡した。


「明日からは、戦うためじゃなく、暮らすために動きたいです」


「そのために勝ったんだ」


彼の言葉に、私はゆっくり頷いた。灯りの下で交わしたその約束が、朝日より確かな希望に思えた。




会議を終えたあと、私は広場の端にある井戸で顔を洗った。冷たい水が頬を打ち、頭の奥の熱が少し下がる。振り返ると、復旧班の若い兵士たちが笑いながら資材を運んでいた。ぎこちない笑顔でも、昨日より確かに明るい。


「エリアナ様、これ見てください」


子どもが差し出したのは、煤けた木片に描いた拙い絵だった。大きな太陽と、小さな人がたくさん。真ん中には、私とアレクサンダー様らしい二人が手を繋いでいる。


「上手だね」


そう言うと、子どもは照れたように笑って走っていった。私は木片を胸に抱き、なぜだか涙が出そうになる。守りたかったのは、きっとこういう朝だ。


夕暮れ、補給所の点検で倉庫を回る。袋詰めの穀物、乾燥薬草、修繕用の釘箱。どれも地味で、英雄譚にはならない。でも生活は、こういう小さな物資の積み重ねでできている。


アレクサンダー様が荷札を確認しながら言う。


「戦後の統治は戦場より地味だ。だが、ここで手を抜けば次の不安を生む」


「はい。地味な方を、丁寧にやりたいです」


彼は満足そうに頷いた。


夜更け、私は書きかけの日誌へ一行加える。


『今日、王都は少しだけ普通の町に戻った。』


それだけで、胸が温かくなった。


日誌を閉じる前に、私はページの端へ小さな印を付けた。戦闘記録ではなく生活記録として残すための印だ。これから必要なのは、危機の回避だけではなく、穏やかな日々を積み上げる技術だと思う。私は灯りを落とし、明日の予定を頭の中で静かに並べてから、ようやく寝台へ身を沈めた。

復旧が進む王都で、アレクサンダーは公の場でエリアナへ正式な想いを告げる決意を固める。第153話「正式な告白」をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ