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異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第V部: 決戦と新たな始まり

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150/160

第150話: 決着

中央広間へ戻ったとき、夜の空気は焼けた金属の匂いで満ちていた。崩れた柱の影で敵主力が再編され、最後の圧力をこちらへ向けてくる。私は握った杖の先がわずかに震えるのを感じた。




「ここが最後です」


私の声に、仲間たちが無言で頷く。アレクサンダー様は剣を構え、前へ一歩。


> 最終戦況、要点だけ表示して。


【ことり】

*************

最終戦況:

敵主力は中央一点集中。

左翼が薄い。

推奨: 侯爵様とエリアナさんの同時突破。

成功確率: 74%

[魔力: 10/150 (-10)]

*************


魔力残量はほとんどない。だからこそ、迷わない。私は左翼へ偽装圧をかけ、アレクサンダー様が中央へ踏み込む導線を作った。




戦場中央で、私たちは合流する。息を合わせるだけで、次に何をするか分かるようになっていた。


「三拍で崩す」


「了解」


一拍目で私が防壁の節を切る。二拍目でアレクサンダー様が核へ斬撃を入れる。三拍目、リリーの光とセレスティアさんの雷が重なり、ヴィクター側の中核術式が縦に割れた。


フィリップさんが叫ぶ。


「照合一致、再起動不能です!」


中核術式は崩壊し、再編の気配が消える。不可逆。長く私たちを追い詰めた回路は、もう戻らない。


ヴィクターは崩れた装置越しにこちらを見たが、何も言わなかった。代わりに黒衣の裾を翻し、崩落する奥部へ消える。追う必要はない。システムそのものが終わった。




勝利の直後、代償が現実に戻ってくる。負傷者のうめき、割れた床、血の匂い。私はひとりずつ顔を確認し、手当ての列を整える。


同時に研究班は、ルシアの記録とことりの解析ログを突き合わせ、未知符号の無力化手順を実行した。封印解除の最終調整、結節の中和、残留反応の固定。作業は苛烈だったが、完了報告は明瞭だった。


「主要脅威、管理下ではなく、根本から制御完了です」


その言葉に、私はようやく背中の力を抜いた。終わったのだ。




深夜、指揮所の仮机で最後の確認を行う。


【ことり】

*************

収束ログ:

主要脅威は不可逆に解消。

残件なし。

戦後手順へ移行してください。

*************


夜明け前の薄い光が、壊れた窓から差し込む。私はアレクサンダー様と並んでその光を見た。


「長かったですね」


「だが、君と来た道だ」


その一言に、涙がこぼれそうになる。私たちは立ったまま、静かに朝を待った。




夜明け前の処置室で、私は負傷者の名簿を閉じた。勝利の報告書より、この名簿の方が重い。戻ってこなかった名前はない。けれど、傷跡が消えるわけではない。私は一人ずつの寝息を確かめ、毛布の端を整えて歩いた。


マーガレットさんが湯気の立つ鍋を抱えてくる。


「皆さん、少しずつでも召し上がってください」


湯の匂いが部屋へ広がり、張りつめた神経がゆっくり解けていく。リリーは匙を持ったまま居眠りを始め、セレスティアさんが呆れながらその肩へ上着を掛けた。


「終わったんだな」


フィリップさんの呟きに、私は小さく頷く。


「終わらせた、が近いかも」


誰かがやってくれた結末じゃない。痛みも迷いも抱えたまま、私たちが選び取った終わりだ。それが誇らしく、同時に怖くもある。終わった先の暮らしは、戦いよりも曖昧だから。


アレクサンダー様は窓際で朝焼けを見ていた。私は隣に立ち、同じ空を見上げる。雲の縁が淡く金色に変わっていく。


「ここから先、何を最初にしたいですか」


私が問うと、彼は少し考えてから答えた。


「君と、普通の朝食を食べたい」


思わず笑ってしまう。大きな理想より、そんな願いの方がずっと現実的で、温かい。


「私もです」


私たちは短く指を重ねた。戦いの終わりに誓うのは、英雄譚じゃない。明日も同じ卓を囲むという、ささやかな約束だ。それが守れる世界を作るために、私はまだ歩き続ける。


朝の最初の光が床を白く染める。私はその光へ掌をかざし、熱も痛みもある自分の手を見つめた。この手で壊し、この手で守り、この手でようやく終わらせた。完璧な勝利ではない。それでも、もう誰かに奪われるだけの私ではない。そう思えたことが、いちばんの収穫だった。


私は静かに息を吐き、処置室の扉を開けた。ここから先は、守るための日常を作る仕事が始まる。

中枢を失った結社は急速に瓦解し、一行は地上への帰還に動き出す。第151話「結社の崩壊」をお楽しみに!

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