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【第III部 開始】異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第I部: 到着と発見

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第15話: 禁じられた扉

午前一時。


眠れない。


恋心を自覚してから、侯爵様のことばかり考えてしまう。


秘密。西棟。ルシア。呪い。


「もっと侯爵様のことを理解したい」


窓の外を見れば、西棟の方角に、わずかな灯りが揺れていた。


今なら。


そう囁く好奇心に、約束が抵抗する。


――禁止されている。


それでも、知りたい。


私はローブを羽織り、音を殺して部屋を出た。


---



暗い廊下を進むたび、心臓の音が大きくなる。


西棟への扉の前で、一瞬だけ立ち尽くした。


「ごめんなさい、侯爵様……でも」


取っ手は冷たく、指先から迷いが伝わる。


意外にも鍵はかかっていなかった。


扉を押し開けた瞬間、埃の匂いが鼻を刺した。空気が古い。


長い廊下に扉が並び、奥から微かな光と、規則正しい音が聞こえる。


前に聞いた、あの機械みたいな音。


私は息を殺して、光の方へ進んだ。


---



光が漏れる扉を、そっと開ける。


――広い。


床に描かれた大きな魔法陣。周囲に並ぶ装置。整然とした配置。


その規則正しさが、前世の記憶を引きずり出した。


「……機械室みたい」


中央の装置が淡く脈打ち、音を刻む。


そして机の上に、古いノートが一冊。


近づいた瞬間、胸が跳ねた。


――ルシアの筆跡。


夢中でページをめくる。


『意識の転送実験 記録 No.47』

『魔法とプログラミングの融合』

『器への定着率:78%』


言葉が頭の中で繋がっていく。


怖いのに、目が離せない。


---



ノートに夢中になりすぎて、私は装置へ近づきすぎていた。


突然、強い光。


喉が凍り、身体が硬直する。


――魔法障壁。


頭の奥を槌で叩かれたような痛みが走り、視界が白く滲んだ。


現代日本。オフィスの白い灯り。机の角。画面の光。


AIとの会話。


「たすけ……」


声にならない。


意識が、暗い底へ沈んでいく。


---



扉が勢いよく開いた。


「エリアナ!」


侯爵様の声。


駆け寄った手がかざされ、鋭い光が走る。


障壁がほどけ、崩れ落ちる私を、侯爵様の腕が受け止めた。


温かい。


それだけで、涙が滲む。


「大丈夫ですか。しっかり」


声が震えている。怒っているのに、怖がっている。


こんな声、初めて聞いた。


「ごめ……なさい……」


「……無茶をして」


強く抱き締められる。


息が苦しいのに、安心してしまう。


「もう大丈夫です。私がいます」


その言葉が、暗い底から私を引き上げた。


---


気づけば、私は自室のベッドに横たえられていた。


毛布の柔らかさが肌に触れて、ようやく「戻ってきた」と分かる。それでも身体はまだ小刻みに震えて、喉の奥が痛い。


椅子を引き寄せた侯爵様は、私の手の届くところに座った。静かな横顔。けれど、その沈黙がいちばん怖い。


「なぜ、西棟に」


責めるより先に、深い息。


私は唇を噛み、正直に言った。


「……知りたかったんです。侯爵様の秘密も、ルシアの研究も」


「もっと、侯爵様のことを理解したくて」


侯爵様のまつげがわずかに揺れた。


「あなたの好奇心は理解します。ですが、あそこは危険です」


「あの障壁は――転生者の魂に反応するよう設計されている」


転生者。


胸の奥が冷える。


侯爵様は、私の顔から目を逸らさない。


「……侯爵様は」


「ええ。あなたが転生者であることは、最初から知っていました」


言葉が鋭く、でもどこか哀しい。


「あなたの魂の波動が、特別だった。だから、あなたを招いたのです」


侯爵様の手が、私の指先を包んだ。あの部屋で感じた温かさと同じ。


「あなたを危険な目に遭わせたくない。……失いたくない」


その一言で、喉が熱くなった。


「だから、まだ話せないことがあります」


「でも、いずれ――すべて話します」


真剣な目。


私は小さく頷くことしかできなかった。


「待ちます」


声が震える。


「信じて、待ちます」


侯爵様の肩から、ほんの少し力が抜けた。


「……ありがとう」


---


侯爵様が部屋を出ていくと、夜が急に広く感じた。


今夜見たもの。ルシアのノート。意識の転送。器。定着率。


転生者に反応する障壁。


繋がりそうで繋がらない輪郭の向こうに、ことりの影までちらつく。


窓の外は、薄く白みはじめていた。


怖かった。それでも――抱き締められた温かさが、まだ胸に残っている。


「侯爵様……」


名を呼ぶだけで、心がほどける。


好きだ。


もう、疑いようがない。


私は、侯爵様が大好きだ。

**次回予告**

翌朝、侯爵様はエリアナを叱責する。しかし、その言葉の裏には深い愛情が。「君を失いたくない」「かけがえのない存在」と告げられ...そして、地下研究所への正式な招待が!


第16話「叱責と守られる安心」をお楽しみに!

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