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異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第V部: 決戦と新たな始まり

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148/160

第148話: 侯爵の真の力

北側戦線の入口で、石と鉄の破片が雨みたいに降っていた。前衛は押し込まれ、救護班の担架が足りない。私は息を呑み、崩れた柱の向こうで踏みとどまるアレクサンダー様の背を見つめた。




「ここを守る。全員、私の後ろに」


低い一声だけで、散りかけた隊列が戻る。私はその背中越しに、床に刻まれた奇妙な符号を見る。呪いの余波に似ているのに、どこか違う。ことりが微弱振動を拾い、警告灯を一度だけ点滅させた。


敵の圧は強い。今のままでは持たない。私はアレクサンダー様と視線を合わせ、彼の決断を待った。


「切るべきだな」


私は頷く。あの力を使うしかない。




舞台裏の簡易指揮卓で、ことりを起動する。


> 侯爵の術式を最適化。反動を抑えて最大出力に。


【ことり】

*************

解析完了。

共振抑制を二点挿入。

出力は増加、反動も増大。

安定化手順:

- 起動前呼吸同期

- 第三節で位相補正

推奨実行者: エリアナさん補助

[魔力: 40/150 (-10)]

*************


表示の線をなぞりながら、私は専門用語を噛み砕いて伝える。


「最初に二点で揺れを止めます。三節目で私が補正します。反動は来ます」


「構わない」


アレクサンダー様の返事は短い。迷いがないぶん、怖い。私は拳を握って言う。


「終わったら、必ず休んでください」


彼はわずかに笑った。




中央戦線。日没前の薄赤い光の中で、アレクサンダー様は剣を逆手に持ち、静かに呼吸を整えた。私は背後で補正式を展開する。空気が震え、匂いが変わる。雨の前みたいな、電気を含んだ匂い。


「いま……!」


私の合図で、彼の術が解放された。白銀の奔流が一直線に走り、敵主力の術式をまとめて押し流す。轟音の直後、妙な静寂が落ちた。誰も一瞬動けない。


遅れて衝撃が戻り、瓦礫が弾ける。仲間たちが防御に入って二次被害を抑え、私は補正線を最後まで維持した。ことりの手順は正しかった。戦局は、たった一撃で反転した。




夜、救護テントでアレクサンダー様は椅子にもたれ、言葉を探すように唇を動かしていた。激しい疲労で声が途切れる。私は彼の手を包む。


【ことり】

*************

解析ログ:

出力過負荷を確認。

補正完了、長期副作用は検出されません。

短時間安静を推奨。

*************


「休んで。あなたのせいじゃない」


私の言葉に、彼はかすれた声で返した。


「まだ……終わらない」


「だからこそ、いま休むんです」


私は温かい布を取り替え、彼の肩に掛ける。外ではまだ片付けの音が続く。でもこの小さなテントの中だけは、確かな安堵があった。




救護テントの外で、私は夜風を吸い込んだ。冷たい空気が肺に刺さる。さっきまで燃えるような光に包まれていた戦場が、いまは灰色の静けさへ沈んでいる。遠くで兵士たちが瓦礫をどける音だけが、一定のリズムで続いた。


フィリップさんが報告書の束を抱えてやってくる。


「侯爵様の術、観測値が想定を超えていました。ことりの最適化なしでは制御不能だったはずです」


「代償は?」


「短期疲労が主。長期は今のところ問題なしです」


私は胸を撫で下ろした。勝てても壊れてしまったら意味がない。その恐れが、戦いの最中よりも今になって重く来る。


少し離れた場所でリリーとセレスティアさんが毛布を配っていた。二人の背中を見ていると、戦局を変えたのは大技だけじゃないと分かる。誰かが支え、誰かが繋ぎ、誰かが笑わせる。その積み重ねで、ようやく一歩進める。


テントへ戻ると、アレクサンダー様が少しだけ言葉を取り戻していた。


「エリアナ」


「はい」


「君は……怖くなかったか」


私は迷わず首を振る。


「怖かったです。でも、あなたがいたから立てました」


彼は目を閉じ、静かに息を吐く。その横顔は疲れ切っているのに、どこか穏やかだった。


「なら、私も同じだ」


私は湯を注ぎ、二人分の杯を並べた。薄い湯気の向こうで、彼の表情が少し和らぐ。大きな力の余波はまだ残る。それでも、こうして向き合って言葉を交わせるなら、次の朝も迎えられる。


テントの外では夜警の交代が始まり、金具の触れ合う音が規則的に響いた。私はその音を聞きながら、今日の戦局図を頭の中で再生する。恐怖の瞬間ほど、仲間の顔が鮮明だった。誰かの決断が遅れていたら、違う結末になっていたかもしれない。だから明日も、同じように丁寧に連携を積み上げると心に決めた。

激戦の夜、遠くから届くルシアの声が最後の鍵を示す。第149話「ルシアの声」をお楽しみに!

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