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異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第V部: 決戦と新たな始まり

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第147話: 呪いの解放

封印室の中心は、まるで呼吸する生き物みたいに膨張と収縮を繰り返していた。三重構造の最後、最終結節。ここを誤れば、解除ではなく暴走になる。私は汗で湿った手袋を外し、素手で杖を握り直した。



「配置、最終確認」


アレクサンダー様の声に、全員が位置へ着く。フィリップさんは補助器を固定、セレスティアさんは外縁の戻り流を抑え、リリーは光の中継を保つ。


私はことりを一度だけ起動した。


> 最終結節の共振点、いまの状態で示して。


【ことり】

*************

解析結果:

共振点は北西寄り 12度。

直接接触は反動大。

一点貫通より、位相をずらして封止推奨。

成功確率: 75%

[魔力: 60/150 (-10)]

*************


「北西十二度、位相ずらしで行く」


私の宣言に、アレクサンダー様が剣先を下げて合図する。怖い。でも、怖さより先に、終わらせたい気持ちが立った。




解除を始めた瞬間、封印室全体が跳ねた。床がうねり、壁面の紋様が一斉に赤転する。反動波が胸を打ち、後衛の一人が吹き飛ばされた。


「下がって、医療班!」


マーガレットさんの声が飛ぶ。アレクサンダー様が私の前へ出て、盾式を全開。衝撃が何度も盾に当たり、耳の奥で金属音が鳴り続ける。


私は結節へ手を伸ばし、符号を解く。熱い。針を刺されるみたいな痛みが腕を走る。それでも離せない。


【ことり】

*************

警告: 反動ピーク接近。

右側位相を0.3遅延してください。

*************


私は歯を食いしばって遅延を入れた。次の瞬間、暴れていた流れが一段落ちる。アレクサンダー様が低く叫んだ。


「いまだ、エリアナ!」


私は最後の封止印を叩き込んだ。




音が消えた。


さっきまで吠えていた呪詛の層が、嘘みたいに静まっている。封印室の光は弱く脈打つだけになり、焦げた匂いの中へ冷たい空気が戻ってきた。


「……解けた」


誰かの震える声に、私は膝をつきそうになる。アレクサンダー様が支えてくれた。


外廊へ移って応急手当をしながら、ことりのログが短く表示される。


【ことり】

*************

異常反応: 未知の符号を検出。

断片ログを保存しました。

追加解析を推奨。

*************


フィリップさんがすぐに記録板を受け取る。


「持ち帰って短時間で解きます。長引かせません」


私は頷いた。終わったはずの場所に、まだ薄い影がある。けれど、もう手の届く範囲だ。




待避所で水を飲みながら、次の行動を詰める。ことりが補足を示した。


【ことり】

*************

追加解析は短時間で完了見込み。

本部内で収束可能です。

*************


「なら、最後までこの部で終わらせる」


私が言うと、アレクサンダー様は静かに笑って頷いた。長い夜の先に、ようやく朝の輪郭が見え始める。




封印室外の石床に座り込み、私はしばらく動けなかった。全身の力が抜けて、指先だけがじんじんと痺れている。リリーが無言で毛布を掛け、マーガレットさんが温かい湯を持ってきてくれる。湯気に混ざる薬草の匂いが、戦闘の焦げ臭さを少しずつ押し流した。


「本当に、解けたんだよね」


リリーの問いに、フィリップさんが記録板を抱えたまま答える。


「数値上も、術式上も。間違いなく」


それを聞いた瞬間、胸の奥で固まっていた何かがほどけた。泣きそうになって、私は湯呑みを両手で握る。


アレクサンダー様が私の隣に座り、低い声で言った。


「よく耐えた」


「みんながいたからです」


「それでも、最後に触れたのは君だ」


その言葉は重く、温かかった。勝利の実感は派手に来るものではなく、こうして小さな会話の中で遅れて体へ染みるのかもしれない。


私は視線を上げ、封印室の扉を見た。もう赤い脈動はない。代わりに薄い灰色の静けさだけがある。終わったのだ。完全ではなくても、確実に前へ進んだ。


「未知符号も、片づけましょう。ここで全部」


私の言葉に、フィリップさんは力強く頷いた。


「はい。持ち帰って、今夜中に解析します」


仲間たちが各々立ち上がり、道具を整える。疲労で足は重い。それでも、誰の目にも諦めはなかった。私は毛布を返し、杖を手に立ち上がる。


終わらせる。きれいな結末ではなくても、私たちの手で終わらせる。それだけは、もう揺らがない。

呪いを解いた一行の前で、アレクサンダーの秘めた力がついに解放される。第148話「侯爵の真の力」をお楽しみに!

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