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異世界の侯爵家に招かれた元SEの私、手のひらサイズの語り箱と秘密だらけの屋敷で溺愛されています  作者: プロンプト時雨
第V部: 決戦と新たな始まり

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142/160

第142話: 中枢へ

最深部の扉が開いた瞬間、空気の温度がひとつ下がった。石ではない、金属でもない、古い脈動を含んだ壁面が淡い青を帯び、天井に走る紋様は前世で見た回路図みたいに規則正しい。胸元のペンダントがかすかに熱を持ち、私は喉を鳴らして一歩を踏み出した。




広間の中央には巨大な円環装置が浮かび、幾重もの魔法陣が重なり合っていた。ことりの表示板が勝手に灯り、私の指先より先に反応する。


【ことり】

*************

ここが全ての始まりです。

古代融合中枢、第一層を確認。

成功確率表示対象: 真実解析 82%

[魔力: 140/150 (-10)]

*************


「……やっぱり、ここだったんだね」


私が呟くと、リリーが震える声で笑った。


「怖くないよ。みんないるから」


その一言で、張りつめていた肩が少し下がる。マーガレットさんが後衛を整え、フィリップさんは記録板を抱えたまま「呼吸を合わせましょう」と小さく頷いた。私はアレクサンダー様の横顔を見て、ここまで来られた重さを改めて噛みしめる。




円環装置に近づくと、封じられていた情報層が次々と展開した。結社の目的は、呪いを解くことそのものではなく、呪いの回路を支配権として組み替えること。ルシアの研究はそのために奪われ、侯爵家の秘匿文書は中枢起動の鍵として狙われていた。


> 敵の最終目的を、要点だけ表示して。


【ことり】

*************

解析結果:

1) 呪いの中核を再定義し、支配可能な術式へ転換

2) 侯爵家血統鍵で恒常起動

3) 王都全域への段階的適用

一致度: 89%

[魔力: 130/150 (-10)]

*************


「世界を守るためじゃない。世界を握るためだったのね」


私の声が低くなる。アレクサンダー様は視線を逸らさずに言った。


「君がいてくれて良かった。真実を見誤らずに済んだ」


胸の奥が熱くなって、私は短く頷いた。ルシアが残した断片は、やっと私たちの手で意味を持ち始めている。




そのとき、奥の祭壇に黒い影が立った。拍手が一つ。乾いた音が広間に響く。


「見事だ、エリアナ。だが理解しただけでは遅い」


敵は顔を隠したまま宣言する。中枢はすでに第二段階へ移行、ここからは力で奪い合うだけだと。床下の紋様が赤く反転し、周囲の柱に仕込まれた術式が起動準備に入る。


【ことり】

*************

警告: 敵戦術は三層拘束→中枢圧縮。

推奨: 西側柱列を基点に分散防御。

回避成功率: 77%

*************


「全員で乗り越えましょう」


メイド長の声が、剣より強く背筋を伸ばしてくれた。私たちは即座に隊列を組み直し、赤い光の流れを睨みつける。




私は仲間たちを見渡し、はっきりと言った。


「必ず勝とう。ここで終わらせる」


アレクサンダー様が私の手を取り、静かに微笑む。掌の温度が、恐怖の芯を溶かしていく。遠くで起動音が重なり、決戦の幕が確かに上がった。




起動直前の数分、私たちは中央円環の外周で最終確認を重ねた。フィリップさんは記録板へ手順を走り書きし、セレスティアさんは結節番号を声に出して復唱する。リリーは胸元で両手を組み、震える息をゆっくり吐いた。


「怖い?」


私が問うと、リリーは正直に頷く。


「怖いよ。でも、エリーが前を向いてると、私も向ける」


その言葉に胸の奥が熱くなる。私は彼女の肩へ軽く触れた。


「私だって、みんながいるから立てるの。だから一緒に行こう」


マーガレットさんが湯筒から薄い薬草茶を配ってくれた。香りは控えめで、舌に乗るとほろ苦い。けれど喉を通る頃には身体の芯が温まり、乱れていた鼓動が揃っていく。戦場の真ん中で飲む一口が、こんなにも人を落ち着かせるなんて不思議だった。


アレクサンダー様は石板の地図へ指を置き、静かに言う。


「私たちは真実を知った。次は真実を守る番だ。無理はしない、だが引かない」


全員が短く頷いた。その一致が、どんな防壁より心強い。


私は最後にことりの表示を見直す。数値や推奨は道具だ。最後に選ぶのは私たちの意志。胸元のペンダントを握り、私は心の中でルシアへ語りかけた。


見ていてください。私たちはもう、奪われない。


私は記録板の余白に、いま必要な行動を三つだけ書いた。全員の退路確保、中枢への最短到達、誰も置いていかないこと。項目は単純なのに、その単純さが心を支える。複雑な真実を前にしても、次の一歩はいつも具体的だ。私は杖の握りを確かめ、仲間の呼吸へ耳を澄ませた。

最深部で真実を掴んだ一行の前に、ついにヴィクターが姿を現す。第143話「ヴィクターとの対峙」をお楽しみに!

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